これからの在宅看護学研究と教育への期待(清水準一)
寄稿
2019.01.28
【寄稿】
これからの在宅看護学研究と教育への期待
清水 準一(東京医療保健大学千葉看護学部看護学科教授)
近年の在宅看護学研究の動向
2001年から15年間の国内での在宅看護に関連する研究の動向を,研究のタイトルや抄録をテキストマイニングにかけて概観したところ,当初の5年間はALSなどの難病やがん終末期のケアに関する研究,介護保険導入後の家族の介護負担の変化や運用上の問題点などに着目した研究が多かった。その後は退院支援や多職種連携に関する研究が増え,最後の5年間は医療的ケアを必要とする小児への訪問看護,特別支援学校との連携,精神科訪問看護に関する研究が増加するなど,対象は時代とともに推移している。また,近年は在宅看護論の授業・実習に関するものや,事業所等での新卒訪問看護師向けの研修,訪問看護師のクリニカルラダーなど,在宅看護の人材育成関連の研究が増えるとともに,在宅看護学研究全体の発表数も大幅に増加している。
研究の種別は,看護師の介入の種類や判断プロセス,対象者の反応を質的に記述した研究が多く,介入のアウトカム評価などの研究は少ないのが現状である。背景には,在宅では1事業所でかかわる利用者が多種多様かつ病院ほど人数が多くないことや,看護師単独ではなく家族や他職種とのかかわりが一般的であることが挙げられる。中山和弘氏(聖路加国際大)が『看護学のための多変量解析入門』(医学書院)の中で説明しているように,看護師のかかわりは対象者への直接効果だけでなく,他職種を介した間接効果もかなりあると考えられるが,在宅ではそのモデルがかなり複雑になる。
こうした課題を解決する一助として,いわゆるビッグデータと言われる医療・介護保険レセプトデータの活用が期待される。しかし,データでは峻別されていない訪問看護を行ったリハ職の種別などは,レセプトデータで分析しようにも比較は困難で,その限界も理解しておく必要がある。
空間分析を看護学に
以前に,「東京特別区で唯一,ある大手コーヒーチェーンの店舗がない区がある」とネットニュースに流れたことがある。確かにその区に店舗がないのは事実だが,区民はバスや路面電車に少し乗るだけで,隣の区でそのコーヒーを飲むことができる。実は店舗のある区の区民でも,居住場所によっては店舗に行くのに時間やお金がもっとかかる場合がある。
これと同様の議論が医療・看護へのアクセシビリティについてもできるだろう。看護師が高い能力を有していても,必要なときに対象者のそばにいなければ,良い看護の提供は難しい。それゆえ在宅看護では対象者のアクセシビリティを定期的に検討することが大切だと考える。
しばしば,関東地方の高齢化の進展に伴う看護師の不足が話題になる。図に私の勤務先がある千葉県周辺の都県について,市区町村別に老年人口1000人当たりの看護師数を示した。全国平均は約34.4人で,全体的に平均を下回っており,色が薄いのがわかる。しかし,市区町村別に見ると県庁所在地や看護師が600人以上勤務する病院のある市区町村では色が濃いが,離れた市区町村では色が薄く,老年人口当たりの看護師数は市区町村ごとの偏在が大きい。図からは看護師の養成増も大切だが,むしろ,県内の偏在への対応のほうが重要であるとも読み取れる。
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図 千葉県周辺都県の老年人口1000人当たり看護師数(市区町村別)(クリックで拡大) |
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