臨床研究の実践知
[第13回] 経時的に測定したPROの解析
連載 小山田 隼佑
2020.04.06
臨床研究の実践知
臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイト,Facebookを参照してください。
[第13回]経時的に測定したPROの解析
小山田 隼佑(JORTCデータセンター統計部門 部門長)
(前回よりつづく)
本連載はここまで,臨床研究の「計画」と「実施」にスポットを当ててきました。今回は第8回(3345号)でも紹介した研究1)を実例に,臨床研究の「解析」について触れていきます。
経時測定データから解析する3つのアプローチ
本研究は,がん治療中の口腔粘膜炎の疼痛に対する,インドメタシンスプレー製剤(Indomethacin Oral Spray:IOS)の疼痛軽減効果を検討する,プラセボ対照のランダム化比較試験です。疼痛の評価には,PRO(Patient-reported outcomes:患者報告アウトカム)の一種であるBrief Pain Inventory(BPI,0:全く痛くない~10:これ以上の痛みは考えられない,の11段階)のitem 6「今感じている痛み」を採用しています。
PROを用いてデータを取得する際,同じ患者に対して複数時点で評価することが多いです。本研究では初回投与前(0分),初回投与後15分,30分,60分,120分,180分,240分の計7時点で評価しています。このように,あるアウトカムを時間経過とともに(=経時的に)繰り返し測定して得られたデータは,経時測定データまたは単に経時データと呼ばれます。
経時的に測定したPROの解析として,主に3つのアプローチが考えられます(表)。以降,それぞれのアプローチ内容と具体例を簡単に説明します。
表 経時的に測定したPROの解析の主なアプローチ(クリックで拡大) |
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1つ目は「解析に利用する時点を事前に限定」するアプローチです(以下,アプローチ①)。「解析に利用する時点」とは,例えば「治療後のある1時点」や「治療前から治療後のある1時点への変化量・変化率」などを指します。
第8回(3345号)でも紹介しましたが,本研究の主たる解析は「初回投与前(0分)と初回投与後30分におけるBPI-item 6の差(変化量)の,平均値の群間差に対する2標本t検定」であり,解析に利用する時点を2つに限定しているので,アプローチ①に該当します。今回用いているBPI-item 6はスコアが大きいほど痛みが強いので,変化量(=初回投与後30分-初回投与前)がマイナスに大きいほど改善の度合いが大きい,と解釈できます。
主たる解析の結果,変化量の平均値とその95%信頼区間は,IOS群が-1.85[-2.37,-1.32],プラセボ群が-0.59[-1.02,-0.16],群間差(=IOS群-プラセボ群)は-1.26[-1.94,-0.57]であり,2標本t検定の結果はp=0.0005と統計学的な有意差が認められ,IOSの有効性が確認されました。
解析に利用した時点での結果の図示化(各群の時間的傾向の要約)として,各時点の平均値±95%信頼区間を群ごとにプロットする表示方法も,特にランダム化比較試験でよく利用されます。図1より,初回投与直後から60分後までは群間差が広がり,以降,群間差がなくなっていくさまが確認できます。
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図1 BPI-ite |
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