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第3361号 2020年3月2日


臨床研究の実践知

臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイトFacebookを参照してください。

[第12回]Stepped WedgeクラスターRCT

小山田 隼佑(JORTCデータセンター統計部門 部門長)


前回よりつづく

 第4回(3328号)に,ランダム化比較試験(RCT)の派生の1つであるクラスターRCTについて紹介しました。今回は最新の話題として,クラスターRCTの変法の1つである「Stepped WedgeクラスターRCT」について説明します。

介入の導入時期がクラスターごとに異なる特殊なデザイン

 Stepped WedgeクラスターRCTとは,クラスターレベルで介入時期をランダム化し,順番に観察期から介入期に移行(介入の導入時期をずらして順次適用)する研究デザインです。

 は施設をクラスターとした場合の模式図で,この図の介入時期が「階段状のくさび」の形に見えたことから,「Stepped Wedge」と呼ばれるようになりました1)。T0からT1までの時期は全ての施設が観察期,つまり通常診療のみの状態を表しています。ランダム化の結果,施設③がT1の時期から介入を受けるグループに,施設②がT2の時期から介入を受けるグループにそれぞれ割り付けられ,最終的に全施設に介入が導入されることがわかります。

 Stepped WedgeクラスターRCTの模式図(筆者作成)(クリックで拡大)
クラスターレベルで介入時期をランダム化し,順番に観察期から介入期に移行する研究デザイン。介入時期が「階段状のくさび」の形に見えたことから,「Stepped Wedge」と呼ばれる。

 クラスター内相関を考慮する必要がある点はクラスターRCTと共通ですが,模式図の特殊性からも想像がつく通り,統計学的事項を含む方法論はクラスターRCTよりもずっと複雑です。詳細については,ランダム化比較試験の報告を改善する目的で用いられる「臨床試験報告に関する統合基準(Consolidated Standards of Reporting Trials:CONSORT)声明」のStepped WedgeクラスターRCT拡張版2)などを参照していただくとし,以降は2つの適用場面を例に「この研究デザインがどんな場面で採用されるか」について紹介していきます。

制約を超えてエビデンスを創出したいときに有用

 「介入を患者個人に割り付けることが不可能,あるいは不適切な状況に適している」という前提はクラスターRCTと同様ですが,もちろんそれだけではありません。

 まず1つ目の適用場面として,介入内容に関するエビデンスは乏しいものの,「do more good than harm(利益>害)」であるというstrong beliefが,経験的に存在する介入について評価したいという状況が挙げられます3)。通常,RCTを実施する倫理的根拠として「clinical equipoise(介入Aと介入Bの優劣は専門家の間でも不明確)の成立」が挙げられますが,上述の状況は「no equipoise」な状態なので,むしろ一部の対象者に介入が行き届かないことのほうがunethical(非倫理的)と考えられます。このような状況で,例えば介入群vs.非介入群(観察群)とした通常のクラスターRCTを採用すると,半分のクラスターしか介入を受けないことになり,介入の実施にかかわってくるステークホルダー(クラスターが病院であれば病院経営者など)による抵抗があることが想像できます。Stepped WedgeクラスターRCTであれば,最終的には全てのクラスターに介入が導入されるため,ステークホルダーに受け入れられやすいと考えられます。

 例えば産婦人科領域4)や感染症領域5)などで,このような理由に基づいてStepped WedgeクラスターRCTが採用されています。「全てのクラスターに介入が導入される」という意味では前後比較試験も同様ですが,導入時期をランダム化している分,Stepped WedgeクラスターRCTの方がより厳密な評価が可能です。

 次に2つ目の適用場面として,導入に多大な時間と労力を要するような介入であるにもかかわらず,そのためのリソース(人的・物的な資源)が限られていたり,研究規模が大き過ぎたりすることが原因で,ロジスティクス(物流)に問題が生じる状況が挙げられます。このような状況で通常のクラスターRCTを実施しても,全てのクラスターで同時期に介入を開始することは困難です。Stepped WedgeクラスターRCTであれば,ランダム化した結果,介入時期が早いクラスターから順にリソース投入に取り掛かることが可能です。

 ここで,がん性疼痛に対する豪州のガイドラインの有効性についての研究6)を実例として挙げます。この研究の目的は,疼痛ガイドラインを遵守することでがん患者の疼痛を改善するか調べることですが,疼痛ガイドラインの内容は複合介入(complex intervention)であるため,「適切かつ十分に実装されたことを誰がどう評価するか」という点が問題になります。

 こうした状況に対し,ガイドライン普及・実装のために結成されたプロジェクトチームを現場に派遣して,そのチームの監督の下で一定期間のトレーニングを経ることで実装完了とする,という戦略が考えられます。しかし,今度は「限られた人数のプロジェクトチームでは,複数の施設を同時に監督することは不可能」という問題が浮上します。そこでStepped WedgeクラスターRCTを採用することによってランダム化した結果,介入時期が早い施設から順にプロジェクトチームを派遣し,ガイドラインを現場に普及・実装した後,プロジェクトチームは次の施設へ,という戦略が可能となりました。

 なお,本研究は観察期と介入期の間にトレーニング期間を設けており,このような期間を「transition period(移行期間)」と呼びます。これまで説明してきた特徴を総合すると,Stepped WedgeクラスターRCTは「ステークホルダーやリソース,ロジスティクス等による制約と,科学的評価に折り合いをつける研究デザイン」と解釈することが可能です。

デメリットもしっかり認識することが重要に

 最後に,Stepped WedgeクラスターRCTを実施する上でのデメリットをお伝えします。図の通り,研究期間は「観察期から介入期への切り替えの回数(階段の段数)」と「切り替えと切り替えの間(T0からT1,T1からT2,……)の期間」に依存するため,トータルの研究期間が著しく増大する可能性が高くなります。

 次に研究開始初期に比べて,研究終了時にはより多くのクラスターが介入を受けることから,介入への曝露とアウトカムにcalendar time(暦時間)が関連してくる可能性があります(潜在的交絡因子)。計画・解析において暦時間を考慮することである程度制御可能ですが,影響を完全に取り除くことは難しいかもしれません。加えて同時対照を置いていない上,被験者である患者をリクルートする側の人々に対して「観察期か介入期か」を盲検化することが難しいなど,バイアスが入り込む余地も大きいです。

 これらの理由から,他の研究デザイン,特に通常のクラスターRCTなどが利用可能な状況であれば,本研究デザインを採用する意義は低いと考えられています。したがって,「デメリットも認識した上で,それでも研究デザインとしてStepped WedgeクラスターRCTを実施すべきだ」という強い根拠があるかどうかを十分に検討することが必要です。

 Stepped WedgeクラスターRCTは世界的に普及しつつあるものの,日本ではまだほとんど実施されていないのが現状です。認知度の低さはもちろん,方法論に関する日本語の文献が皆無であることも原因かもしれません。今後,日本でも研究デザインの候補にStepped WedgeクラスターRCTが挙がるようになることを願っております。

今回のポイント

・Stepped WedgeクラスターRCTは,クラスターレベルで介入時期をランダム化し,順番に観察期から介入期に移行(介入の導入時期をずらして順次適用)する研究デザイン。
・ステークホルダーやリソース,ロジスティクス等による制約と,科学的評価に折り合いをつける研究デザインとして解釈可能である。
・実施する場合には,デメリットも認識した上で,Stepped WedgeクラスターRCTを実施すべきという根拠をしっかり固めることが重要になる。

つづく

参考文献
1)BMJ. 2015[PMID:25662947]
2)BMJ. 2018[PMID:30413417]
3)J Clin Epidemiol. 2011[PMID:21411284]
4)Lancet. 2018[PMID:30269876]
5)BMC Infect Dis. 2019[PMID:31842773]
6)BMC Health Serv Res. 2018[PMID:30012122]

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