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第2813号 2009年1月12日


レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第10回 〕

失敗ケースから学ぶ! 最初の抗菌薬治療に失敗したら(前編)

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

今回と次回は,抗菌薬初期治療が無効の場合の対応について勉強したいと思います。

■CASE

ケース(1)

 30歳女性。ADL自立。2か月続く37℃台の微熱,関節痛,食欲低下,全身倦怠感が強くなった。外来にてセフジニル処方し改善なく,モキシフロキサシン処方し効果なかった。

ケース(2)

 25歳男性。ADL自立。38℃の発熱,咽頭痛で受診。細菌性咽頭炎の診断でアモキシシリン内服処方。翌日も解熱せず咽頭痛悪化のため再診。外来担当医はレボフロキサシンを処方しようとした。

ケース(3)

 82歳女性。肺炎で入院。アンピシリン・スルバクタムにて治療。入院4日後に再度発熱,下痢,腹痛および白血球上昇あり。便CD抗原陽性。偽膜性腸炎の診断でバンコマイシン点滴静注開始するも改善なし。

ケース(4)

 70歳男性。脳梗塞後遺症でベッド上寝たきり。誤嚥性肺炎で入院し,アンピシリン・スルバクタム1.5g×3投与されていた。3日目になっても解熱せず。主治医は誤嚥が継続と考え絶食したが,5日目になっても解熱せず。上級医はペニシリン系抗菌薬は弱いと判断,カルバペネムへの変更を指示。

ケース(5)

 70歳男性。発熱悪寒,排尿困難で入院。尿路感染症の診断でセフトリアキソン投与。2日で解熱し10日後に退院となった。尿培養からセフェム系およびキノロン,ST合剤などに感受性のある大腸菌が陽性。退院2週間後に再度,発熱悪寒,排尿困難となり,泌尿器科受診し前立腺炎の診断で入院加療。

ブロードスペクトラムになる前に
 抗菌薬治療を開始しても,解熱しなかったりCRPが改善しないと悩むことは多いと思います。しかし,そこで「やっぱりブロードにカルバペネムやキノロンで」と安易に抗菌薬を広域化することは最適な治療法ではありません。また,昨今の敗血症救命キャンペーンに則って「広域スペクトラム→培養結果がわかり次第狭域スペクトラムの抗菌薬へスイッチすること」と,「“待てる(敗血症ではない)”感染症で広域スペクトラムの抗菌薬を使用すること」もイコールではありません。

 最初の抗菌薬治療に失敗したと思ったときは,まず患者さんの状態が以下のどの状況にあるかを検討しましょう。

 I.解熱しないが,状態は安定ないし改善傾向,II.解熱せず,考えている感染臓器パラメータが増悪傾向,III.いったん解熱したが,再度発熱し臨床的に増悪傾向

 III.の場合は,以前に病院内での発熱へのアプローチで検討した流れで対応するとよいでしょう(第2回参照)。

 I.II.を軸にして,考える流れとしては図のようになります。

各ケースのチェックポイント(表)

 治療無効時に検討する9項目((1)~(5))*(6)~(9)は次回に掲載
(1) 感染症ではなく,薬剤熱,悪性腫瘍,自己免疫疾患などの非感染症性疾患
→対応:診断の再考
(2) 抗菌薬無効の感染症=大部分のウイルス感染症
→対応:抗菌薬の中止
(3) 抗菌薬選択の誤り(抗菌スペクトラム,カバーが不適切),投与量・投与経路の誤り
→対応:抗菌薬の変更・追加,投与経路・投与量の変更
(4) 排膿ドレナージ・異物除去ができていない
→対応:外科的ドレナージ,デブリドマン,異物除去を行う
(5) 感染巣へ薬物が到達しない,細胞内増殖菌による感染
→対応:抗菌薬の変更

ケース(1)
 感染症ではなく,薬剤熱,悪性腫瘍,自己免疫疾患などの非感染症性疾患

 このケースは,その後入院し,詳しく病歴聴取・診察を行い,“左右対称性の関節痛および微熱の持続”があり,培養(血液,尿)が陰性であることを確認し,抗核抗体陽性,採血で汎血球減少があったことから,SLEの診断でプレドニゾロン50mg内服開始したところ,解熱し全身状態が改善しました。そのため,抗菌薬治療に反応しない発熱では,まずは感染症ではなく,薬剤熱,悪性腫瘍,自己免疫疾患などの非感染症性疾患を考慮することが大切です。このときの対応として,診断を再考することが重要です。

ケース(2)
 抗菌薬無効の感染症=大部分のウイルス感染症

 このケースでは病歴を確認すると,兄弟が2日前にインフルエンザで入院していることがわかりました。インフルエンザ迅速検査にて案の定A型陽性となりました。このケースに限らず,成人の咽頭炎の90%以上はウイルス性であることに注意が必要です。欧米でもウイルス性上気道炎への誤った抗菌薬投与は問題となっています。細菌による感染症だけでなく,感染臓器によってはウイルスによるものを考慮する必要があります。

 このときの対応としては,抗菌薬を中止することが重要です。

ケース(3)
 抗菌薬選択の誤り(抗菌スペクトラム,カバーが不適切),投与量・投与経路の誤り

 このケースでは,上級医が“偽膜性腸炎には,メトロニダゾールかバンコマイシン内服でないと効果が出ない”ことを担当医に伝え,メトロニダゾール内服にて改善しました。投与方法によって効果に違いがあります。

 また各抗菌薬には抗菌スペクトラムがあり,想定している感染臓器ごとに使い分ける必要があります。さらに,国内の保険適応量では欧米ほど十分な効果が得られない抗菌薬があることにも注意が必要です(特にペニシリン系で緑膿菌をターゲットに治療する場合は注意が必要)。このときの対応としては,抗菌薬の変更・追加,投与経路・投与量の変更が必要になります。

ケース(4)
 排膿ドレナージができていない,異物除去ができていない

 このケースでは,担当医が「誤嚥性肺炎なのにアンピシリン・スルバクタムに反応しないのはおかしい」と考え,同日に胸部CTを撮影したところ膿胸がみつかりました。同日胸腔ドレナージを行い,翌日には炎症所見,発熱ともに改善しました。そのため,改善しない感染症では,その感染臓器に膿瘍形成や異物混入の場合を考えなければいけません。主な臓器ごとの膿瘍としては,

・髄膜炎の治療に反応せず→脳膿瘍
・咽頭炎の治療に反応せず→扁桃周囲膿瘍
・肺炎の治療に反応せず→膿胸
・腹膜炎の治療に反応せず→腹腔内膿瘍
・胆管炎の治療に反応せず→肝膿瘍
・PIDの治療に反応せず→卵管膿瘍
・腎盂腎炎の治療に反応せず→腎周囲膿瘍

 などがあります。

 このときの対応としては,外科的ドレナージ,デブリドマン,異物除去を行う必要があります。

ケース(5)
 感染巣へ薬物が到達しない,細胞内増殖菌による感染

 このときの対応としては,抗菌薬の変更が必要になります。

 このケースでは,感受性試験結果は確かにセフトリアキソンに感受性がありましたが,前立腺炎のため,前立腺への(特に炎症が落ち着いた後の)移行性がよい抗菌薬はST合剤やキノロン系抗菌薬などに限られます。今回はそのために再発した可能性があります。

 ヒトの臓器で特に髄液,眼内,前立腺には移行性がよい抗菌薬が限られており,これらの臓器の感染症でも選択する抗菌薬には注意が必要です。

 また細胞内増殖菌(マイコプラズマ,クラミジア,レジオネラ,サルモネラ,結核菌など)に対する抗菌薬についても限られており,これらの治療に使用する抗菌薬は別に整理しておく必要があります。

●次回はケース(6)~(9)について解説します。また,抗菌薬治療無効時の検討項目全体についてまとめます。

つづく

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