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第2829号 2009年5月11日


小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第5回】呼吸促迫のマネジメント(2)
上気道閉塞その1:クループ症候群

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

前回は,気管支喘息・RSウイルス性細気管支炎を中心とした,下気道閉塞について勉強しました。今回と次回は,上気道閉塞について勉強したいと思います。今回はクループ症候群のマネジメントについて,次回はその他の上気道閉塞を起こす疾患について学びます。

Case

 夜8時,研修医のあなたは救急外来に呼ばれました。1歳の男児が感冒症状で受診したとのことです。診察ベッドのカーテンの向こうで,泣きながらオットセイのような声を出している子がいます。看護師さんが,「吸入しますか?」と聞いています。

クループ症候群:声門下狭窄

 図1は,気道をモデル化したものです。上気道は大きく鼻咽頭・喉頭・気管に分けることができます。声門は,喉頭部分にあります。「声門下」とは,声門の直下から気管までの間を言い,ここが何らかの原因で狭窄する疾患群をクループ症候群と呼んでいます。原因はパラインフルエンザなどのウイルス感染であることがほとんどです。

図1 上気道

 上気道の最も狭い部分は,成人では声門部ですが,クループ症候群を発症する4歳未満の小児では,声門下です。Poiseuilleの法則(生理学の教科書を参照)によると,気道の抵抗はその半径の4乗に反比例します。ただでさえ狭い小児の声門下に,ウイルス感染により気道粘膜浮腫が起こると,4乗のパワーで気道抵抗が増大するのです。それにより気流が層流から乱流になり,吸気時喘鳴(stridor)が生じます。

クループ症候群の重症度評価

 クループ症候群の診断は難しいものではありません。2,3日の感冒症状ののち,嗄声(声のかすれ),犬吠様咳嗽(咳のこと。犬というより,「オットセイが鳴くような」と表現したほうがお母さんたちにはわかりやすいです)があればクループ症候群である可能性が高くなります。他にも鑑別すべき重要な疾患がありますが,そちらについては次回で説明します。

 表を見てください。「啼泣時」か「安静時」かで,同じ所見が軽度・中等度に分かれています。この意味を知るには,啼泣が換気メカニクスに与える影響を考える必要があります(図2)。啼泣時は,より多くの空気を吸い込もうとするため,吸気時の胸腔内の陰圧が通常よりも強くなります。それにより,気道内も通常より陰圧の状態となります。臓側胸膜の内側にある気管支などは,より陰圧の強い胸腔側に引っ張られるため内腔が広がるのですが,声門下の部分について考えると,首の周囲は大気圧を無視すると圧がゼロとなるため,逆に内腔が狭くなってしまうのです。要するに,「啼泣時に症状が出てしまうのは仕方がない。逆に,泣いてもいないのに症状が出ているということは,上気道の狭窄がかなり強いのだ」ということになります。

 クループ症候群の重症度評価

図2 啼泣が声門下狭窄に与える影響

 クループ症候群の児は,最初の診察時には啼泣していることが多いのですが,その時点で重症に相当する所見があればすぐに治療を開始します。それ以外は,少し時間を置いて泣きやんだところで再度診察し,それでもstridor・陥没呼吸があれば中等度として入院加療とします。

「軽症に対するボスミン吸入」に注意

 図3は,クループ症候群の自然経過を表しています。一般的に,夜に症状が悪化します。クループ症候群の治療は,ボスミン吸入と全身性ステロイド(通常はデキサメタゾンの注射)です。ボスミン吸入の効果は吸入後すぐに現れ,3-4時間は持続します。一方,ステロイドは注射で使用しても効果が現れるまで4時間程度かかりますが,24時間以上持続します。クループ症候群はほとんどがウイルス疾患のため自然軽快しますが,症状のピークは24時間程度ですので,「ボスミン吸入→全身性ステロイド投与(1回)」でこの時間をカバーできることになります。

図3 クループ症候群の経過

 重症の場合,すぐにこの治療を開始します。気管内挿管になることはほとんどありませんが,万が一の場合に備えて準備だけはしておきます。中等度の場合も,入院して上記の治療を行います。問題なのは,軽症の場合のマネジメントをどうするか,ということです。「クループ症候群=ボスミン吸入」と思われていることが多く,救急外来ではほとんどの症例で吸入が施行されているようです。実際すぐに症状がよくなるので,親からとても感謝されます。しかしながら注意が必要なのは,「ボスミン吸入後のリバウンド」があることです。前述の通りボスミン吸入の効果は3-4時間で切れてしまうのですが,その際治療前よりも症状が悪化する場合があるのです。それでもまたすぐに受診してもらえばよいのですが,自宅が病院から遠く離れているときは,中等度→重度→窒息,と非常に重篤な状態となって搬送されてくる可能性もあります。

 軽症については,治療は何もせず,再診する必要のある症状(つまり中等度の所見)を親に指導して帰宅させて構いません。何もしないのもためらわれる場合は,もちろんボスミン吸入をしてもよいのですが,帰宅させる際には住所をきちんと確認する必要があります。筆者が研修医のとき,夜中の1時に車で3時間かかる場所から当院を受診した軽症のクループ症候群の子を診たのですが,親に説明をして朝まで救急外来にいてもらったことがあります。

マネジメント――Case

 実際に診察して重篤感がなければ,診断はクループ症候群でよさそうです。ただ,泣いているときの診察だけでは軽症・中等症の判断ができません。重症の所見がないことを確認し,少し時間を置いて泣きやんだところで再度診察しましょう。stridor・陥没呼吸が消えていれば軽症,あれば中等症で入院管理となります。

Check!! KLRモデル

Knowledge:クループ症候群の重症度評価を覚えよう
Logic:入院加療の必要性については,非啼泣時の所見をとろう
Reality:ボスミン吸入のリバウンドに注意しよう。帰宅させるときは必ず住所を確認しよう

つづく

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