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外科研修のトリセツ

連載 高見秀樹

2025.03.10

Example Image術後患者さんのドレーンや創部を確認してくださいと指示を出されたのですが,何をチェックしたらいいのでしょうか?
術後管理で創部やドレーンの観察は重要です。まずはドレーンの意味や創部の状態を整理してみましょうか。 Example Image

術後管理では,全身管理に加えて創部やドレーンの観察・管理が必要です。本稿では,その基本について解説します。

創部の治癒プロセス

創傷治癒には,主に以下の2つの方法があります(図1)。

●一次治癒
創部を縫合して創同士を寄せ,治癒を促す方法です。皮膚縫合やスキンステープラーを使用して一次治癒を促します。

利点:治癒が早く,外観が整いやすい。また止血効果が得られやすい。
欠点:縫合による侵襲がある。感染があるとドレナージが行われず,悪化しやすい。

●二次治癒
創部を縫合せず,自然に肉芽が盛り上がることで治癒を促す方法です。感染創やドレーン抜去後の創部などに適用されます。

利点:感染創でも膿を体外へ排出しやすい。縫合しないため侵襲が少ない。
欠点:治癒に時間がかかる。瘢痕が目立ちやすい。

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図1 一次治癒と二次治癒のちがい
一次治癒は治癒が早く,止血効果が得られやすい一方,縫合による侵襲や,感染があるとドレナージが行われず悪化しやすいリスクもある。二次治癒は感染創でも膿を体外へ排出しやすく,縫合しないために侵襲が少ない。ただし治癒に時間がかかり瘢痕が目立ちやすいことには留意したい。

術後の創部管理

●創部の観察
創部の観察では以下の点を確認します(図2)。

創部の観察:貼付されたドレッシング剤の浸出液汚染の状況,(観察可能な範囲で)創部の炎症所見の有無。

創部の処置:浸出液が多ければドレッシング剤の交換,創感染があれば創部のドレナージや抗菌薬の投与。

感染の有無:炎症の4徴(発赤・腫脹・疼痛・熱感)が見られる場合は感染が疑われます。感染が確認された場合,創部を開放して膿を排出し,抗菌薬治療を行います。

出血の有無:創部から出血が見られたり,創周囲に皮下出血が見られたりすることがあります。出血があれば止血のため追加の縫合や圧迫止血などを行います。​​

上皮化の確認:創同士が密着していること(’離開していないか)を確認します。特に抜糸や抜鉤をした際はその後に創部が離開することがあるので注意が必要です。

図2.png
図2 創部の観察上記に示したようなポイントを意識して観察を行う。

●ドレッシング剤の交換
かつては「ガーゼ交換」として毎日ガーゼを交換し消毒を行っていましたが,近年では定期的なガーゼ交換は不要と考えられています1)。通常,縫合創は術後24~48時間は滅菌ドレッシング剤で保護し,それ以降の交換は必須ではありません。ただし,ドレッシング剤やガーゼが血液や浸出液で汚染されている場合は,感染リスクが高まるため早期交換が必要です。

外科医の視点
創部を湿潤状態に保つことで,白血球・マクロファージ・細胞増殖因子などを保持し,創傷治癒を促進します。これを湿潤療法と言います。消毒はこれらの因子を破壊し,創傷治癒を遅延させる可能性があります1)


 

外科医の視点
ガーゼ以外のドレッシング剤の種類にはいろいろあります。特徴を覚えて使い分けしましょう(図32)

ポリウレタンフィルム:ポリウレタンで作られた透明なフィルム。湿潤環境を作ることができ,創部も観察しやすいが,吸水性がないため浸出液の多い創には適さない。

ハイドロコロイド:防水性。粘着性もあり貼りやすい。吸水性は少ないこと,創部の観察が困難なことが欠点。

ポリウレタンフォーム:防水性・吸水性が強い。創部の観察は困難。 アルギン酸塩:吸水性が高い。吸水すると膨らむ。創部の観察は困難。


 図3 ドレッシング剤(文献2より転載)


●感染創の治療
手術後に創部が感染することをSurgical Site Infection(SSI)と言います。感染した場合には以下のような治療を行います(図4)。

創部の観察:創部の炎症所見の有無(発赤・圧痛など),開放された創部からの排膿状況,皮下の広がり(ポケットになっていないか),皮下に異物がないかの確認。

創部の処置:生理食塩水もしくはシャワー浴による洗浄,感染制御されていればワセリンなどを使用した湿潤環境の作成,浸出液を吸収するためのドレッシング剤・もしくはガーゼによる被覆をします。

創部の洗浄:通常は生理食塩水または水道水を用いて流水洗浄を行います。

ドレナージ:感染創では皮膚が閉じると感染が悪化するため,ドレーンの留置やガーゼの詰め込みによるドレナージを行うことがあります。 

図4.png
図4 感染のある創部の観察

●デブリードマン
壊死組織がある場合,これを切除します。壊死組織は出血しにくいですが,完全に除去すると出血しやすくなるため注意が必要です。

●抜糸
埋没縫合では抜糸不要であり,体外に露出した縫合糸は抜糸が必要です。抜糸の目安は顔面・頭部が2~5日,その他の部位は5~10日。抜糸の様子は動画を参照してみてください(手技動画参照)。

    手技動画:抜糸

ドレーン管理

ドレナージとは,体内に貯留した分泌物や体液・膿・血液などを体外へ排出することを指します。

●ドレーンの種類
目的や材......

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