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第3387号 2020年9月14日


グラフィックレコーディングのはじめかた

情報共有や自身の振り返りのために,簡単なイラストや記号を活用して記録に残す手法がグラフィックレコーディング(通称,グラレコ)。ノートを取るとき,ミニレクチャーや症例プレゼンテーションをするときなど,皆さんの身近なところにきっと役立つ場面があるはずです。それでは,新しい記録の姿をのぞいてみましょう。

[Lesson 10(最終回)]手描きでプレゼンテーション

岸 智子(福岡女子大学社会人学び直しプログラム コーディネーター)


前回よりつづく

 グラフィックレコーディング(Graphic Recording)は「ing」がつくように,その場で起きていることをその場で描くことが基本です。それだけでなく,グラフィックレコーディングの要素を取り入れ,プレゼンテーションに応用することもできます。

KP法を使ってみよう

 私が行うグラフィックレコーディングの講座では,KP法というプレゼンテーションの手法を用いて進行しています。KP法とは「紙芝居プレゼンテーション=Kamishibai Presentation」の頭文字を取った略称で,山梨県で自然観察のファシリテーターをなさる川嶋直さんが考案したものです。キーワードや短い文章,イラストなどを記した何枚かの紙(KPシート)を大きな面に貼りながら,プレゼンテーションを行う手法を指します。

 KPシートには通常A4サイズの用紙を使用します。プロジェクターなどの投影ツールは使わずに,ホワイトボードや壁面にKPシートを貼っていきます。そのため,会場内の人が読める/見える大きさの文字や絵であることが重要です。1枚あたりの情報は端的なものとし,絵や図なども用いて1行あたり10文字程度,最大でも3行にまとめて必要な情報を伝えていくとよいでしょう。手描きのKPシートを使用した場合には参加者は30人程度までが適当です。それ以上になる場合は,書画カメラなどを使うことで対応が可能です。

 要点のみが抜き出されている状態なので,聞き手は話に集中できます。また,投影されたスライドは遷移が行われますが,KP法ではKPシートが貼られて一覧化できるため,話の軌跡が見え,理解が容易になります。このこともまた,聞き手の集中力を高める要因の1つかもしれません。

 さらには難しい内容でもイラストを用いることで,興味を持ちやすくなる等の効果も期待できるでしょう。

思考の整理にも有効!

 KP法はプレゼンテーションの手法ではありますが,思考の整理法でもあります。「伝えたいことは何か」「テーマは何か」「結論は何か」「どういったストーリーだと納得できるのか」などを明らかにし,構造化していく作業が思考の整理になるからです。一見難しそうな作業に感じますが,まずは手を動かしてみることが構造化への近道です。プレゼンテーション資料を作る際に,手書きで構成やレイアウトをラフで描いてから作成,清書をする人も少なくないと思います。まさにこの作業が構造化です。頭の中を整理する上でも,KPシートを作成してみてはいかがでしょうか?

読書法の新しい形「ABD」とは?

 アクティブ・ブック・ダイアローグ®(以下,ABD)という読書法があります。ABDは,本が苦手な人でも短時間で1冊の本を読むことができる新しい読書法です。進め方は大まかに次の通りです。①1冊の本を1人あたり10ページ程度に分担,②担当ページをその場で読んで3~4枚に要約し,プレゼンテーション資料の準備,③要約を順番に発表,④担当以外のパートのプレゼンテーションの聴講,⑤参加者同士で対話をし,理解や気付きを深める。この一連のプロセスを通して本の内容を理解するのがABDです。

 この中で,②の工程でグラフィックレコーディングや先ほど紹介したKP法が大いに活用できます。ABDはその場で本を読み,要約した資料をその場で作成しますので,基本的には手描きの作業になります。つまりKPシートをその場で作成していくのです。ポイントを押さえたキーワードや,補足となる絵や図を添えることで,イメージしやすく理解しやすいプレゼンテーションとなります。

 本連載の第3回(3358号)で,「グラフィックレコーディングを用いると,記録,共有,振り返り,思考の整理,の4つのことが可能になります」とお伝えしました。それだけではなく,絵や図を用いて構造化するグラフィックレコーディングの手法や要素は,プレゼンテーションをはじめとする「伝える」ことにも力を発揮してくれます。ぜひ応用する1つの選択肢として使ってみてください。

 グラフィックレコーディングは優劣を競うものではありませんし,ルールや正解もありません。記録,メモとしての活用だけではなく,思考の整理,情報共有の手段など,さまざまな場面で思い思いの使い方ができます。本連載は今回が最後になります。これまで10回にわたりお読みいただき,本当にありがとうございました。

 ぜひ,描くことを楽しみながら実践を重ねていってください。

写真 KP法を使ってグラレコの講義をする筆者

(了)

参考文献
川嶋直.KP法――シンプルに伝える紙芝居プレゼンテーション.みくに出版;2013.

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