医学界新聞


日本では1 週間に約10人の小中高生が自殺している

寄稿 長沢 崇

2025.05.13 医学界新聞:第3573号より

 子どもの自殺が増加傾向にあり,深刻な社会問題となっている。自殺は原因・背景が多様かつ複合的で,複数の要因が連鎖して生じるとされるが,子どもの自殺の特徴として,衝動性が高いこと,原因・動機が不詳である場合が多いこと,特定した原因・動機としては家庭と学校の問題が多いこと,学校の休み明けに自殺者数が増加することなどが知られている。また自殺意図が明確でない,遺書がなく理由や背景の分析が難しい,両親の精神的健康の影響を受けるといった報告もある1)。コロナ禍では家庭環境の変化に伴う家庭内葛藤の増加や,学校環境の変化による居場所喪失との関連について言及された。また「群発自殺」に象徴されるように子どもは他者からの影響を受けやすく,旧来メディアの影響が指摘されているが,急速に普及するSNSなどソーシャルメディアの影響についても検証が必要と思われる。

 厚労省,警察庁による「令和6年中における自殺の状況」2)の報告によれば,2024年中の自殺者数全体は2万320人と前年比で1517人減少し,1978年の統計開始以降2番目に少なかった。一方で小中高生の自殺者数は529人と前年比で16人増加しており,データが把握可能な1980年以降で過去最多の数値となっている。少子化が進む中での数値であり,比率を考慮するとより深刻な状況であることがわかる。属性別では小学生15人,中学生163人,高校生351人,性別で男性239人,女性290人であった。また,月別では9月が最も多く59人であった。2023年6月に「こどもの自殺対策緊急強化プラン」が取りまとめられ,国として自殺対策を強力に推進する方向となったが,残念ながら2024年は過去最多の小中高生が自殺しており,日本では1週間に約10人の小中高生が自殺していることになる。小中高生のうち男性は2019年,女性は2020年に自殺者数が急増したことが知られているが,その後女子中高生の自殺者増加傾向が顕著になったことは注目すべき問題である(2)

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図 小中高生別,性別自殺者数の年次推移(文献2より)

 警察庁の自殺統計原票では,自殺の原因・動機を「家庭問題」「健康問題」「経済・生活問題」「勤務問題」「交際問題」「学校問題」「その他」「不詳」に分類しているが,2024年の小中高生の自殺においては「学校問題」が272件と最も多く,次いで「健康問題」164件,「家庭問題」108件であった。「学校問題」の中では「学業不振」65件,「学友との不和(いじめ以外)」60件の順に多かった。なお小学生,中学生,高校生そして性別で分けると原因・動機の傾向は異なっている。

 次に自殺の手段について述べる。東京都23区内において検案を行う東京都監察医務院の統計データベース「令和5年版統計表及び統計図表」3)によると,2022年の自殺1615件のうち10~14歳が11件,15~19歳が50件となっている。そのうち10~14歳の自殺手段は縊死4件,飛降3件,交通機関3件,焼身・熱傷1件であった。15~19歳においては,縊死30件,飛降11件,その他化学物質・有害物質3件,溺死3件,交通機関2件,催眠剤・向精神薬等1件であった。

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 上述した通り小中高生の自殺者数増加は非常に危機的な問題であり,今後も要因分析や対策の効果検証を行いつつ,国全体で「こどもの自殺対策緊急強化プラン」の取り組みが推進されることが重要である。なお,同プランには,子どもの自殺の要因分析,自殺予防に資する教育や普及啓発等,自殺リスクの早期発見,電話・SNS等を活用した相談体制の整備,自殺予防のための対応,遺された子どもへの支援,子どもの自殺対策に関する関係省庁の連携及び体制強化等の施策が含まれ,ロードマップも設定されている。

 それではわれわれにできる対応は何であろうか。まず,大人たち1人ひとりが家庭内や周囲にいる子どもたちの声を聴き,寄り添い,受け止め,子どもたちの悩みやサインに気づく必要がある。そして教育,保健,福祉など各分野に役割があり,各機関でしかできないこと,それぞれの立場だからこそできることがある。例えば,子どもたちが多くの時間を過ごす学校における相談体制の充実や自殺予防教育の推進など,各機関において自殺リスク低下に向けた効果的な取り組みが求められている。その上で,家庭や学校,地域社会で心配な言動を示す子どもに対しては,教育,福祉,医療,保健,警察など多職種,多機関が連携し,支援体制を構築することが重要であろう。

 そうした支援体制の中で,医療は子どもの自殺にどのように対応していくべきであろうか。子どもの愁訴や状況によって対応する診療科が異なるのは当然だが,子どもの自殺には神経発達症やうつ病,統合失調症,不安障害,摂食障害,物質関連障害などの精神疾患,いじめや児童虐待,その他の逆境的小児期体験(ACEs)も関連しており,児童精神科医療に大きな役割が期待されていると考える。

 当院は日本最多の児童精神科病床を有し,希死念慮を訴える子どもたちや自殺企図歴のある子どもたちなど,多くの子どもたちの入院治療を行っている。また上記のような子どもたちの全てが入院するわけではなく,外来においても日々自殺リスクのある子どもたちに対応し続けている。東京都では外来,入院共に児童精神科医療を提供する医療機関が増加傾向にあるが,全国的には地域偏在の問題が大きく,専門医療機関は不足している。残念ながら子どもの自殺を含めた,子どものこころの問題の多様なニーズに応える児童精神科医療体制は全国的に十分とは言えない。特に児童精神科入院治療は全国的に需給バランスが破綻しており,人的資源も十分でない。自殺関連行動だけでなく多種多様な情緒・行動の問題を呈する子どもたちの入院依頼が寄せられ,当科も医療崩壊と言っても過言でない状況に陥ることがある。子どもの自殺が増加している現在,児童精神科医療に従事する一部の専門家だけでなく,小児科,精神科,総合診療科,救急科などの多診療科,加えて多機関の連携がより進み,かつ医師のみならず多職種チームで子どもの自殺関連行動に対応していくことが重要と考える。専門家による支援だけでなく,悩んでいることを相談できる非専門家,専門機関につながるまで伴走する非専門家の存在が重要なのは間違いない。

 もちろん専門家である児童精神科医の力量が問われていることは言うまでもない。子どものこころ専門医は年々増加しているが,「死にたい」子どもたちの診療は決して簡単なものではない。子どもだけでなく家族へのアプローチや支援も不可欠である。子どものこころ専門医制度の本格的な研修が2022年度から開始されたが,「死にたい」子どもたちに対峙できる臨床家の育成は進んでいるのだろうか。今後はより研修内容や研修の質が重要となるだろう。今後,各地域で子どものこころの問題に対応する専門家がさらに増加し,自殺関連行動を示す子どもたちの診療体制が充実することが望まれる。報道される自殺者数は「氷山の一角」であり,海面下には多数の自殺関連行動を呈する子どもたちがいることを忘れてはならない。

 コロナ禍で世界的に子どもの不安障害やうつ病,摂食障害等が増加したように,社会の変化や混乱は確実に子どもたちのメンタルヘルスに影響する。不安定な国際情勢,気候変動,自然災害,少子高齢化など子どもたちを取り巻く社会には課題が多く,今の子どもたちはこれらの諸課題をどのように感じているのだろうか。今まさに社会全体が,そして医療現場が,子どもたちのメンタルヘルスの問題に注力すべき時代になっていると考える。なお「自殺総合対策大綱」(2022年)でも触れられているが, WHOは「自殺はその多くが防ぐことのできる社会的な問題」と明言している。


1)若年者の自殺対策のあり方に関するWG.若年者の自殺対策のあり方に関する報告書.2015.
2)厚労省自殺対策推進室,警察庁生活安全局生活安全企画課.令和6年中における自殺の状況.2025.
3)東京都監察医務院.統計データベース令和5年版統計表及び統計図表.2024.

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地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科 医長

2001年千葉大医学部卒。同年慶大医学部精神・神経科学教室入局。同大病院精神・神経科,立川病院精神神経科,駒木野病院を経て,17年より東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科に勤務。19年より現職。22年より同診療科責任者。日本児童青年精神医学会代議員。

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