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第3263号 2018年3月5日


栄養疫学者の視点から

栄養に関する研究の質は玉石混交。情報の渦に巻き込まれないために,栄養疫学を専門とする著者が「食と健康の関係」を考察します。

[第12話]アルミニウム・認知症・HPVワクチン

今村 文昭(英国ケンブリッジ大学 MRC(Medical Research Council)疫学ユニット)


前回よりつづく

 アルミニウム(Al)の毒性は一世紀をさかのぼる歴史のある題材です[JAMA. 1911;LVII(10):816-21]。1970年代あたりからアルツハイマー病患者の脳へのAl蓄積が確認され,その毒性に関する仮説が今日まで諸所の注目を浴びてきました(Science. 1973[PMID:4735595])。その科学は近年,疫学の趨勢とHPVワクチンの政策とともに興味深い様相を示しています。

 長期の追跡研究でもAlの摂取量とアルツハイマー病罹患率との関係を示すものもあります(例:Am J Epidemiol. 2009[PMID:19064650])。しかし,再現性,交絡因子の懸念,水道水や食品由来のAl摂取量,吸収率などから,通常の食生活で摂取する量での毒性について懸念するに足る有力な証拠はないとされています1)

 では,10代の少年少女に対するAlの筋肉内注射は安全でしょうか。認知症というアウトカムは考えにくいですが,HPVワクチンの有害事象との関係を考察する必要があるようです。なぜならHPVワクチンではAlがワクチン効果の補強剤(アジュバント)として常に用いられているからです。しかしAlアジュバントの安全性について次の理由で答えが出せません。

■HPVワクチンの有効性や安全性を検証する臨床試験のほぼ全てで,介入群と対照群ともにAlアジュバンドを接種しています(BMC Infect Dis. 2011[PMID:21226933],J Pharm Health Care Sci. 2017[PMID:28702209])。ワクチンの効果を検証する研究として不適切ではないものの,Alアジュバントの効果や「ワクチンを打たない」という選択肢との比較結果を既存の臨床試験から導くのは不可能です。

■Alアジュバントの副作用を検証したメタ解析では,有意な副作用はなく「Alの副作用に関する研究はこれ以上推奨しない」と結論付けられています(Lancet Infect Dis. 2004[PMID:14871632])。しかし著者らが認めるように結果が不確かで臨床試験の質が低いため,この結論はさすがに無理があります。

■HPVワクチンの臨床研究では製薬企業が出資しているものが主です。また上述のAlアジュバントのメタ解析も同様です。問題といえるわけではないですが,Al副作用の研究を推奨せず,その検証もできない臨床試験を支援するとなると利益相反の否定は難しいように思います。

■一方,小規模の研究でAlの毒性を示唆する報告もあります。しかし不備が多く不正の疑いがあり撤回された論文もあります(BMJ. 2017[PMID:29061567])。さらに,投稿から1か月と経たずに受理された論文もあり(著者が雑誌の編集委員)(例:J Trace Elements Med Biol. 2017[PMID:28159219]),査読・研究の質への懸念が拭えません。また,これらの研究を支援する団体のウェブサイト2)はワクチンやAlの危険性を示す情報で占められ,政府機関などが発信する情報はありません。利益相反(次回にて触れます)・出版バイアスの可能性を含め基礎研究からAlの毒性を主張するのも困難です。

 Alアジュバントの筋肉内注射の副作用の有無について強いエビデンスはなく,副作用の可能性は否定できないと私は考えています(=Absence of evidence is not evidence of absence, BMJ. 1995[PMID:7647644])。特に臨床試験の対照群(つまり,Alの介入あり)における副反応の統計は憂慮すべきでしょう(約60人/10万人)。現在,同内容はレビューの段階ですのでその結果に期待したいと思います(Cochrane Database Systematic Rev. 2017[doi:10.1002/14651858.CD012805])。

 アルツハイマー病患者の脳にAlが蓄積するという観察については,因果関係は不明ながら相関は無視できません。そして危険因子の探索が続く認知症領域では,Alを含む金属の研究が近年でも注目を浴びています(例:JAMA. 2016[PMID:26836731], JAMA Psychiatry. 2017[PMID:28832877])。その知見が脳神経医学の発展のみならずAlアジュバントの安全性やHPVワクチン副反応の理解へとつながり,治療や衛生政策の改善を導けばと思っています。

つづく

【参考URL】
1)WHO. Evaluation of certain food additives and contaminants. 2011. http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/44788/1/WHO_TRS_966_eng.pdf
2)CMSRI.

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