臨床研究の実践知
[第12回] Stepped WedgeクラスターRCT
連載 小山田 隼佑
2020.03.02
臨床研究の実践知
臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイト,Facebookを参照してください。
[第12回]Stepped WedgeクラスターRCT
小山田 隼佑(JORTCデータセンター統計部門 部門長)
(前回よりつづく)
第4回(3328号)に,ランダム化比較試験(RCT)の派生の1つであるクラスターRCTについて紹介しました。今回は最新の話題として,クラスターRCTの変法の1つである「Stepped WedgeクラスターRCT」について説明します。
介入の導入時期がクラスターごとに異なる特殊なデザイン
Stepped WedgeクラスターRCTとは,クラスターレベルで介入時期をランダム化し,順番に観察期から介入期に移行(介入の導入時期をずらして順次適用)する研究デザインです。
図は施設をクラスターとした場合の模式図で,この図の介入時期が「階段状のくさび」の形に見えたことから,「Stepped Wedge」と呼ばれるようになりました1)。T0からT1までの時期は全ての施設が観察期,つまり通常診療のみの状態を表しています。ランダム化の結果,施設③がT1の時期から介入を受けるグループに,施設②がT2の時期から介入を受けるグループにそれぞれ割り付けられ,最終的に全施設に介入が導入されることがわかります。
図 Stepped WedgeクラスターRCTの模式図(筆者作成)(クリックで拡大) |
クラスターレベルで介入時期をランダム化し,順番に観察期から介入期に移行する研究デザイン。介入時期が「階段状のくさび」の形に見えたことから,「Stepped Wedge」と呼ばれる。 |
クラスター内相関を考慮する必要がある点はクラスターRCTと共通ですが,模式図の特殊性からも想像がつく通り,統計学的事項を含む方法論はクラスターRCTよりもずっと複雑です。詳細については,ランダム化比較試験の報告を改善する目的で用いられる「臨床試験報告に関する統合基準(Consolidated Standards of Reporting Trials:CONSORT)声明」のStepped WedgeクラスターRCT拡張版2)などを参照していただくとし,以降は2つの適用場面を例に「この研究デザインがどんな場面で採用されるか」について紹介していきます。
制約を超えてエビデンスを創出したいときに有用
「介入を患者個人に割り付けることが不可能,あるいは不適切な状況に適している」という前提はクラスターRCTと同様ですが,もちろんそれだけではありません。
まず1つ目の適用場面として,介入内容に関するエビデンスは乏しいものの,「do more good than harm(利益>害)」であるというstrong beliefが,経験的に存在する介入について評価したいという状況が挙げられます3)。通常,RCTを実施する倫理的根拠として「clinical equipoise(介入Aと介入Bの優劣は専門家の間でも不明確)の成立」が挙げられますが,上述の状況は「no equipoise」な状態なので,むしろ一部の対象者に介入が行き届かないことのほうがunethical(非倫理的)と考えられます。このような状況で,例えば介入群vs.非介入群(観察群)とした通常のクラスターRCTを採用すると,半分のクラスターしか介入を受けないことになり,介入の実施にかかわってくるステークホルダー(クラスターが病院であれば病院経営者など)による抵抗があることが想像できます。Stepped WedgeクラスターRCTであれば,最終的には全てのクラスターに介入が導入されるため,ステークホルダーに受け入れられやすいと考えられます。
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