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第3263号 2018年3月5日


Medical Library 書評・新刊案内


精神障害のある救急患者対応マニュアル 第2版

上條 吉人 著

《評 者》保坂 隆(日本総合病院精神医学会理事長/保坂サイコオンコロジー・クリニック院長)

救急科と精神科を熟知した著者による名著が10年ぶりに改訂

 本書は理学部で化学を学び,医学部を卒業し医師になってからは,精神医学と救命救急医学を極め,現在は埼玉医大教授となった上條吉人氏の,「渾身の力」を振り絞って改訂された力作である。

 精神障害を有した患者さんは,普通では考えられないような病態を呈することがある。例えば,超低体温になって運ばれたり,悪性症候群では超高熱を呈したり,飲水過多のために超低ナトリウム血症になったりなどである。救命救急センターで働く医師にとっても,特異な病態であることは確かである。精神障害者に身体的な急変が起こったとき,救急搬送されるのは「身体的」救命救急センターである。その際,救急医の中に精神障害への不知や誤解があると,適切な治療に結び付かないことがある。本書はこのような場を数多く見てきた著者が,救急医のために書いたマニュアルの改訂版である。

 精神障害者が呈する身体症状とそれへの対応が本書の根幹であるが,加えて,第4章では,「精神病症状により他害のおそれが切迫している患者への対応」や,「精神病症状により殺人や放火等の重大事件を犯した患者への対応」が,事例や法律の紹介とともに説明されている。本書にしかない内容であり,救急科と精神科の両方に熟知した著者ならではの部分である。ここには,警察官職務執行法や医療観察制度なども条文とともに説明されており,これは精神科医にも十分に有益な内容であった。

 最終章の「救急医療スタッフへの7つのメッセージ」を私なりにまとめて紹介する。著者によれば,救急医療スタッフも精神障害を学んで,患者に対する差別的・偏見的な言動は絶対に慎まなければならない。また,精神障害者は訴えが曖昧で正確に伝えられないことや,向精神薬には致死性の副作用があることを覚えておく必要がある。一方で,自殺リスクの高い患者に致死的な量の薬剤を処方したり,高齢者にせん妄や転倒を起こす薬を処方したりするなど,精神科医療側にも問題がある場合があるので,時に“精神科医療に物申すことも必要”である。

 さて,精神科医の研修途上の著者に,身体救急の場での研修を勧め,日本には他に例のない精神・身体の両方の治療に精通したプロフェッショナルに育てた故・守屋裕文先生のことは,総合病院精神医学会を通して存じ上げている。また,当時病気療養中の著者の奥様にも,臨床の場を通してお会いしたことがある。著者が本書冒頭に,本書がお二人にささげた本であることを明記しているが,著者が感じているように,この改訂版のもつある種の「重さ」には,お二人から著者への後押しのようなものを感ぜざるを得ない。上梓された今も,お二人からのエールを本書の背後に感じてしまった。だから,本書が「名著」になっていくことは疑う余地がないのだと思う。

B6変型・頁304 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03205-6


神経眼科学を学ぶ人のために 第2版

三村 治 著

《評 者》後藤 浩(東医大主任教授・眼科学)

神経眼科学を学びたい人のバイブルになる一冊

 わが国の神経眼科学の第一人者である三村治先生の単独執筆による『神経眼科学を学ぶ人のために 第2版』を拝読させていただきました。実は神経眼科関連の本は強迫観念もあってか,新刊が出版されるたびに中身を吟味することもなく購入する癖があります。これは取りも直さず,神経眼科学が苦手ゆえのせめてもの償い,あるいは抵抗の表れでしょう。本書は,そういった神経眼科学を学ぶ気持ちは持ち合わせている,少なくとも学ばないといけないと思っている眼科医や視能訓練士にはうってつけの書籍です。

 まず,第1章の「解剖と生理」は必読のパートです。ここを読破しただけでも神経眼科学のスタートラインに立てた気分になれます。しかも一般に敬遠されがちなこの解剖と生理に関する解説を,たった18ページに凝縮してくれています! でもやはり,この18ページを理解するのがつらいのも事実です。各論では美しい写真やわかりやすい図がふんだんに使用され,さらに解説は箇条書きを基本としているので,神経眼科学を苦手にしている者には大変ありがたい,読みやすい構成となっています。さらには三村先生が「ココだけは押さえておいてほしい!」と思われたところは文字が強調体になっているので,試験でいうところの“ヤマ”を親切に教えていただいているようなものです。随所にちりばめられた“Close Up”コーナーでは,神経眼科学に関するトレンドのみならず,目からうろこの落ちるようなコメントや情報が満載です。例えば,視神経の走行の特徴とされるWilbrand knee(Wilbrandの膝)なるものは,もしかしたら存在しないかもしれないなどの情報は大変興味深く読ませていただきました。

 全体を通じて感じたのは,神経眼科の領域も光干渉断層計(OCT)によって病態生理の理解が格段に深まってきたことです。今までよくわからなかった病態の一部がOCTの登場によって“神経眼科的疾患の可視化”を実現し,以前よりも身近に感じられるようになり,苦手意識の払拭にも貢献しているように思います。

 初めて,あるいは改めて神経眼科学を学びたい人や,眼科専門医試験の受験前などの諸事情によって,いや(?)でも神経眼科学を学ばなくてはならない方に,本書はきっとバイブルとして重宝されることになるでしょう。

B5・頁344 定価:本体9,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03218-6


“私らしさ”を支えるための
高齢期作業療法 10の戦略

村田 和香 著

《評 者》小林 法一(首都大学東京教授・作業療法学)

生活者としてのクライエントに向き合う姿勢を描いた良書

 一般に作業療法は,作業を媒介としてADLやIADL,仕事,余暇など応用的活動の回復を図ると紹介されている。確かにその通りである。しかし作業療法の専門性やユニークさを本当に知りたいのであれば,「日々の生活に喜びや満足を感じ私らしく生きる」という,誰にとっても当たり前の生活を支える作業療法の思考プロセスを覗いてみるとよい。本書はそれがわかるように書かれた非凡な一冊である。実践について模索中の若手や中堅,実践に手応えを感じているがそれをうまく表現できない作業療法士,さらには作業療法をより深く理解したいと思う他職種,作業療法を理解すべき立場にあるチームリーダーや管理監督者にお薦めしたい。

 本書では,作業療法を受けた当事者が感じた作業療法の効果,ならびにそれを得るために作業療法士がとった行動(戦略)が見事に整理され,詳細に説明されている。例示が豊富で,キーワードや目新しい用語に補足説明を付けるなどの配慮もあり,読みやすい。生活者としてのクライエントに普段から向き合っている専門職であれば,実践場面がスッと目の前に浮かぶように読み進められる。ですます調の文体も心地よく,気軽に手に取れるよう工夫されている。その実,本書はしっかりと書かれた信頼できる学術書である。全体で一つとなるよう体系化されており,一語一句の表現にも慎重さがうかがえる。本書の表題を“その人らしさ”ではなく“私らしさ”としたあたりにも,言葉を大切にしたい著者の姿勢が伝わってくる。

 全体の章立ては大きく3つに分かれている。Part 1では,実践における作業療法士の行動を10の戦略,44の具体的方法として紹介している。例えば「戦略2:ありのままを受け入れ尊重する」は,主にクライエントとの関係をつくり出す時に必要な行動・配慮であり,その具体的方法として①味方だと伝える,②本人のアイディアや工夫を大切にする,③作業選択の機会を提供する,④そばで見守るなど,9つの行動がわかりやすく記述されている。どれも作業療法士が日常的に用いる技である。Part 2では,作業療法を受けた当事者が感じた5つの効果が,10の戦略とリンクする形で説明されている。Part 3は,高齢期を生きる主人公の高齢者とその家族,担当作業療法士が織りなす人生物語である。主人公の身に次々と起こる“私らしさ”の危機をどのような戦略で支えているのかが見どころである。

 本書は教育教材としての利用価値も高いと思う。特に現場の新人教育や実習生の指導に適している。事前に10の戦略,44の具体的方法を観察課題として与え,実践場面を見学させれば,効果的なクリニカルクラークシップとなるであろう。学内教育には,コラムとして載っている事例の活用はどうだろう。何気ない偶然のエピソードがつづられているように見えるが,実は文脈を壊さないように練られた作業療法士の戦略が随所に見え隠れしている。教員の腕にもよるが,これを丁寧に解説することで臨床の技を教える講義教材として使える。

 作業療法の世界が広がる本書を,多くの方にお薦めする。

A5判・頁176 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03251-3


脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第4版

日本脳腫瘍病理学会 編
若林 俊彦,渋井 壮一郎,廣瀬 隆則,小森 隆司 編集委員

《評 者》中里 洋一(日高病院病理診断研究センター長/群馬大名誉教授)

気迫のこもった最新の標準アトラス

 日本脳腫瘍病理学会の編集による『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』が第4版へと改訂された。WHOが2016年5月に脳腫瘍分類,いわゆる「ブルーブック」(WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System)を第4版改訂版として出版したことを受けての大改訂である。一見すると大きな変更はないように見えるかもしれない。それはこの第4版が第1版(1988年),第2版(1999年),第3版(2009年)と続いた本書シリーズの伝統をしっかり受け継いで作られているからである。すなわち,A4判上製本の書籍であり,原則見開きページで1腫瘍型が完結しており,厳選された見応えのある写真を大きく掲載しており,本文は簡潔で明快を旨としている,等々である。しかし,一歩内容に踏み込んでみると本書が4人の編集委員の並々ならぬ熱意により,緻密に計画された完成度の高い書物であることがわかる。

 まず,著者が第3版の63人から99人へと大幅に増員されている。日本脳腫瘍病理学会の中核メンバーに加えて若手研究者を大幅に登用している。いわば学会の総力を挙げての著作であるといっても過言ではない。若手研究者の積極的な参加は,本書に新しい息吹を与えるとともに学会としての人材育成にも効果があると考えられる。本文の総論では脳腫瘍病理の歴史,新WHO分類,脳腫瘍発生の分子遺伝学,免疫組織化学が述べられ,現在の脳腫瘍病理の立ち位置が明確に示されている。

 圧巻は各論であり,本書のタイトルが示すごとく臨床と病理が協力しながら脳腫瘍の多彩な腫瘍型の特徴を美しいカラー写真とイラストを用いて見事に示している。全ての腫瘍型において臨床医と病理医が共同執筆を行ったことは従来の版にはない特色であり,臨床的にも病理的にも弱点がなくバランスの取れた内容となっている。組織像を示す写真の大きさは類例を見ず,例えばタイトルの腫瘍名のすぐ下に配置された大きな写真はそのページの3分の1ほども占めるサイズであり,その腫瘍の最も典型的な組織像を圧倒的な迫力と説得力でもって見事に表現している。読者はページを繰るたびに脳腫瘍の多彩な組織像をあたかも万華鏡を見るごとく満喫することができるであろう。本文の記述は簡潔にして十分であり,必要な情報を素早く読み取るのに適している。特に「光顕所見」の記述は組織像の特徴を適切に表現しており,「分子生物学的知見」はやや専門的で深い内容になっている。一方,従来の版に比べてマクロ写真は著明に減少し,電子顕微鏡写真は数もサイズも小さくなっている。これは良くも悪くも現在の脳腫瘍病理学が置かれた状況を端的に表現しているものといえよう。

 脳腫瘍の診断・治療の現場では組織型と遺伝子異常の情報が最も重要である。本書は脳腫瘍の現場で参照するのに最適な構成と内容を持った標準アトラスである。またこれから脳腫瘍の病理を学び,脳腫瘍臨床に携わろうとしている若い病理医,脳外科医にとっては最適の教科書といえる。本書がわが国の脳腫瘍の臨床と教育に極めて有益な書籍であることを確信している。

A4・頁232 定価:本体19,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03047-2

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