腸閉塞をイレウスと呼ぶのはやめよう(安達洋祐)
寄稿
2014.09.29
【視点】
腸閉塞をイレウスと呼ぶのはやめよう
安達 洋祐(久留米大学准教授・外科学)
「イレウスの分類」は,私の学生時代は試験のヤマであり,今の医学生も勉強している。教科書的には,「イレウスは腸閉塞とも呼ばれ,機械的腸閉塞と機能的腸閉塞があり,前者は単純性腸閉塞と複雑性(絞扼性)腸閉塞,後者は麻痺性腸閉塞と痙攣性腸閉塞に分けられる」となるが,私が今でも理解できず戸惑うのは,「機能的腸閉塞」という言葉である。
「Ileus」をWikipedia(英語版)で引くと,「イレウスは腸蠕動不全による腸管の運搬機能障害である。腸管の弛緩atonyや麻痺paralysisであり,開腹手術でみられ(術後イレウス),急性膵炎や腹膜炎のときにも生じ,聴診で腸音を聴取しない。腸閉塞とは区別して使われ,古い用語の胆石イレウスや胎便イレウスは誤った名称である」と書かれている。
外国の教科書は内容が実践的であり,例えば『Greenfield's Surgery』(Lippincott Williams & Wilkins)には,「Ileus and Bowel Obstruction」という章があり,イレウスと腸閉塞とが区別されている。イレウスは小腸麻痺であり(大腸麻痺の代表は偽性腸閉塞Ogilvie症候群),術後イレウスは手術で腸蠕動が回復するまでの過程であり,アクシデントとしての術後合併症には含めていない。
日常診療で腸閉塞は重要であり,研修医や当直医の初期診療では,輸液と減圧で治癒する単純性腸閉塞(内科的腸閉塞)と緊急手術が必要な絞扼性腸閉塞(外科的腸閉塞)を鑑別することに全力を注がないといけない。そのためにも,欧米のようにイレウスは腸管麻痺に限定して腸閉塞と区別するのが実践的であり,学生や患者にも理解しやすいと思う。
ちなみに,腸閉塞の三大要因は「癒着・ヘルニア・大腸がん」であり,問診では開腹歴(→癒着性小腸閉塞),診察では鼠径部の視触診(→鼠径/大腿ヘルニア),検査では腹部単純写真(臥位で坐骨まで撮影して大腸ガスが主体→閉塞性S状結腸がん)が重要である。絞扼を示唆する所見には,強い腹痛,持続性の腹痛,不穏や冷汗,頻脈や頻呼吸,圧痛を伴う腫瘤の触知,叩打痛や反跳痛,白血球増加・CRP上昇・アシドーシスがあるが,決定的なものはなく,迷うときは腹部造影CT(腎障害に注意)が有用である。
安達洋祐 1983年九大医学部卒。九大,大分大,岐阜大などを経て現職。著書『消化器外科のエビデンス――気になる30誌から(第2版)』,訳書『ゾリンジャー外科手術アトラス』(ともに医学書院)ほか多数を手掛ける。 |
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