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第2739号 2007年7月9日


【座談会】

新連載「レジデントのための栄養塾」オリエンテーション
25歳からの栄養塾
大谷順氏(公立雲南総合病院外科部長)
加藤章信氏(盛岡市立病院長/岩手医科大学客員教授)
大村健二氏=司会(金沢大学医学部附属病院 内分泌・総合外科長)
岡田晋吾氏(北美原クリニック理事長/函館五稜郭病院客員診療部長)


 NST(栄養サポートチーム)の爆発的な普及とともに,日本では軽視されてきた臨床栄養の重要性が認識されつつある。入院患者の実に半数近くが栄養不良とも言われており,研修医にとって栄養管理は重要な役割だ。

 弊紙では,新連載「レジデントのための栄養塾」の開塾にあたり,4名の執筆陣による座談会を企画。教育体制の問題点にはじまり,病棟業務を担う研修医への期待,果ては自らの“心に残る症例”体験にまで話が及んだ。


大学でも臨床でも教わらない栄養の正しい知識

大村 日本の卒前教育で栄養学が軽視されていることは,教科書を見ても明らかです。先日アメリカのある外科学の教科書を読んでみたところ,全2200ページのうち,三大栄養素の代謝や電解質異常など栄養療法に関する事柄が75ページにわたって詳しく記載されていました。一方,日本のある教科書では,820ページ中わずか5ページで略述されているのみでした。日米の臨床医学教育では,栄養学の重要性についてこれだけ意識の差があるのです。したがってわが国では,不十分な栄養学の知識しか持たずに,初期臨床研修を始めることになります。

加藤 たしかに栄養に関する卒前教育はきわめて少ないです。そして臨床においても,指導医側が栄養に明るくない場合があります。例えば消化器内科ならば,肝硬変のように低栄養に陥りやすい病態があるのですが,入院時にはそれまでの低栄養状態が続いているので,指導医も研修医も低栄養であることに驚かない。当たり前と思っているところがあります。実際には,肝硬変の栄養管理については欧米や国内のガイドラインがあるのですが,なかなか介入に至らないのが現実です。

大谷 私は市中病院でこの10年来,10名以上の研修医を指導していますが,栄養管理のガイドラインがあることを教えても,実際にそれを購入し,手にとって読んだ研修医は,1人しかいません。多くの研修医は栄養管理にまで手がまわらず,研修病院で習慣的に行われている栄養管理をそのまま受け継いでいるのだろうと思います。それでも,適切な栄養管理の効果を実感することによって,栄養管理,特に経腸栄養の重要性を少しずつ理解してもらえるように努めています。

岡田 自分自身のことを考えても,研修医の頃は栄養のことは何もわからなかったですね。ただ,当時は高カロリー輸液のセットがなかったので,水分やナトリウム,カロリーを計算して,自分たちでつくっていました。いまの研修医には想像もつかないでしょうが,これが外科系研修医の毎日の役目でした。しかし,そういった知識は10年も経つと忘れてしまって,栄養のセミナーに参加する指導医の方々は「目からウロコだ」と言われます。ですから今後大事なのは,正しい知識をいかに普及していくかでしょう。

大村 たしかに研修医だけでなく,指導医が正しい知識を持っているか疑問に感じることがあります。高カロリー輸液の基本液や病態別のアミノ酸製剤が市販され,適切に使用すれば便利になりました。一方,例えば腎不全症例に個々の病期を考慮せず,一律に腎不全用の高カロリー輸液基本液とアミノ酸製剤が使用されていることはよくあります。また,先輩が「腎不全症例には脂肪乳剤を使うな」と言ったから脂肪乳剤を腎不全患者にいっさい用いないという医師もいます()。残念ながら,こうした間違った栄養管理があちこちで行われているのが現状です。

 このように,栄養学の軽視は卒前教育だけでなく臨床の現場にも引き継がれています。これでは,正しい栄養管理の恩恵を受ける機会を患者さんから奪うことになります。さらに,不適切な輸液の施行で代謝が乱れると,生命の維持が困難になることすらあるのです。そのような危険性について,十分認知されているとは思えないですね。

初期治療だけでなく解除のタイミングまで考える

加藤 栄養管理が重要であることはそのとおりですが,内科と外科で事情が少し違うとも感じます。外科の場合は,手術後から回復までの一定期間におけるアプローチとして栄養管理があり,それが手術の結果として直接的につながります。ですから,栄養面のアプローチが厳密に行われていると,私ども内科医は見ています。一方で内科の場合は――救急外来は除きますが,慢性疾患で入院してくる場合や,消化管出血のように治療が短期間で済む場合が多いので,栄養面からのアプローチは弱くなる面がありました。

 しかしこれもやはり,情報不足が原因です。岩手医大の医師には栄養のセミナーに参加してもらっていますが,先ほどのお話にあったように「目からウロコだ」となります。正しい情報を得ると,内科医も関心を持ちます。岩手医大では現在,肝癌症例に対する積極的な栄養アプローチに取り組んでいます。肝癌は異所再発の割合が高く,繰り返しの治療が必要です。栄養状態を改善し肝病態の悪化進展が抑制され,結果として繰り返しの治療の必要な肝癌症例に十分な対応ができつつあります。また,栄養状態の改善が患者さんのQOL改善につながることもわかってきました。いまやっと,内科医が栄養に関心を持つ時代になってきました。

大村 私は以前,次のような肝硬変の患者さんがいることを知りました。その方は肝細胞癌がみつかり,RT療法を施行する前に腹水をコントロールする目的で利尿剤が投与されました。しかし,その効果が過剰に現れてしまい脱水状態に陥ったのです。その結果,循環血液量の低下から肝血流が減少したためと思われる肝性脳症が出現しました。ただちに肝不全用アミノ酸製剤の投与と適切な電解質輸液が施行され,肝性脳症は1日で改善しました。そこまではよかったのですが,患者さんはその後2週間も肝不全用のアミノ酸製剤の投与と蛋白制限食を出され,さらには床上安静を指示されたのです。

 腎疾患についても同様の患者さんをよくみかけます。ある患者さんは,入院当初に0.6g/kg/日の蛋白制限が指示され,腎機能が改善したあとも蛋白制限が延々と継続されていました。0.6g/kg/日という蛋白投与量は,人体の恒常性を保つ最低限のものと考えてよいでしょう。腎機能の推移をみながら,改善する可能性がある患者さんについては常に蛋白制限を緩めるタイミングを計るべきです。結局,その患者さんは褥瘡を形成してから私たちNSTに栄養管理が依頼されました。NSTの提案は蛋白制限の解除でしたが,主治医を説得するのに少々時間がかかりました。専門医であるという「面子」があるのでしょう。

 内科の教科書を読むと,臓器に機能障害を認めた場合の初期治療としての栄養療法については簡潔に記述されています。しかし,栄養素の制限などをどの段階で解除するかに関する記載はありません。前述した患者さんでは,研修医が上級医からの指示を漫然と続けていたのです。上級医も,蛋白制限解除のタイミングをわかっていなかったのではないでしょうか。

大谷 いまは病態別の栄養剤が豊富にあって使いやすいのですが,いったん使い始めると,「やめた時にまた病状が悪化するのではないか」と思い込んで,かえってインバランスの栄養療法を継続してしまう傾向があります。特に若い医師にそのような傾向があると思います。

 これは「抗生剤をいつ終了するか」という問題と同じではないでしょうか。感染症の専門家は「必ずしもCRPの数値が下がるまで待つ必要はない」と言います。客観的なデータを参考にしたうえで,患者の状態や自覚症状を含めて総合的に判断すればいいという考えではないかと思います。しかし,経験が浅い医師は客観的なデータばかり見て,主観的評価も含めた総合的な判断は,なかなかできないものです。栄養に関しても,方針転換や解除のメルクマールを,主観的なデータも含めて教えていく必要があると思います。

岡田 それには,毎日の必要エネルギー量や水分量をしっかり把握しながら患者さんを診ることが基本ですね。私は往診もしているのですが,在宅ではほとんど検査ができません。ですから,検査データだけでなく,患者さんの肌の色つやや活気を重視しています。そして院内でこうした評価ができるのは,看護師とともに毎日病棟で患者さんを診ている研修医ではないでしょうか。

研修医だからこそできること

大村 金沢大学ではこれまでに,医学部生や研修医から自主的にNSTのカンファレンスとラウンドに参加したいという希望がありました。卒前・卒後の教育はまだ不十分だとはいえ,若い人たちの臨床栄養学に対する関心が高まっているのは確かで,頼もしいことです。栄養管理において,研修医にはどんなことを望みますか。

加藤 忙しい中でも,頻回に患者さんを回診する機会を持ってほしいですね。自分自身の経験を振り返ると,昼食時の回診がとても役立ちました。別に回診時に聴診器をあてる必要はありません。食事摂取のアセスメントは内科でも“基本中の基本”で,患者さんの食事の様子を知ることで,個別対応につながっていきます。それをきっかけに栄養に興味を持つこともあると思います。

大谷 私が研修医に求めるミニマム・リクワイアメントも,まず患者さんを診て,アセスメントをすることです。アセスメントは,身長や体重といった客観的データだけではありません。岡田先生がおっしゃったような主観的なデータ――肌の色つやや活気,さらには家庭での活動状況や食事の摂取状況まで含みます。そこまで理解してないと,患者さんの生活活動強度や疾患によるストレスに見合ったカロリー,蛋白量が出てきません。

 次に患者さんに見合った栄養療法をプラニングし,その後は効果を評価します。ここでも,客観的データだけでは不十分です。急性期は別として,日頃よく診る高齢者は慢性的な栄養不良が多いですから,それほどドラマティックに変わるわけではありません。毎日顔を見にいって,「先週と顔色や肌のツヤが違うな」というところから評価する基本姿勢を身につけてほしいと思います。

岡田 私が強調したいのは,栄養状態の不良を1つの疾患として捉えて原因を探る必要があるということです。まずは,脳梗塞や胃癌といった原疾患によって栄養状態が悪くなる場合がある。それに加えて,摂食・嚥下の機能や環境(社会環境・家族環境・経済的環境)も原因となります。そしてもう1つ,患者さんの生活嗜好によって栄養状態がつくられます。

 栄養状態の不良を1つの疾患として捉えれば,犯罪捜査ではないですが,これら4つの要因(原疾患,摂食・嚥下,環境,嗜好)をプロファイリングしながら,栄養不良の原因を考えます。ベテラン医師で“疾患のプロ”のようになってしまうと,「歯が痛いぐらいは我慢してほしい」などと考えてしまいます。しかし歯が痛いだけで高齢者は栄養不良に陥りますし,歯科にかかれば栄養状態が改善する人がけっこういます。栄養不良の原因をプロファイリングして改善につなげていくのは,研修医にとってもやりがいのある,楽しい仕事ではないでしょうか。

大村 患者をしっかり診て,治療をし,さらにその効果について評価をする。これは医療の原点ですね。

 当院でNST活動を始める際,新しい仕事が増えるということで,実は看護師さんが乗り気ではありませんでした。ところが,患者さんをいちばんみているのは看護師なので,適切な栄養管理の効果もすぐに実感したのですね。例えば,3か月も脂肪乳剤がまったく投与されなかった患者さんは,脂肪乳剤投与後2週間ほど経つと多くの所見が改善します。そんな患者さんのひとりにNSTが回診に行った時,「○○さん,肌がつやつやになりました」と看護師さんが嬉しそうに話したことを鮮烈に覚えています。そんなことの積み重ねで,当院の看護師さんは栄養管理の重要性を認識し,NST活動に積極的に参加するようになりました。

 研修医も,患者さんと長い時間接することができます。これはある意味幸せなことと言えるでしょう。上級医になるにつれさまざまな他の仕事が増えて,研修医ほど病棟にいることができません。研修医時代にはこのメリットを遺憾なく活かしてほしいと期待しています。

25歳からの勉強法

大村 栄養に関する卒前教育は乏しいですし,臨床で先輩の言うことを鵜呑みにするのも少々危ういと言わざるを得ません。研修医はどのように正しい知識を身につけていけばいいでしょうか。

 私自身は,幸いなことに1冊の良書に出会いました。それを麻酔科ローテート中に読みきって,研修1年目で代謝・栄養・輸液に関するおおまかな知識が頭に入りました。その知識がいまでも活きています。

大谷 私も,恩師の曽田先生から「これだけは読んでおけ」と,1冊の教科書を勧められました。難しかったのですがなんとか読んで,それで栄養に関するシステマティックな知識が得られ,動機づけもできました。

加藤 いまは栄養に関する本はずいぶん出ているので,自分で手にとってわかりやすいと思うものを選んで読むことですね。

大村 私はいつも「分厚い本を3分の1読むよりは,読みやすくてそう厚くない本を1冊読んだほうがいい」と後輩に助言しています。ぜひ,そういう本にめぐりあってもらいたいと思います。

加藤 それと,TNT(Total Nutritional Therapy:世界各国の医師を対象とした教育プログラム,日本でも全国各地で研修が行われている)というシステムがあります。内容を全部理解するかどうかは別としても,若い医師が栄養に対するアプローチを学ぶには役に立つ方策だと思います。その他にも,NST活動のさかんな病院なら,NST主宰の勉強会が定期的に開かれているはずです。そこに参加することも,栄養を学ぶ契機になると思います。

岡田 みんなで症例を検討しながら勉強するのはいいですね。函館ではいま,各病院の指導医などを講師に呼び,医師だけでなくコメディカルも参加して,地域単位での勉強会を開催しています。そういったところで,いろんな施設,職種の人たちといっしょに勉強するのもタメになると思います。

大谷 私たちの時代はひとりで悩んで,教科書を読んでもよくわからないので,結局「先輩の言うとおりにしておけば怒られないし,いいかな」というようなところがありました。しかし最近の研修医は,学生時代にチュートリアル教育を経ています。ケースを想定して,それに対するアプローチをグループで討議する経験がすでにあるわけで,臨床でもその経験が活かされるといいですね。いまの研修医はチュートリアル教育のおかげでグループ討議に慣れていて,しかも昔よりはるかに優れたテキストやツールがたくさん出ている。非常にうらやましい環境です。

岡田 基礎的な知識はいまの研修医のほうがあるでしょうね。

大村 きっと,そうですね。せっかく学生時代に生化学や生理学を習っても,卒後10年経っては“忘却の彼方”です(笑)。知識が頭に残っているうちに勉強を始めて,ぜひ臨床に活かしてほしいですね。

“医原性の低栄養”に注意

大村 肝臓は内臓蛋白合成,物質代謝の中心ですから,肝疾患の治療において栄養管理が重視されるのは当然のことと思います。炎症性腸疾患の治療でも,経腸栄養の効果は広く認められています。しかし心疾患の場合,主治医は心臓の状態がある程度落ちついてから「そろそろ栄養管理でもしようか」と考えるように思えます。NSTのスタッフの目に触れる時には入院から数週間が経過しており,すでに“医原性低栄養”といってよい状態に陥っていることも稀ではありません。もちろん,入院時には救命できるかどうかの瀬戸際である場合もあります。そのような患者さんには救命措置が優先され,栄養管理がある程度後回しにされても致し方ないでしょう。しかし,心疾患の治療と栄養管理を並行して行うべきだったと考えられる患者さんもよく経験するのです。加藤先生,内科医の立場でいかがでしょう。

加藤 循環動態のダイナミックな変化と栄養が,すぐには結びつかないイメージがあるのかもしれません。岩手医大でNSTを始めた時は,“とにかく最初が肝心”ということで,難しい症例にもNSTが細かく対応しました。それでいろんな科の医師が栄養に興味を持ってくれて,循環器センターなどからも次第に早く紹介されるようになりました。

大村 コンサルトのタイミングが早くなっているのは頼もしいことですね。また,金沢大にも,栄養管理の重要性に突如目覚めた循環器内科医がいます。頻繁に栄養管理室に質問の電話をかけてきて,何も言うことがないほどの知識を3か月の間に身につけました。若い医師は進歩が速いですね。

大谷 私も,コンサルトのタイミングが遅いと感じることはあります。ただ,中には栄養管理に目覚め,すばらしい栄養管理をする研修医もいるので,絶えず情報を流して,いろんな教育プログラムへの参加を促すのが私の役目と思っています。

岡田 それに,ほとんどの臨床研修病院にNSTがありますから,1人で抱え込む必要はないですね。われわれの時代には,何か困った症例があると上級医と2人で考えるくらいでしたが,いまは栄養状態の不良に気づきさえすれば,NSTや栄養士さん,薬剤師さんに相談することができます。まずは患者さんの栄養状態に目を配り,周りの力を借りながらアプローチすることです。

■だから栄養管理はやめられない

大村 私の後輩には代謝・栄養を専門にする医師が何人かいるのですが,彼らは例外なく“心に残る症例”を持っています。その症例に出会ったことで,栄養管理の重要性がわかったというのです。

心に残る症例

大村 私の場合は,主治医の交代で受け持ちとなった70代後半の患者さんが忘れられません。もう20年以上前のことになります。4か月間脂肪乳剤が投与されていませんでした。もちろん皮膚はカサカサでしたが,寝たきりで話しかけても目線をこちらに向ける程度でした。脂肪乳剤の投与を始めたところ次第に元気になり,話し始めたばかりでなく,検温に来た看護師さんをつかまえて離さないくらいに元気になりました(笑)。

 この患者さんでは,高度の必須脂肪酸欠乏から精神的,肉体的活動の低下が生じていたと考えています。脳細胞や神経細胞の膜などに豊富に含まれるリン脂質には,必須脂肪酸由来のものと非必須脂肪酸由来のものとがあります。必須脂肪酸欠乏により,脳神経組織中のリン脂質組成が変化したのがその機序のひとつであると推測しています。推測にすぎないのは,他の国ではこのような長期間にわたり脂肪が投与されないことはありえないからです。したがって,PubMedで検索してもこの現象を説明できる論文はひっかかってきません。

 先生方も心に残る症例をお持ちではないでしょうか。

加藤 私は,消化器内科で肝疾患を診ることが多いのですが,肝硬変の患者さんは慢性的に栄養障害があります。以前,まだNSTなどがなかった時代に70代の男性の肝硬変の患者さんに,嗜好まで考慮に入れた繰り返しの栄養指導を行いつつ分岐鎖アミノ酸製剤を投与することで,栄養状態が改善し,一般状態も非常によくなったことを経験しています。積極的な栄養指導の重要性を認識し,頻回の栄養指導を実践するようになったのはこの患者さんがきっかけでした。NST活動を始めてからも患者さんが劇的によくなる経験を何度もしていますが,慢性疾患でもまず栄養学的な介入を始めてみるものだとつくづく感じております。

岡田 自分の人生の中でいちばん驚いたのは,研修医時代,高カロリー輸液を受けていた患者さんがアシドーシスで亡くなられた時です。今はもう当たり前で誰でも知っていることですが,ビタミンB1の欠乏が原因でアシドーシスとなったのです。その後,アシドーシスの人にビタミンB1を投与することで劇的によくなる症例も見ました。ビタミンB1を入れるかどうかだけで生死が分かれてしまう。強制栄養は非常に恐いけれども,効力もあるのだと実感しました。

 もうひとつは,いま在宅で診ている103歳の患者さんです。2週間ぐらい熱が下がらなくて点滴も入らず,「このままおうちで看取りましょう」とご家族ともお話しするぐらいの状態でした。しかしその後,1カップ200kcalのプリンのようなものを試してみたら,それは食べるのです。1日4つ摂って800kcalを続けて半年経ちましたが,一昨日うかがった時には元気にしゃべっておられました。医師はつい点滴に頼りがちですが,いまは補助食品にもいろんなものが出ているので,適切なものを選べば長生きできるという症例です。

大村 そのうち日本最高齢になるかもしれませんね(笑)。大谷先生は?

大谷 私はアミノ酸輸液の研究で学位を取った人間です。高カロリー輸液の勉強を主にしていたのですが,臨床において「経腸栄養をしないと大変なことになる」という症例を経験しました。

 83歳の女性で,正月に餅を喉に詰まらせて心肺機能停止になりました。蘇生して意識は戻ったのですが,3か月間ずっと高カロリー輸液を受け,突然敗血症になって亡くなられました。ご家族の希望で解剖となりました。その時の腸管の標本を見たのですが,マクロ写真はライトが透けて見えるぐらいペラペラだったのです。

大村 腸管の廃用性萎縮ですね。

大谷 ミクロで見ても,ラットの実験で見る粘膜の萎縮そのものです。しかも門脈からはグラム陰性菌が確認されました。これはおそらく,腸管を使わなかったことによるバクテリアル・トランスロケーション(bacterial translocation;腸管内細菌が粘膜バリアを通過して体内に進入した状態)で敗血症が起こったのでしょう。非常にショックを受け,腸を使わないと大変なことになると思い知った瞬間です。

 いまも高齢で経口摂取不良の患者さんをたくさん診ていますが,その経験があるので「できるだけ早く食べ物を消化管に入れよう」と考えます。いろんな食物形態があるので,栄養士や言語聴覚士にも相談して可能な限り実現する。それができない時は胃瘻を使う。すると,「この先,元気になるだろうか」と思うような患者さんも驚くほど回復することがあります。この数年はそんな経験をたくさんしています。

 RCTが難しいのでエビデンスという点では弱いのですが,経腸栄養のすばらしさを実感するとなかなかやめられません。静脈栄養に比べて,生理的で安定した栄養補給ができています。もちろん,下痢や嘔吐といった合併症があるので繊細なコントロールが必要ですが,うまくいけば患者さんのQOLはかなり改善します。

職場の人間関係にも良好なアウトカムが

大村 これまでの議論で,正しい栄養管理が患者さんの良好なアウトカムにつながることを読者のみなさんにもおわかりいただけたと思います。

 そしてNSTの普及は,職場の人間関係においても良好なアウトカムをもたらしました。どの病院も同じだと思うのですが,NST活動を始める前には“診療科間の壁”が厚いと思っていたのに,実際は“職種間の壁”のほうが厚かったのです。医師も看護師も,薬剤師や栄養士のことを何も知らなかった。臨床検査技師や理学療法士については,顔は知っていても名前すら知らなかった。それがNSTに取り組むことで初めて会話し,お互いに名前で呼び合って,年に何回も食事をしてカラオケを歌って……。

岡田 カラオケは大村先生が好きなだけじゃないですか(笑)。

大谷 うちも,呑みはしますがカラオケは歌わないです(笑)。

大村 そんなこんなで,ほんとうの仲間になります(笑)。そうしますと,各々の職種が持つ専門知識をいかんなく発揮できる場ができる。これは間違いなく病院のためになります。

 今年3月末の能登半島地震で被害の大きかった地域に,NST活動の活発な基幹病院がいくつかありました。その中に,2日間停電が続き,地下の調理室から6階まで食事を運びあげるのに,階段にスタッフがズラッと並んで,一膳一膳手渡しで運んだ病院があります。NST活動のおかげでお互いが名前で呼び合うことができ,多職種がスムーズに力を合わせることができました。「災害にも強いNST」と言えますね。

 いままでは,同じ病院に勤めていながら職種が違うというだけで名前も知らないし,カラオケはともかく(笑),いっしょに食事をしたこともないということは珍しくなかったと思います。そういう壁を取り去る効果もNSTにはあります。こんな観点からも,今後の医療を担う研修医のみなさんには,ぜひ積極的にNST活動に参加してもらいたいと思います。

「栄養塾」開塾の言葉

大村 われわれ4人が「医学界新聞」で連載を始めるわけですが,最後に抱負をひと言ずつお願いします。

加藤 外科は手術成績などに栄養が密接に関連するため,栄養への関心は高いように思えます。しかしながら,内科でも糖尿病や高脂血症といった,栄養療法が直接病態の治療につながるものもあります。また,それ以外の疾患においても,栄養管理は治療の基本です。私は内科医の立場から,研修医にこうした点を意識してもらいたいと思っています。

大谷 研修医には,栄養不良をいち早く見つける姿勢をまず身につけてもらいたいです。すべての研修医が栄養のスペシャリストになる必要はないと思います。まずはミニマム・リクワイアメントを理解して,少なくとも自分の受け持ち患者の栄養状態を見極める姿勢を持つことが大事です。そのうちの何パーセントかの人は,さらに勉強して,より踏み込んだ栄養管理をしてほしい。この連載を通じて,そうしたきっかけをつくることができればと思います。

岡田 栄養不良を改善するだけでは病気が治らないのは確かですが,栄養不良を早く見つけて治療すれば,患者さんにとっても病院にとっても,貴重な資源を失わずに済みます。チーム医療の時代ですから医師がすべてをやる必要はないのですが,チームの中でリーダーシップを取る役割が求められています。研修医には,最低限の知識はしっかり持って,栄養においてもリーダーシップを取る存在になってほしいです。

大村 たしかに,医師全員がNSTのチェアマンを務められるような栄養のスペシャリストをめざす必要はありません。すべての医師が,専門科に関わらず必要最低限の栄養学の知識,ミニマム・リクワイアメントを身につけることが重要です。例えば,金沢大学附属病院の病床数は823で,その3割が低栄養状態であったとしたらおよそ250人になります。そのような多数の患者さん全員にNSTが介入することは不可能に近いですし,合理的でもありません。まず,最低限の正しい栄養学の知識を持った主治医が対処すべきでしょう。そのうえで,主治医のレベルでは対応できない症例を専門家の集団,NSTが担当するかたちが理想だと思います。

 この連載では,実際に症例を提示します。その中で,栄養管理には柔軟な思考力が要求されることを理解していただければ幸いです。栄養管理は「動的(kinetic)」なものなのです。例えば,算出された必要エネルギー量は,通常消費エネルギー量の推定値です。消費されたものと同じ量を投与できれば理想的ですが,高度のストレスや臓器機能の低下が存在するとそう簡単にはいきません。さらに,重症症例の物質代謝能は,基礎疾患の経過に伴って日々変化します。時には,耐糖能などの変化を先読みすることも必要になります。

 この連載を通して,私たちは教科書には記載されていない,毎日の臨床に役立つレクチャーをしていきます。ぜひ,ご期待ください。

(了)

:「腎不全症例には脂肪乳剤を使うな」
腎不全が進行する過程で,腎臓からのリンの排泄能が低下して高リン血症を呈することがある。そのため,腎不全用高カロリー輸液基本液にはリンが含まれていない。しかし,腎不全症例がすべて高リン血症を呈するわけではなく,腎不全用高カロリー輸液基本液の使用中はむしろ低リン血症を警戒すべきである。脂肪乳剤については,その禁忌や慎重投与に腎不全は挙げられていない。脂肪粒子の分解・代謝に腎機能は一切関与しないのである。しかし,「腎不全症例には脂肪乳剤を使うな」と教える腎臓内科医に会ったことがある。おそらく,指導を受けた医師の教えを理由を考えることなく鵜呑みにしていたのであろう。脂肪乳剤が使用され始めた頃,脂肪乳剤に含まれるリン脂質由来のリンが高リン血症を助長することを危惧して,腎不全症例への使用を控える風潮があった。しかし,高リン血症を認めない腎不全症例に脂肪乳剤を用いない理由はないのである。腎不全症例に脂肪禁食を処方すべきであるかを考えれば,よりわかりやすい。

(大村)


岡田晋吾氏
1986年防衛医大卒。同附属病院,函館五稜郭病院外科科長などを経て,2004年に開業。函館五稜郭病院などでNSTを普及,推進した後,現在は在宅や外来での栄養管理に取り組み,地域一体型NSTの構築を進める。日本静脈経腸栄養学会評議員。著書に『胃ろうのケアQ&A』(照林社)『そこが知りたい! クリニカルパス』(医学書院,共著)など。

大村健二氏
1980年金沢大卒。入局以来,代謝・栄養の研究に。2002年に全国の大学病院に先駆けて全科型NSTを立ち上げた後,「石川NST研究会」「能登NST研究会」の設立・運営に参画するなど病院の枠を超えた活動にも尽力する。日本静脈経腸栄養学会理事,日本消化器外科学会評議員。専門は消化器外科学,代謝・栄養学,消化器癌の化学療法。共著書に『栄養療法ミニマムエッセンシャル』(南江堂)など。

加藤章信氏
1979年岩手医大卒。同大第1内科助教授として勤めた後,2007年4月より現職。肝不全の病態に関する研究から,肝不全用経腸栄養剤や分岐鎖アミノ酸顆粒の開発に取り組む。岩手医大で05年にNSTを立ち上げ,現在は盛岡市立病院で活動を支援する。日本静脈経腸栄養学会評議員,日本病態栄養学会評議員。共著書に『ヒューマン・ニュートリション 基礎・食事・臨床 第10版』(医歯薬出版)など。

大谷順氏
1985年島根医大卒。岡山大医学部第2外科に入局し,外科代謝栄養グループで,アミノ酸研究のわが国第一人者,曽田益弘氏に師事。その後,姫路聖マリア病院にてNST活動を始める。2005年より現職。高齢化の進んだ地域で,地域医療を守り,高齢者の栄養不良の改善に日々取り組んでいる。日本静脈経腸栄養学会評議員。共著書に『静脈経腸栄養ガイドライン 第2版』(南江堂)など。

現場の第一線に立つ臨床医4名が“塾講”となり,新連載「レジデントのための栄養塾」が来月より始まります。ご意見,取り上げてほしいテーマなど,shinbun@igaku-shoin.co.jpまでお寄せください。

(「週刊医学界新聞」編集室)