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第2845号 2009年9月7日


小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第9回】 嘔吐=消化管,とは限らない

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

嘔吐の原因といえば,まず胃腸炎などの消化管疾患が思い出されるでしょう。しかしながら,実際はさまざまな原因で嘔吐は出現します。今回は,小児の嘔吐について,どのようにアプローチしたらよいのかを勉強しましょう。

Case1

 8か月男児。自宅で「ゴトッ」という音がしたので母が見に行くと,床の上に倒れていた。その後,数回嘔吐したあと,ぼんやりした状態が続くためER受診。

Case2

 1歳女児。1週間前からの感冒症状,昨日からの発熱。食事もきちんととれており,機嫌も悪くない。母「夜になると,何回か吐くんです。胃腸炎ですか?」。

Case3

 11か月女児。昨日からの発熱。ぐったりはしていないが,機嫌が悪い。母「食べても,すぐに吐くんです。」

臓器別:嘔吐の原因

 嘔吐の原因は,消化管のほかにもたくさんあります。小児の場合,年齢によっても異なりますが,臓器ごとに覚えておくとよいでしょう(図)。というよりも,ほぼ全身の臓器が原因となるので,診断がつかない場合は上からひとつずつ順に考えていく必要があります。

 臓器別の嘔吐の原因

 発熱・嘔吐が主訴でも,尿路感染症ということがあります。例えば尿管鏡検査の際,うまく腎臓のレベルまで麻酔がかかっていないと嘔吐してしまうことがあります。これは尿管の内圧が高くなると,反応性に嘔吐が出るためです。意外なところでは,心不全があります。乳児の場合,ほかにまったく症状がない場合があるので,肝腫大がないか,むくみがないかも確認しましょう。

 また,小児の場合,外から入ってくる原因についても注意が必要です。なかでも,原因不明の突然の嘔吐は,薬物中毒ということもあります。最近はあまり使用しなくなりましたが,テオフィリンを内服している児が,マクロライド系の抗菌薬を併せて服用したりすると,血中濃度が上昇してしまうことがあります。また,乳幼児では,異物誤嚥・誤飲にも注意が必要です。突然嘔吐が出現し,その後ニコニコしながら一日数回嘔吐し,三日後に500円玉が食道にひっかかっていたことがわかった児もいました。

お母さんの言う「嘔吐」

 乳幼児の場合,自分で症状を表現することができないため,お母さんなどの家族が症状を説明することになります。その際に問題になるのが,お母さんの言う「嘔吐」です。問診をしている際,「吐くんです」と表現しているものが,客観的には「嘔吐」と呼べないようなものの場合もあります。お母さんの言う「嘔吐」には,表の三つが挙げられます。

 お母さんの言う「嘔吐」とは

 (2)の「咳き込み後の嘔吐」については,マイコプラズマ・百日咳・喘息のように,強い咳嗽によって出てしまう場合と,副鼻腔炎による後鼻漏や胃食道逆流による胃酸により食道が刺激されることで嘔吐してしまう場合(より正確には,「むせ込み後嘔吐」)があります。また,(3)の「嚥下拒否」のような場合も,家族が「嘔吐」と表現してしまうことがあります。「口に入れてみたら痛かったので出した」「のどが痛くて飲み込むのが嫌で出した」といったようなものがこれに当たります。これらに対して,腸重積や髄膜炎など,見逃してはいけない疾患は,(1)に当たることがほとんどです。

マネジメント――Case1

 頭部外傷を疑い,脳のCTをとったが異常なし。発熱はなかったが,ぼんやりした状態が持続したため採血・ルートキープをすることに。点滴の針を刺しても反応がないが,それとは関係なく突然泣き出す。「痛み刺激に反応しない」ことから意識障害と考え,髄膜炎を否定するため腰椎穿刺をするも正常。その後,経過観察のため入院となったが,オムツをあけると血便が出ていた。注腸造影にて,腸重積と判明((1)真の嘔吐)。

マネジメント――Case2

 咽頭の診察にて,著明な後鼻漏あり。よく話を聞くと,夜になると咳き込んで,どろっとした鼻水混じりのものを嘔吐するとのこと。感冒罹患後の副鼻腔炎と診断((2)咳き込み後の嘔吐)。

マネジメント――Case3

 診察上,意識は正常で,首は硬くない。咽頭に著明な発赤あり,一部潰瘍を形成している。よく話を聞くと,口に入れたものをぺっと出すとのこと。流行状況も考慮し,ヘルパンギーナと診断((3)嚥下拒否)。

Check!! KLRモデル

Knowledge:嘔吐の原因を,臓器ごとに挙げられるようになろう
Logic:緊急性を要する,見逃してはいけない疾患を除外しよう
Reality:家族の言う「嘔吐」が実際には何を指しているのかを確認しよう

Closing comment

 小児科では多くの場合,問診はお母さんなどの家族が対象になります。まったく同じ現象を説明するにも,人によって表現の仕方や用語の使い方が異なります。「吐くんです」と言われたら,「咳き込んだ後とかですか?」「口に入れたものをぺっと出す感じですか?」「それとも普通にオエッと吐きますか?」といったように,具体的に聞くようにしましょう。その後で,「嘔吐」「咳き込み後嘔吐」「嚥下痛」のようにカルテに記載します。うまく表現できない症状は,無理に何かの用語を使うより,そのまま書いたほうがよい場合もあります。

■COLUMN 聞くは一時の恥,聞かぬは一生の恥

 同じ用語でも,研修医・指導医・看護師さんなど各人がまったく違う意味で使っていることがあります。言葉というのは,実は客観性があまりなく,思わぬ誤解を招くこともあります。特に,英語の略語には注意が必要です。例えば,「この患者さん,MRあるの?」と指導医がMental Retardation(精神発達遅滞)のことを尋ねているのに,研修医はMitral Regurgitation(僧帽弁逆流)のことを聞かれたと思っている,というような場合もあります。「あれっ? どういう意味かな?」「何か話がかみ合ってないぞ?」と思ったら,「先生の言っている○○って,□□っていうことですよね?」ときちんと用語を確認しましょう。聞くは一時の恥,聞かぬは一生の恥,ですね。

つづく

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