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第2825号 2009年4月6日


知って上達! アレルギー

第1回
アレルギーって,何科?

森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)


臨床において出合うアレルギーと免疫疾患について,最近の知見や雑学を交えながらわかりやすく解説します。アレルギーに興味を持って,ついでに(?)診療スキルをアップさせていただければ,筆者にとってこれに勝る喜びはありません。


「アレルギーなんて関係ないや」「免疫って難しい」なんて思っている方は多いかもしれません。しかし,どの診療科の医師であれ,薬物に対するアレルギー反応にたびたび遭遇されることでしょう。また,身近に花粉症やアトピー性皮膚炎でお悩みの方もおられることでしょう。学生時代に悩まされた免疫学にしても,そこで学んだ免疫機能がなければ1日たりとも健康には過ごせません。そんな身近で重要なアレルギーについて,わかりやすく書いていきたいと思います。

アレルギー診療科がなくなる!?

 さて,みなさま,アレルギーというと何科のイメージを持たれるでしょうか。花粉症が多いから耳鼻科? 喘息が致命的だから呼吸器科? いや,アトピーというとアトピー性皮膚炎を思い出すから皮膚科? 食物アレルギーは小児科かも,それなら大人は……?

 やっぱりわかりにくいですね。昨年には,アレルギー科という名称は患者を混乱させるので診療科として禁止される可能性がある,というニュースがありました。アレルギー科を標榜していても,患者さんから「そちらはアレルギー科ということですが,内科ですか? 皮膚科ですか? アトピー性皮膚炎を診てほしいのですが……」といった問い合わせの電話がくることもあります。米国ではこのような質問をされることはまずありません。アレルギー免疫科は立派な臨床の専門科として確立しており,花粉症・喘息・アトピー性皮膚炎などについて診療を行うことは一般にもよく知られています。

 今回は連載第1回目ということで,このような事情の背景にある日米の大きな違い,つまり医師間のコミュニケーションについてお話ししましょう。

必要なのはプレゼンテーション力

 かれこれ10年くらい前のことになりますが,米国で臨床留学を始めて驚かされたのは,医師の「教えるTeaching」こと,「学ぶLearning」ことに対する真摯な姿勢でした。症例ごとに論文からのエビデンスを含めて指導医と診療方針のディスカッションが行われ,ここで指導医と研修医は双方に切磋琢磨し合います。このディスカッションのほとんどは症例プレゼンテーションから始まります。日々,外来であれ,病棟であれ,「診療した人数=プレゼンテーションをした人数」という方程式が成り立ちます。

 よいプレゼンテーションをするには,患者さんの把握と,しっかりした医学知識が必要となります。数分間のプレゼンテーションを聞けばどの程度の診療をしているかは察しがつきます。研修医や医学生の評価もほとんどがプレゼンテーションの質で決まるため,米国ではプレゼンテーションについて医学生の時期から徹底的に意識してトレーニングをします。米国人医師の中には「内科レジデント期間はプレゼンテーションをマスターするためにある」という方もいました。

 私の内科レジデント期間に知り合った友人がこの経験をもとに本を書かれましたが,納得がいきます()。つまり,米国では医師になる過程で,コミュニケーション能力を徹底的に鍛えあげているのです。

 このコミュニケーション能力に相まって,ディスカッション自体に私情が絡まず,客観的なものであることにも驚かされます。例えば,教授の提案する治療方針に対して,1年目の研修医が足を組みながら,最近の論文をもとに,より良さそうな治療方針をぶつけ,それらをもとにして両者が最善の治療法を探そうとするシーンも新鮮でした。日本でこのようなことはまずみられないと思います。

 また,耳鼻科の医師が論文をもとに,喘息の治療法を内科の医師に提案しているところなども日本では想像しにくいですね。このような他科の医師への治療法に疑問をぶつけることなども,米国では日常的にみられます。

分野別,臓器別の研究は進んでいるけれど…

 これらのことは,多臓器・多科にわたって複数の医師が関係する腫瘍科や感染症科の発展のために特に重要なことです。日本では,これらの専門科の重要性が近年になってクローズアップされていますが,米国ではずっと以前より医療現場にしっかり根ざした専門科です。もちろん,日本の腫瘍分野・微生物分野の基礎研究は世界のトップレベルであり,また疾患別に優れた臨床研究・成績を挙げている医療機関もあり,それらは疑いようがありません。しかし,それが日本全体でみた臨床の腫瘍科・感染症科の姿を表すわけではないことはご存じのとおりです。

 これは,わが国のアレルギー免疫医療においてもまったく同様です。アレルギー疾患は鼻・皮膚・肺・消化器と多臓器にわたります。アレルギー疾患の分野別,臓器別での研究は進んでおり,基礎研究の内容も世界最先端です。しかし,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などを合併しているような典型的なアレルギー患者さんが受けている医療はどうでしょうか。花粉症は耳鼻科医に治療されていながら,気管支喘息はほとんど放置されていて,風邪のたびに長引く咳から「気管支炎」という診断で抗生剤だけが何度となく処方されていたり,気管支喘息は内科医に治療されていながら,アトピー性皮膚炎には時々ステロイド軟膏1本が漫然と処方されているだけだったりすることもあります。中には,それぞれの疾患に最善の治療を求められる患者さんが,一人で耳鼻科・呼吸器科・皮膚科と多くの医療機関にかかっているのを見かけることもあります。

コミュニケーションの垣根がアレルギー診療を難しくする

 江戸時代の日本では,医師が他の医師の診察している部屋に入ることさえ禁じられていた,とも聞いたことがありますが,医師が医師を教えたり,医師と医師が批評を交わすことに遠慮がちな,つまりコミュニケーションに乏しくなる風潮が旧来からあるのかもしれません。日米間のこれら多臓器にわたる臨床専門科の発展の違いには,医師間のコミュニケーションの垣根という問題が大きいのではないかと考えさせられます。このような垣根の中に閉じ込められて,アレルギー医療は,もしかしたら片手間に行われるような,地味な臨床分野にとらえられているかもしれません。

 このような状況にあるからこそ,情報が少なく,あまり知られていないことも含めて,さまざまな方にアレルギー科のアレルギーについて多くのことを知っていただきたいと願っています。一人でも多くの読者の方がアレルギー免疫に興味を持ち,さらに質の高い診療を患者さんに提供していただければ幸いです。

つづく

)岸本暢将:米国式症例プレゼンテーションが劇的に上手くなる方法──病歴・身体所見の取り方から診療録の記載,症例呈示までの実践テクニック,羊土社,2004. 連載一覧