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第2725号 2007年3月26日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第27回〉
古くて新しい「患者中心」

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 「夜,目がさめてもそばに誰もいない,冷たい空間が広がる病室,どうして愛する人がいないの」と,近代的な病院の一室でアンジェリカ・シエリオットは思った。そして次に入院する時は,ケースとして扱う病院ではなく人間として対応してくれるアルゼンチンに帰りたいと彼女は思ったのです――。「医療の質に関する研究会」講演で講師はこう語り始めた。

 「最新で最良の医療技術と,真に癒しの環境のもとで,考えられる最良の医療をもたらす理想の病院」を世界中の医療組織で実現したいと考えていると,アメリカで「患者中心の病院」を築いてきたNPOプラタナス病院グループの会長スーザン・フランプトンさんが説明した。アメリカ,カナダ,ヨーロッパにある120以上のプラタナスグループの病院が,患者中心主義の医療を実現するための実験の場となっているという。

患者の視点で病院をつくるプラタナスグループ

 プラタナスモデルの要素は,人間的なかかわりであり,ケア,親切,敬意を払うことである。これらの実現には患者に聴く,患者の目で病院をみることが大切であるとしたうえで,ベストプラクティスとしての実例を紹介した。

 病院の玄関は第一印象として,歓迎されていること,快適であり癒しを感じさせる要素が求められる。入口では音楽と,挨拶をするボランティアがいて道案内をする。明確な標識(サイン)があり,きれいな待合室と受付があること。そこには,例えば,飲みものやスナックが用意され,呼び出しボタンがあり,インターネットにアクセスでき,無料マッサージが受けられ,CDとヘッドフォンがあり,コミュニケーション係がいて,具合の悪い人を看てくれる人がおり,ハッピーな職員がいることで患者がハッピーになる。物理的な労働空間は,組織のボディランゲージであるという。

 次は,スタッフを支援する空間である。スタッフラウンジが整備され,食堂があり,窓があって外気に触れ,自然を感じることができる。空間設計に職員が参加することが大切という。

 三つめは,職員の健康とウェルネスの支援である。職員のフィットネスセンターやマッサージ室,瞑想室がある。職員が利用できる保育室,老人のデイケア,長時間オープンしているカフェテリア,いろんなことに応えてくれるコンシェルジュがいる。

 家族は24時間いつでも見舞いに訪れることができ,しかも病院が歓迎していると感じること。スタッフは,患者をもっともよくわかっているのは自分たちだといままで思っていたので,当初は家族の訪問に困惑したが,誰かが病室にいることは安全確保にもなることがわかったという。もちろん,院内に家族用のラウンジと宿泊施設といったスペースの確保が求められる。

本当の「患者中心」の実現

 食事と栄養の問題への配慮も大切である。入院は患者の栄養状態を低下させることが知られている。患者の好みを聞き,注文を受けつける。ホテルのように,処方によるワインやビール,長時間オープンしているカフェテリア,無料の飲みものとスナック,家族の食事,エスニックメニュー,そしてアロマセラピーや鍼灸,太極拳,ヨガ,動物療法などの代替療法の措置など,患者が選択できることが大切という。

 また,医師・看護師と患者との間の障害をとり除くことが大切である。医師は立って話すのではなく,ストールに腰かけてアイコンタクトをとること。ナースステーションは分散配置して,ナースがいつも患者から見える所にいるようにすると患者は安心しナースコールは減るという。

 患者のプライバシーの保護のために,事務手続きなどの周辺は声が漏れないようにしきりを作り,他の人のカルテが見えないようにすることも必要である。

 「家族の参加,患者用図書室がある,自分のカルテを見ることができる,といった要素は,今ではJoint Commissionの評価項目に加えられています」と講師は述べた。「こうしたことは大してお金はかからないのです。フォーカスグループを作って患者の意見を聴くとよいでしょう」とつけ加えた。

 静かにゆっくりと,しかも自信に満ちた講師の語りの中に,頻回に「患者中心」という耳慣れた言葉が出てきた。しかし,今日の「患者中心」は私にはいつもと違って聞こえた。今までいかに「患者中心」を医療者中心に考えていたかという反省,本当の「患者中心」をわかっていたのに実行しなかった看護職としての怠慢,強い意志があればできる「患者中心」というしくみ,「患者中心」という理念と女性的な感性とパワーとの関連など,いくつもの思いが私の中をかけめぐった。今や本当の「患者中心」の価値を実行する時がきたのである。

つづく

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