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第2860号 2009年12月21日


第10回日本クリニカルパス学会開催

さらなる飛躍をめざし,次の10年に向けて議論


 第10回日本クリニカルパス学会が12月4-5日,松波和寿会長(松波総合病院)のもと,長良川国際会議場(岐阜県岐阜市)他にて開催された。10回目という節目を迎えた今回は,「原点回帰――クリニカルパスのもたらしたもの,めざすもの」をテーマに,次のステップに進むためのさまざまな議論が交わされた。また,一般演題はすべてポスター形式となり,発表者と聴衆が熱心にディスカッションする姿が会場のあちこちで見られた。


救急医療におけるクリニカルパスの可能性を探る

松波和寿会長
 救急医療への社会的ニーズが増すなか,医療者にはよりいっそうの質保証や患者との信頼関係の構築などが求められている。しかし,救急医療におけるチーム編成や専門性は流動的であり,対象傷病も多様であるため,クリニカルパスによる標準化・連携が必要なのではないか。そのような問題意識のもとに行われたシンポジウム「救急医療の観点からみたクリニカルパスの活用――救急医療のニーズがますます高まる今,パスでできる実践的な工夫」(オーガナイザー=トヨタ記念病院・岡本泰岳氏,東医大病院・織田順氏)では,救急医療にクリニカルパスを導入している施設の先進的な取り組みが紹介された。

 まず,3人の演者が具体的な事例を提示。永江浩史氏(聖隷三方原病院)は,急性結石性腎盂腎炎における患者状態適応型パスの作成・運用について紹介した。急性結石性腎盂腎炎は日常的に遭遇する疾患でありながら,診療が標準化されていない。救急診療では,「入院させるべきか」「初期治療として腎盂尿ドレナージを行うか」という2つの判断を迫られることから,氏らは患者状態適応型パスを作成するとともに,重症度判定基準とドレナージ適応基準を設定したという。

 脳梗塞の超急性期治療においては血栓溶解剤のt-PAが2003年に認可されたが,発症後3時間以内に投与しなければならないため,全脳梗塞患者の2-3%にしか適応されていない。以上の点を踏まえ,伊藤泰広氏(トヨタ記念病院)は,t-PA療法を効率的に実施するために作成した脳卒中プレホスピタルスケールについて紹介。さらに,救急外来,ICU,脳卒中センターにおける3つのパスを連続して運用し,標準的・効率的な診療につなげていると述べた。

 竹村隆広氏(佐久総合病院)は,心臓血管外科施設の集約化が進むなか,スムーズな地域連携を目的に作成した緊急手術症例用連携パスについて報告。院内,院外における連絡体制を明文化するとともに,紹介病院での検査から同院転院後術前までのプロセスを標準化し,地域連携会議において提案したという。氏は,紹介時の必要情報等を規定したことにより,検査所見の再確認などが減少したと述べた。

 続いて,高橋毅氏(国立病院機構熊本医療センター)と石井由美子氏(国保旭中央病院)が,救命救急センター全体から見たパスの有用性についての検討を報告。熊本医療センターは,救急医療においてもパスを積極的に使用している。高橋氏は軽症患者の経過観察入院用に作成した「経過観察入院パス」を紹介。入院時に確定診断が付かない症例や重症者にも適応しているという。さらに,新たなパスへ移行するための“継続クリニカルパス”としての役割も担っているとし,他のパスを自由に組み込める新しい形のパスの有用性を説いた。

 国保旭中央病院では,2001年からERにクリニカルパスを導入。現在35の医療者用パス,13の患者家族用パスを有している。石井氏は,2006年より行っている全例バリアンス分析の結果を提示。バリアンスは全体の3割に発生し,医療者バリアンスは全体の2割にのぼると述べた。特に研修医の夜間救急勤務開始時期よりバリアンスが上昇しているとの結果が得られたことから,研修を実施しているという。

がん化学療法とクリニカルパスの相性は?

 近年がん化学療法の標準化が進むとともに,化学療法の場が入院から外来通院治療へとシフトするなど,多職種における密接な連携が不可欠となっているが,がん化学療法におけるクリニカルパスの導入は進んでいない。シンポジウム「がん化学療法とクリニカルパス――なぜ,標準治療なのにクリニカルパスにならないか」(オーガナイザー=みやぎ県南中核病院・蒲生真紀夫氏,武蔵野赤十字病院・村木泰子氏)では,がん化学療法マネジメントとパスにおける課題が議論された。

 三輪峰子氏(岐阜大病院)は,同院における電子クリニカルパスの現状を報告。同院では,現在94のレジメンと,7つのレジメン・パスが登録されている。氏はレジメン・パスのメリットとして治療の標準化や医療者間・医療者-患者間の情報共有,インシデント防止などを挙げ,安心・安全・効果的ながん化学療法が可能になると述べた。

 癌研有明病院では,新規抗がん剤を安全かつ効率的に運用するために,抗がん剤導入前に多職種からなるチームを結成し,効果や副作用などの情報共有や治療の標準化を図っている。同院の川上和宜氏は薬剤師の視点から,抗がん剤投与スケジュールの決定や患者向け説明書の作成,副作用対策などにおける薬剤部の役割の重要性を指摘した。

 仁科智裕氏(国立病院機構四国がんセンター)らは多施設共同で,がん診療連携拠点病院で共有するクリニカルパスのデータベース構築に取り組んでいる。氏は,多施設による議論によりエビデンスに基づく診療内容を再確認できること,エビデンスが乏しい診療内容におけるコンセンサスが得られるなどの利点を挙げた。

 国立がんセンター中央病院は,2年前に電子パスを導入した。同院の島井健一郎氏は,同院における電子パスの使用状況と次期リニューアルに向けた改善点について説明。特に欠落しがちな副作用の情報についても電子マスターとして搭載したいと述べた。

 続いて座長の村木氏が,外来における抗がん剤治療クリニカルパスの導入が進まない理由として,患者の普段の生活を含めたパス作成が難しいこと,患者ごとに異なる多様なアウトカムや治療目的が存在することなどを挙げた。さらに,患者の心身状態に寄り添うアウトカムの設定が必要だとし,パスやチェックリスト,看護計画などを組み合わせた導入の有用性を示唆した。

 座長の蒲生氏は,新規薬剤の導入が急速に進むなか,それぞれのレジメンにおいて個別のクリニカルパスを作成することは困難だと指摘。氏らが作成した,短期入院治療における化学療法に共通の看護手順,指導手順に絞った“がん薬物療法汎用パス”について紹介した。氏はこれにより,入院治療のマネジメントが効率的になったと述べ,外来化学療法マネジメントへの応用の可能性を示唆した。