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第3103号 2014年12月1日


モヤモヤよさらば!
臨床倫理4分割カンファレンス

生活背景も考え方も異なる,さまざまな人の意向が交錯する臨床現場。患者・家族・医療者が足並みをそろえて治療を進められず“なんとなくモヤモヤする”こともしばしばです。そんなとき役立つのが,「臨床倫理」の考え方。この連載では初期研修1年目の「モヤ先生」,総合診療科の指導医「大徳先生」とともに「臨床倫理4分割法」というツールを活用し,モヤモヤ解消のヒントを学びます。

■第12回(最終回) そして……モヤモヤよ,こんにちは!

川口 篤也(勤医協中央病院総合診療センター 副センター長)


前回からつづく

(大徳) モヤ先生,総合診療科のローテートも今日で終わりだね。本当によく頑張っていたと思うよ。

(モヤ) 大徳先生にそう言ってもらえると,うれしいです!

(大徳) 人一倍,モヤモヤする場面も多かったけどね(笑)。

(モヤ) うう……。一つが解決しても,また新たなモヤモヤが湧いてくるんです。

 臨床倫理4分割の考え方はかなり身についたと思うんですけど,それでも今後も,常にモヤモヤせざるを得ないんでしょうか……。

(大徳) ふむ。じゃあちょっと特別に,今まで話していない4分割カンファレンスのレクチャーをしようか。


患者への適用まで考えてこその「EBM」

(大徳) 突然だけど,モヤ先生は「エビデンス」って何だと思う?

(モヤ) えっと。臨床試験とか,研究からわかる結果のこと……ですか。例えば「脳梗塞の再発率は,アスピリンを飲むと○%下がる」とか。

(大徳) それは,わりと信頼性の高いエビデンスと言えるね。きちんと計画された研究の実施結果から,一専門家の意見まで,エビデンスにはさまざまなレベルがあるからね。

 じゃあ「EBM(Evidence-based Medicine)」って何だろう。

(モヤ) 今言ったような,エビデンスに基づいた医療をしようってことです。

(大徳) まあそうだね。でも,それだけじゃないんだ。

(モヤ) (???)

 

 EBMを実践するためには,以下の5つのステップを踏むことが必要とされています。
STEP 1:疑問の定式化
STEP 2:情報収集
STEP 3:情報の批判的吟味
STEP 4:情報の患者への適用
STEP 5:上記STEP 1-4の評価

 さて,一番大事なのはどのステップでしょうか。実臨床で抱いた疑問をわかりやすく整理し(STEP 1),裏付けする情報を集め(STEP 2),集めた情報の正確性,妥当性を判断する(STEP 3)。いずれも大切ですし,ともすれば“EBM=STEP 1-3”のように思われがちです。しかし実臨床で最も必要とされるのはSTEP 4,つまり患者にどう適用すべきか,です。エビデンスがあったとしても,実際に目の前の患者にその治療を行うか否かは,その患者の好み,病状や周囲の状況,医療者の経験の程度などで決まってくるのです。

 皆さん,お気付きでしょうか。これはまさに,臨床倫理4分割カンファレンスの考え方の過程と同じですね。(1)医学的適応がすなわち「エビデンスを示すこと」に当たりますが,本連載でもたびたび指摘してきたように,医学的適応だけで方針を決めることはできず,(2)患者の意向(3)周囲の状況,も踏まえ,(4)QOL向上のための策を考えなければなりません。

「ナラティブ」に耳を傾ける

(モヤ) 今まで,「いかにたくさん論文を見つけてきて,いかに批判的に読むか」がEBMだと思っていて,臨床倫理4分割とは全然関連しないものだと思っていました……。

(大徳) そうでしょう。でも,実はEBMと,深くかかわっている考え方なんだよ。EBMを本当にわかっている人は,普段から「患者の意向」や「周囲の状況」などもきちんと考慮して方針を決めているというわけ。

(モヤ) じゃ,EBMを極めれば,モヤモヤしないで済むんですか!?

(大徳) うーん,それだけで十分とは言えないね。

 Narrative-based Medicine(NBM)は聞いたことある?

(モヤ) 「ナラティブ」という言葉は,耳にしたことはありますけど……。

(大徳) 「ナラティブ」は日本語では「物語」だよね。だからNBMは「物語と対話に基づいた医療」とも言われる。この物語,というのが大事なんだよ。

(モヤ) 物語?

 

 「たとえ寿命が縮まっても,家に帰りたい」とか,「将棋を指せなくなったら人生終わり」など,患者からはさまざまな思いが語られます。それが,患者の「ナラティブ=物語」であり,いわば,歩んできた人生の凝縮形と言えるでしょう。ナラティブに真摯に耳を傾ければ,彼らがこの先“どう生き”“どう死にたいのか”が見えてくることもあります。

 でももちろん,死生観など壮大なスケールのものばかりが,ナラティブではありませんよ。例えば「昨日風呂上がりにパジャマを着ないで寝てしまって,風邪を引いたよ」とか,「昔はスイカが大好きだったけど,ある時食べ過ぎて,口の中にしばらくスイカの味が残ってしまった。それからはあまり食べなくなったなぁ」といった話でさえ,個々の患者のナラティブなのです。このことを4分割カンファレンスに置き換えると,(2)患者の意向,にぴったり当てはまるのではないでしょうか。

EBMとNBM,両方実践できることが必要

(モヤ) なんか,つながってきました! てことは,「周囲の状況」は……。

(大徳) 「周囲の人たちのナラティブ」なんだ。だから方針決定には,いかに患者本人と周囲のナラティブを聞けるかが,大事になるわけだね。

 

 ここまで話してきたことをまとめると,のように表せます。

 臨床倫理4分割カンファレンスのステップとEBM,NBMの関係

 つまり,モヤモヤすることへの対処には,(1)医学的適応のところできちんとエビデンスを押さえた上で,(2)患者の意向,(3)周囲の状況,でナラティブに耳を傾ける。EBMとNBM,両方を実践できてはじめて,(4)QOL向上がかなう,というわけです。

 とはいえ,EBMやNBMはあくまで手法を表す言葉です。医療者が医学的な情報をきちんと吟味して提供し,患者,家族も自分たちの情報や物語を明かし,いかに関係性を築いて合意形成するか,ということが基本です。

価値観の多様性が生み出すものとは……

(大徳) さて,今までの話には出てこなかったけど,臨床倫理4分割カンファレンスを進める上で,最も大切な要素があるんだけど,わかるかな?

(モヤ) うーん,これまでの経験からすると……いろんな職種が加わるってこと,でしょうか?

(大徳) さすがだね。言うことなしだよ。医師が一人で,いくらEBM,NBMと唱えていても実現することはできない。看護師にしか物語ってくれない患者もいるかもしれないし,さまざまな人,職種が集まって,多様な価値観を共有するのが何より肝心なんだ。

 でも,臨床現場のモヤモヤは,医療者と患者間,患者と患者家族間,医療者間などの価値観の衝突で生まれるとも言える。だから,互いに異なる価値観を持つ人が存在する限り,これからもずっとモヤモヤは生まれるだろうし,それを解決するのもまた,価値観の多様性,ってわけだね。

(モヤ) そうか……。では結局,モヤモヤとはおさらばできないんですね。

(大徳) 常に新たなモヤモヤは生まれるだろうね。でも,いろいろなことを学び経験すると,私みたいにむしろ「モヤモヤよ,こんにちは!」という気持ちになれるんじゃないかな。

(モヤ) うーん,素晴らしいです。僕もDaitoku先生の「D」の意志を継いで,そう思えるよう精進します!


 モヤ先生は,これからもモヤモヤしていくのでしょう。しかし,大徳先生のように「モヤモヤよ,こんにちは!」と言えるようになる日も来そうですね。皆さんもモヤ先生に負けないよう,モヤモヤといっぱい仲良くしてください。1年間,ありがとうございました。

(了)

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