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第2911号 2011年1月10日


それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴

【第11回】

不整脈:WPW症候群

志賀隆
(Instructor, Harvard Medical School/MGH救急部)


前回よりつづく

 わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。


 新年を迎えた週末の夜。忙しい救急部の予診票をめくると,若い男性の「動悸」とある。ACLSを受講して少し自信があるあなたは,小走りで患者のもとへ。

■CASE

 28歳男性。健診で心電図異常を指摘され,経過観察をしている。13時ごろから突然動悸が出現。約2時間経っても収まらず,胸部不快感を伴ってきたため来院。心拍数215/分,不整。血圧110/60 mmHg,呼吸数18/分,SpO2100%(RA)。意識は清明。呼吸音清。心音頻脈にて不整。雑音なし。四肢腫脹・チアノーゼなし。

 まずは心電図をとって,早めに上級医にコンサルトしたほうがよいとあなたは考えた。

■Question

Q1 頻拍患者へのアプローチはどのように行うか?
A 低血圧(ショック)はないか,胸痛・息苦しさをはじめとする心不全徴候・めまいを訴えていないか,などを確認する。

 頻拍患者では,不安定なサインの有無を確認することが重要である。不安定な患者の場合には,同期下でのカルディオバージョンが必要となる。

 また,標準12誘導心電図のQRS幅を確認することも不可欠である。

Q2 幅の広いQRSを見たらどうするか?
A 不安定かどうかを見た後に,リズムが整か不整かを判別する。

 リズムが整の場合,心室頻拍を第一に考え,除外できるまで検討する。不整の場合は,心室応答の速い心房細動に変行伝導を伴ったものの可能性も考える。

Q3 本症例の心電図(図1)をどう解釈するか?
A WPW症候群に伴う,副伝導路からの心房細動が疑われる。

 WPW症侯群を疑う根拠は,(1)脈拍数が250/分前後とかなり早く,(2)QRSの形状が通常と異なり,また拍動ごとに広さが変わる,ことである。若年の患者でこのような心房細動が見られる場合には,WPW症候群を常に考慮する必要がある1)

図1 治療前の患者の心電図

Q4 心室頻拍をサポートする心電図所見は何か?
A いくつかあるが,絶対的なものはない。

 心室頻拍を絶対的に診断する心電図基準はいまだ確立されていない。しかしながら,以下の項目は心室頻拍を示唆する。

1)脈拍数が120/分以上(通常は150-200/分)
2)幅の広いQRS(RBBB型で140 ms,LBBB型で160 ms以上)
3)房室乖離の存在
4)融合収縮(Fusion beats)
5)補足収縮(Capture beats)

 ほかに,安静時心電図との電気軸の違い(PVCと同じ軸であるなど)も心室頻拍を示唆する。しかしながら,前述のように,一般的に幅の広いQRSを見た場合には,変行伝導を伴った上室性頻拍と考えるよりも,救急医は常に心室頻拍を第一に考えて治療に当たる必要がある2)

Q5 WPW症候群に伴う心房細動の治療において,気をつけるべきことは何か?
A 房室結節に作用する薬剤を使わないこと。

 房室結節は,バックアップのペースメーカーであるだけでなく,心房から心室への過剰な電気刺激をフィルターして抑える機能も持っている。顕在性WPW症候群に心房細動が起こり,その際に副伝導路からの伝達が多い場合,房室結節によるフィルターが働かないために心室細動に移行するリスクがある。このときに,通常の心房細動の治療であるカルシウム拮抗薬,β遮断薬,ジゴキシンは禁忌である。

 薬剤治療としては,プロカインアミドやイブチライド(日本では認可されていない)が勧められている。アミオダロンには房室結節作用があり,WPW症候群に伴った心房細動には危険性があるという報告もある。通常の心房細動と違い,同期カルディオバージョンを早めに考慮すべき病態である3)

Q6 顕在性WPW症候群,潜在性WPW症候群とはどのような疾患か?
A 心電図上明らかなデルタがあるもの(顕在性)とそうでないもの(潜在性)。

 WPW症候群は副伝導路によって起こるが,副伝導路の中には順行性(心房→心室)のみ伝えるもの,順行性と逆行性(心室→心房)の双方を伝えるもの(顕在性)と,逆行性のみを伝えるもの(潜在性)がある。顕性WPW症候群の安静時心電図では,WPW症候群に特有の,(1)デルタ波,(2)PR短縮,(3)QRS延長,が見られるが,潜在性ではこのような所見がなく,いきなり心房細動や上室性頻拍にて診断されることがある。

■Disposition

 血行動態が保たれていたため,循環器内科医にすぐに相談すると,やはりWPW症候群に伴う心房細動と診断された。プロカインアミド投与後に洞調律となる(図2)。入院し,アブレーション治療が行われた。

図2 プロカインアミド投与後の心電図

■Further reading

1)Fengler BT, et al. Atrial fibrillation in the Wolff-Parkinson-White syndrome : ECG recognition and treatment in the ED. Am J Emerg Med. 2007 ; 25(5) : 576-83.
↑WPW症候群における心房細動の診断治療についてまとめてある。
2)Ventricular Tachycardia : eMedicine Emergency Medicine
↑ウェブサイトの情報であるが,前述の心電図所見や実際の心電図などが非常に良くまとまっている。
3)Tijunelis MA, et al. Myth : Intravenous amiodarone is safe in patients with atrial fibrillation and Wolff-Parkinson-White syndrome in the emergency department. CJEM. 2005 ; 7(4) : 262-5.
↑WPW症候群における心房細動の治療でオプションと考えられていたアミオダロンへ警鐘を鳴らす論文。

Watch Out

 頻脈性不整脈では,安定か不安定かを見極めることが最初のステップである。不安定ならば,同期カルディオバージョンを行わなければならない。そのような状況下では,ためらうことが禁忌である。心室応答の速い心房細動でカルシウム拮抗薬やβ遮断薬を投与する前にWPW症候群がないことを必ず確認すべきである。リズム整のQRS幅の広い心室頻拍では,心室頻拍を常に鑑別の最優先にすべきである。

つづく

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