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第2932号 2011年6月13日


interview

~恐い,嫌いを克服する~
心電図・不整脈のとらえ方

杉山裕章氏(東京大学大学院医学系研究科・循環器内科)に聞く


 心電図はとにかく「苦手」,また見逃しが「恐い」と思う若手医師の方は少なくないのではないでしょうか。しかし超高齢社会を迎え,不整脈のみならず心疾患を基礎に持つ方の増加が予想されるなか,診断の過程で心電図の果たす役割は増すことはあっても決して減ることはありません。また,循環器を専門としない医師にもその基本的な理解は要求されます。

 そこで本紙では,このたび『個人授業 心電図・不整脈――ホルター心電図でひもとく循環器診療』(医学書院)を上梓した杉山裕章氏に心電図や不整脈のとらえ方についてインタビュー。"苦手⇒心電図をとらない⇒ますますわからない……"という悪循環を断ち切るためのコツを伺いました。


――心電図や不整脈の勉強は,なぜなかなか進まないのでしょうか。

杉山 3つの理由があると思います。1つ目は心電図に対する漠然とした恐れ。2つ目は個々の不整脈疾患に遭遇する頻度が低く系統的な学習が行いにくいこと。そして3つ目には,虚血性心疾患とは異なり,放置した場合でもすぐに致命的とならない状況が多いため,「見なかった」ことにできるという不整脈特有の性質にあると考えています。

――なぜ心電図は恐れられてしまうのでしょうか。

杉山 これは現在の心電図の教育システムに原因があると思います。大半の教科書は「この疾患は,この心電図」というように,"疾患⇒心電図所見"の流れで心電図が記載されています。ところが,心電図を読む上で必要な力は"心電図所見⇒疾患"という逆の流れです。実際の臨床現場はさらに厳しく,教科書のどこにも載っていないような複雑な心電図が呈示されます。いきなり物言わぬ生の心電図波形だけを見て,正しい診断や治療方針を求められるため,恐れてしまう方もいるのだと思います。

 さらに,「心電図所見=臨床診断」となる不整脈は,心電図を攻略できないと全く前に進めないという特徴があります。心筋梗塞など他の心臓病が,心電図以外にも心エコーや血液検査などの情報を加味して総合的に診断するのに対し,基本的に心電図だけで診断が求められる難しさが不整脈にあることも,心電図への恐れに関係しそうです。

――そのような恐れが,苦手意識の悪循環につながっていくわけですね。

杉山 ええ。入院したら診療科によらず心電図をとるにもかかわらず,「心電図は自分の科には関係ない」という認識を持つようになったり,他人に"見逃し"を指摘されるのを恐れて心電図のオーダー自体をしなくなったりすることもあるようです。

 また,3つ目の「見なかった」ことにできるという不整脈の特有の性質から,学習のチャンスを自ら放棄している方もいます。例えば一過性に生じる失神では,医師のもとを訪れた際には何の異常がなくても背後には致死性不整脈があったりするわけですから,「今日の検査では何もない」からといって,見逃さずに積極的に精査していく姿勢が大切です。「見て見ぬふり」は,心電図が読めないことよりも大罪だと私は思っています。

パズル感覚で心電図をとらえる

――では,心電図はどう学習していけばよいのでしょうか。

杉山 教科書とは逆の流れとなる,心電図の所見から病態や疾患を考える訓練が必要です。心電図波形から所見を1つずつ地道に拾い上げ,それらを併せて何が言えるのか頭で考えることがポイントです。臨床心電図学を構成している論理自体は比較的単純なので,読み解く論理さえわかってしまえばそれほど恐くありません。

 初期研修の間は,知識や手技の習得に忙しく,地味で時間もかかる心電図判読のような訓練はどうしても後回しにされてしまうのですが,この状況は改良されるべきと考えています。

――具体的な心電図のとらえ方について,教えてください。

杉山 心電図なんて"パズル"感覚で楽しめばいいと思います。まずは何も考えずに所見を1つずつ拾い上げていきましょう。大事な"(パズルの)ピース"は多くありませんので,それをぜひとも指導医から習ってください。

 の心電図を見てください。一見,複雑そうな波形に見えますが,この中から幅や高さの異常や不整脈をピックアップしていきます。V1誘導をよく見てほしいのですが,これは心房粗動がベースにあるペースメーカー患者の心電図です。QRS波では,幅の広い部分はペースメーカーが収縮を担い,幅の狭い部分は自己脈が出ていて,タイミングによって心室ペーシングが入ります。さらに自己QRS波は,V5やV6誘導で振れが大きく独特のST-T変化を示し,左室肥大が疑われます。ところが,実際には左室肥大はなく,むしろ左室拡大のある低心機能の慢性心不全症例です。さらに実はジギタリスを内服していますが,教科書に金科玉条のように示されている"盆状ST低下"はないですよね? 実際の心電図はこのように難しいのですが,パズルを解くように焦らず1つずつ"ピース"を探していけばよいでしょう。

 一見すると難しそうですが……

 もう1つ,診断から対処法までを1つの症例で学ぶことが重要です。そうすることで心電図だけでなく患者全体を診ることにもつながり,患者を治す喜びが得られます。不整脈は診断が治療に結びつく疾患が多いので,"診る"ために心電図を"読む"癖をつけることが大切だと思います。

――とにかく心電図に慣れることが第一歩ですね。

杉山 私自身,学生時代は心電図を全く読めませんでした。ただふとしたきっかけで参加した,東大老年病科の大内尉義教授が開催する心電図のセミナーで,自分に割り当てられた心電図を読み,所見を述べて自分なりの診断をつけるという訓練を,週1回,1年間続けました。この訓練がやはり大きかったと今では感じています。

インターネットも心電図も「使えるか」が重要

――心電図に対する苦手意識を持つ研修医は多いと思います。苦手意識を克服するためには,どのような心持ちで心電図に向かえばよいか教えてください。

杉山 心電図への苦手意識をなくす1つの方法は,理由探しをやめることです。心筋梗塞でSTが上昇する理由を考えず,「STが上がったら心筋梗塞」とあっさり認めてしまうことが重要だと思います。心電図はアイントーベンの時代から経験に裏付けられたツールです。理由を求めず,そこから得られる診断と治療にエネルギーや情熱を注ぐことのほうが大切だと思っています。

 私は「心電図はインターネットと同じ」だと思っています。インターネットは,それを使って何ができるかが重要で,歴史や原理に関する知識は使用する上で必要ありません。心電図も同じで,要は「使ってみろ」ということを最も伝えたいと思います。

 もう1つ,診断基準ばかりに拘泥しないことも重要です。かつて私も,「左室肥大は○誘導のR波高が△mm以上」などと,必死に覚えていた時代がありました。しかし,大事な基準は折に触れてわかってきますので,細かい基準は一度すべて忘れてしまって構いません。臨床に即して大まかに心電図の特徴をつかんでいくほうが理解も早まります。肩の力を抜いて気軽に臨みましょう。

まずはコンサルトする癖を身につけよう

――最後に,初期研修の2年間で「これだけは押さえてほしい」ことを教えてください。

杉山 自分の受け持ち患者の心電図の説明を,きちんと行えることを最初の目標にするとよいでしょう。その上で,基本的な心電図の波形診断ができるようになってほしいと思います。特に,命にかかわるような心電図診断は必ず行えるようになってください。

 また不整脈では,頻脈であればBLSやACLSに登場する心停止の不整脈をまずは押さえてほしいと思います。また徐脈では,ペースメーカーが必要かどうかが問われる疾患は洞不全症候群と房室ブロックの2つだけなので,めまいやふらつきなどの症状が出るような症例の診断や対処法は,すべての研修医の先生に押さえてほしいと願っています。

 ただ初期研修の間は,自分ですべて解決するのでも,わからないときに放置するのでもなく,コンサルトする癖をつけることがいちばん大切です。経過観察する場合でも,自信がないときは必ずコンサルトしてからのほうがよいでしょう。心電図を読むこととは少し離れますが,まずはこうした姿勢をしっかり2年間で学んでほしいと思います。

――ありがとうございました。

(了)


杉山裕章氏
2003年東大医学部卒。同大病院,東京厚生年金病院で内科研修後,心臓血管研究所を経て08年より現職。目下のところ臨床不整脈やカテーテルアブレーション,重症心不全の心臓デバイス治療などの非薬物治療に全力投球しつつ,一方で自身の経験や苦労を基に,心電図に悩む医学生・研修医にできるだけ具体的かつ理解しやすいアドバイスができないか日々模索中。著書に『個人授業 心臓ペースメーカー』(医学書院)など。勉強・講習会や執筆依頼も大歓迎です。
E-mail: hsugiyama-tky@umin.org