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第3334号 2019年8月12日


Medical Library 書評・新刊案内


問題解決型救急初期検査
第2版

田中 和豊 著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

現場での重要点を的確に網羅した「おねだん以上」の書

 本書は,救急のマニュアルとしては最も有名なものの一つである,田中和豊先生の『問題解決型救急初期診療』(医学書院)の姉妹本にあたる同著者の「検査版」の第2版である。

 検査と銘打たれているが,本書の本質は検査の解説本やマニュアル的な内容ではない。

 「この本を眼の前の患者を救いたい人に捧げる」とだけ書かれた冒頭のページは鮮烈である。救急現場で疾患と対峙する医師ならではの魂のこもったお言葉と思う。田中先生は自分より10年ほど上の学年の先生に当たるが,このような先生が自分が1年目の時に上級医にいらしたら,どれだけ心強いか。勇気が湧き明日へのモチベーションが高まることは,自分の研修医時代を振り返っても想像に難くない。

 「診療」は初版が2003年,「検査」は初版が2008年である。これらの本がなぜ長く読まれているか。序文にも書かれているが,エビデンスに配慮するだけではなく,ご自身で実践されていないことは記載しない,という田中先生のポリシーが生きているからだと感じる。ベッドサイドの実感を伴わない臨床教育は内容が薄い。これは評者自身も日々感じていることであり,患者不在のディスカッションや一般論は,魂に刻み込まれることはないだろう。一見すると「実践していないことは記載しない」という本書の方針は一般化されたマニュアル的書籍としては異彩を放つように映るが,実臨床家の眼から見れば大変リーズナブルである。また,幸い本書はマニュアルのように見えて,マニュアルとは銘打たれていないところに独自性が高い。

 本書の臨床的こだわりは随所に見られる。検査という本のタイトルからにわかに想像する採血や尿の検査などの総花的マニュアルという印象を覆し,470ページにわたる本文のおよそ3分の1までが臨床の考え方をまとめた総論に続くバイタル・サイン(とモニタ),フィジカルに割かれている。これは,バイタル・サインの測定と解釈やフィジカルもれっきとした検査であり,またそれらの検査は項目が少ないながらも,より高度なテクノロジーを要する現代医学の検査を圧倒するかのような情報量を秘めている,という田中先生の強いメッセージが込められた結果であると感じる。

 実際に救急の現場では,一般採血や尿を見てマネジメントが変わることもたまにはあるが,大方の方針はフィジカルまでで立ってしまうということが多い。例えば発熱の患者では,救急外来における採血が与える熱源に関する情報は極めて限定的であることは,読者の皆さまなら想像に難くないだろう。フィジカルの章も,目次だけを見ても素晴らしい。フィジカルが網羅的に並べられるのではなく,呼吸,循環を筆頭に,危険な病態を示唆する腹部や皮膚といった項目が優先的に並べられていることなど,現場で用いるフィジカルが濃淡をはっきりさせて記載されていることに強い共感を覚える。身体診察の2つ目の項目は「stridorと肺音」という章だが,「呼吸」などと平板な章立てになっていない点など,重要度のメリハリを実感する内容で非常に良いと感じる。

 肝心の「検査」の章だが,各検査について,不要な記載はなく,臨床的有用性や基準値,重要な表などがぎっしりと詰まっていて,この一冊さえあれば検査についての救急における重要点を十分に網羅できる内容になっている。

 このように,本書は救急における熱いハートとメッセージがぎっしり詰まった本である。コンパクトながら定価の5000円以上に価値は大きく,この本がボロボロになるまで使い込めば,その価値は10倍にも20倍にもなって返ってくるだろう。

B6変型・頁512 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03598-9


細胞診を学ぶ人のために
第6版

坂本 穆彦 編

《評者》伊藤 仁(日本臨床細胞学会細胞検査士会会長/東海大病院病理検査技術科長)

初学者の手引書として,生涯教育のテキストとして

 このたび,待望の『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が刊行された。1990年に初版が刊行されて以来,来年で30年を迎える本書は,これまで細胞診を勉強するための教科書として,多くの皆さまが必携の書として愛用している一冊である。

 本書は,細胞診を学ぶ人にとって必須の基本的内容が網羅され,詳細かつ簡潔な説明は平易で理解しやすい。細胞像,組織像などはオールカラーで美しく仕上がっており,要所には表や図が的確に配されている。特に初版からの特徴であるシェーマは,豊富に盛り込まれており,活字では表現し難い内容を視覚的に理解することが容易となっている。

 第6版では,基本的な内容の他,新しい情報が積極的に取り上げられ,液状処理法(liquid-based cytology;LBC)や,On-site cytologyなど,近年,注目されている技術や方法にも言及している。現代の医学,医療は目覚ましい発展を遂げ,それに対応する組織分類の改訂や更新が続いているが,細胞診に深く関係するこれらの状況や変遷についても留意されている。細胞診報告様式についても,子宮頸部細胞診ベセスダシステムに続いて公表されている甲状腺細胞診ベセスダシステム,尿細胞診パリシステム,唾液腺細胞診ミラノシステムなどについても触れられている。

 執筆者も時代に合った次世代の専門医や細胞検査士が加わり,それぞれの得意分野を担当し,フレッシュさが感じられる内容となっている。細胞診初学者のための手引書として,そして細胞診従事者の生涯教育のテキストとしても有用な初版以来のスタンスを色濃く継承している。『細胞診を学ぶ人のために 第6版』,まさに細胞診を学ぶ人のために刊行された一冊である。

B5・頁432 定価:本体9,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03799-0


レジデントのための循環器疾患診療マニュアル

苅尾 七臣 監修
新保 昌久,星出 聡,今井 靖,船山 大,河野 健 編

《評者》細田 瑳一(自治医大名誉教授/公益財団法人政策医療振興財団理事長)

よく遭遇する疾患の診療をフローチャートやチェックリストを用いてわかりやすく整理

 本書は,自治医大循環器内科で現在レジデントを指導している教員が,それぞれの経験を踏まえて,比較的よく遭遇する病態・疾病について,総合的診療,検査処置,診断基準,病型,重症度分類,ガイドライン,そして標準的治療の選択と長期予後を判定する試験結果までを整理した実用的診療マニュアルである。各疾患について記録すべきポイントを箇条書きにして概説し,次に診療のフローチャートを掲げ,診療と心電図,X線検査,血液検査,カテーテル検査や心筋生検,心エコー,核医学検査などの主要検査を挙げ,初期対応と治療の選択,特に酸素吸入,静脈確保,カテーテル治療や外科的治療のタイミングと薬物療法の選択,治療開始後の変化の記録,治療効果の評価法,退院時のチェックリストなどが丁寧に記述されている。

 診療録,特にそのまとめや紹介者への報告を書く上でも参考になる。例えば,パンデミックと叫ばれる急性心不全と慢性心不全の項では,急性心不全の原因疾患とそれぞれの特異的な治療,心不全増悪の誘因,右心不全と左心不全の症状の違いの表,Framingham criteriaによる診断基準,クリニカルシナリオによる入院時管理,CS 1~5の分類(初期評価と治療)および治療の目標など多くの図表で各病期の治療を選択して,その効果を評価させようとしている。近年増加し,治療法も進んでいる肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症,肺高血圧症,睡眠時無呼吸症候群などについても詳しく記述されている。特別な配慮を要する患者として,慢性腎不全・血液透析症例,がんと循環器疾患の合併,高齢者の診療も取り上げられている。特に高齢者での認知機能障害と総合機能評価(CGA 7)は日常必須の常識である。検査手技,電気生理学的検査,カテーテルの手技,ペースメーカ,ICDやCRT,補助循環の適応,管理も,欠かせない手技である。リハビリテーションについては,外来・在宅診療で今後ますます重要になる。

 最後に,このマニュアルでは精神心理的問題が,チーム医療でのコミュニケーションの項で取り上げられているが,インフォームドコンセントの説明や,医療者と患者・家族とのコミュニケーションには,精神心理的配慮が重要である。対等の人間としての対話と信頼関係を醸成する行動(Humanitude)が常に実践されるべきである。レジデントは,地域医療の立場から,総合診療としてのシステムレビューの徹底や,健康の回復・維持・増進を目標とする姿勢を身につけるべきである。そのことに関連して,循環器領域の疾患と関連の深い呼吸器疾患,脳卒中,糖尿病,腎障害などとともに,その他の急性関連重症疾患として取り上げ,注意を喚起することが望ましい。監修者の意図にもそのことが含まれているようであるが,わが国の医療が専門技術偏重になっている現状を反省し,医療職の研修では常に住民の保健健康増進を総合的に考える姿勢を養うように努めなければならない。

A5・頁472 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03027-4


《ジェネラリストBOOKS》
整形画像読影道場

仲田 和正 著

《評者》平島 修(徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター長)

まるでアトラクション巡り!? 読影道場という遊園地

 思わず一気読みしてしまった。

 私が仲田和正先生(の本)に出会ったのは15年前,医師になってすぐの研修医時代。年間1万台の救急搬送を受け入れる研修病院の救急室で週に2回の当直業務をこなしていたときに,同僚の研修医が「とてもわかりやすい本が出た!」と騒いで持ってきた。当時,整形外科学といった堅い医学の本はあっても臨床現場との乖離があり,実践で生かせる本はほとんどなく,仲田先生の著書『手・足・腰診療スキルアップ』(シービーアール,2004)はこれまでの医学書作法の常識をひっくり返すような明快でユーモアに富んだ本だった。その中でも漫画『おそ松くん』に登場するイヤミがシェーのポーズをしたイラストを用いた,アキレス腱断裂の解説は15年たった今でも頭を離れない。

 そして,15年の歳月を経て『整形画像読影道場』という新しい仲田ワールドが帰ってきた。「読影道場」だが,首・肩・手・腰・足と全身の画像所見についてユーモラスに解説された内容は,遊園地のアトラクションを回っているようなワクワクした気持ちになる。もちろんアトラクション(章)を順番に回るのではなく,好きなアトラクションから入る(読む)ことができる。特に救急外来で外傷を担当する医師には,かなり力になるのではないだろうか。外傷⇒診察⇒X線という流れは整形外科医よりも救急・総合診療医が経験することが多い。しかし整形外科医ではないので,手術までかかわることはなく,整形外科医に診てもらうべきか,診てもらう場合,すぐになのか,翌日なのかという判断が一番気になるのではないだろうか。膨大な疾患に対応する救急・総合診療医は,全身の骨折の細かい分類や具体的な手術の内容はさほど必要ではない。それよりは,見逃しやすい骨折や,軽度の骨折でも専門医受診が必要なものを覚えて,必要に応じて成書にアクセスできる環境が現実的なのではないだろうか(私はそうしている)。本書は全身の骨折や関節,神経分布などが簡潔にまとめられており,2~3時間もあれば読み終えることができる。

 本書には,他書には真似できない3つのポイントがある。①仲田先生ならではの例える技術。前著はおそ松くんだったが,今回はピカチュウに扮した仲田先生の顔写真が登場する。思わずプッと吹き出してしまうのは間違いない。とにかく明快に脳裏に刻まれ,一度読めば忘れない。②仲田和正先生という心優しいお医者さんの姿。変形性肩関節症の患者さんのミッドウェイ海戦のエピソードが書かれたコラム(p.74~5)は,当時の映像が浮かぶような素晴らしい内容である。患者さんに寄り添いながら診療をされている仲田先生を垣間見ることができる。③怒涛の反復。これは仲田先生がいつもおっしゃる格言である。覚えておいたほうがいい内容は,繰り返し同僚と呪文のように言い続ける。各章の最後には「怒涛の反復」として覚えておくべき内容のみ,数行でまとめられており,全てを読み終わった後に,もう一度この部分だけ声に出して読んでみると,骨の随まで知識が染み込んでくる。

 道場から出ると,不思議とX線画像を見るのが楽しみになる素晴らしい書籍である。

A5・頁164 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03833-1


図説 医学の歴史

坂井 建雄 著

《評者》泉 孝英(京大名誉教授)

「医学の歴史」教科書の決定版

 650点を超す図版を収載した656ページに及ぶ大冊である。「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史」との表紙帯が付けられている。私からみれば,わが国の明治の近代医学の導入(1868年)以来,150年の年月を経て,わが国の人々が手に入れることができた「医学の歴史」教科書の決定版である。医師・歯科医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師などの医療関係者だけでなく,一般の方々にも広く読んでいただきたい。豊富な図版は,専門知識の有無を問わず本書を読める内容としている。

 教科書としてお読みいただく以上,「飛ばし読みは禁」である。まずは,573ページの「あとがき」からお読みいただきたい。坂井建雄先生の解剖学者・医史学者としての歩みの中から,本書誕生の歴史をたどることができる。坂井先生のこれまでの多数の学会発表,論文,書籍などから,幅広く資料収集に努めておられることは推察していたが,「ここまで!」との絶句が,本書を拝見しての私の第一印象である。

 第1部「古代から近世初期までの医学」,第2部「19世紀における近代医学への変革」,第3部「20世紀からの近代医学の発展」,に記述されていることは,単なる事物・事象の記載だけではない,坂井先生の医学・医療に対する視点・観点,「哲学」ともいうべきものの基盤の上に,事物・事象の記載が行われている。

 私自身は,医史学の勉強を始めたのは定年退官以後,坂井先生のはるか後輩である。私なりの視点から,明治時代のドイツ医学の導入,第1次世界大戦後に始まる米国医学の進出,そして,第2次大戦後,国民皆保険制度の成立による日本独特の医学の形成過程をたどり,論を呈してきたが,本書第24章「20世紀以降の日本の医学」における坂井先生の記述との対比から,私の視点・観点の再検討を試みたいと考えている。また,第26章「現代における医史学の課題」において記述されているが,「医療の社会化を前提とした医学研究の在り方」は,今後大きく問われるべき課題である。

 終わりに,本書は,川喜田愛郎先生の『近代医学の史的基盤』(岩波書店,1977)に次いで,私が大きな感銘を受けた書物であることを記しておきたい。

B5・頁656 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03436-4

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