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[第8回]鏡視下手術の基本
外科研修のトリセツ
連載 畑中勇治
2025.02.24


鏡視下手術とは,低侵襲性をめざし,専用の画像機器(スコープ・モニター等),鉗子や超音波凝固切開装置などのデバイスを複数か所の小切開創(通常3~6か所ほど)に挿入して腹腔内(胸腔内)で行う手術を指します。かつては開腹(開胸)ではないと不可能とされてきた術式の数々が,先人たちの努力と工夫により,鏡視下手術として今では盛んに行われるようになりました。また,近年急速に普及している専用の手術支援ロボットを用いた手術も,鏡視下手術の一部です(図1)1)。

a:二酸化炭素気腹下に,臍下部より挿入した腹腔鏡で腹腔内を観察しつつ,長い鉗子を用いて手術操作を行う。
b:手術支援ロボットは自由度の高い多関節鉗子を有する(da Vinci)。
c,d:患者に装着した手術支援ロボット(c)をコンソールにて手術操作を行う(d)(hinotori)。
メリットとデメリット
「キズが小さいだけで時間もかかるし大変そうだ」と初めは思うかもしれませんが,キズの小ささ(低侵襲性)以外にも,鏡視下手術の実施には多くのメリットがあります。
●メリット
低侵襲性:通常,開腹(開胸)手術に比べて患者さんの受ける疼痛が少なく,体への負担が軽減されます。術後の在院日数も短いと言われています2)。
拡大視効果:画像機器の進歩により,開腹手術の視野では認識が難しい微細構造(神経・線維性結合織・膜・小血管など)の観察ができるようになりました。微細解剖に基づく精緻な手術が可能です。
整容性:傷が小さく目立ちにくいため,審美的な面でも患者満足度が高い傾向にあります。単孔式手術などのより低侵襲な手法では,わずかなキズしか残りません。
合併症リスクの軽減:出血や感染のリスクが少なく,腸閉塞や腹壁瘢痕ヘルニアなどの発生率が低い傾向にあります。
●デメリット
術者の習熟までの時間:2次元のモニター下での手術,鏡視下手術特有の操作感,直接的な触覚の欠如などにより,鏡視下手術の習熟には時間がかかる傾向にあります。
コスト:高額な機器(内視鏡装置,ロボット手術機材など)や,超音波凝固切開装置,電気メス,自動縫合器/吻合器などの消耗品が必要であり,医療機関や患者への金銭的な負担が増加する場合があります。
術中合併症への対応:出血や臓器損傷などの術中合併症が発生した場合,開腹(開胸)手術への移行が必要となる場合があります。開腹(開胸)操作による時間のロスが生じます。
適応の制限:患者の耐術能,腹腔(胸腔)内の高度な癒着,多臓器浸潤を伴う進行がんや巨大腫瘍などの因子により鏡視下手術の適応が難しい症例があります。
二酸化炭素が人体に及ぼす影響:術中の術野確保のためにCO2ガスを腹腔(胸腔)内に充満させますが,人体そのものに加えて手術や麻酔に影響を及ぼすことが明らかになっています。頭蓋内圧の上昇,脳血管拡張,血圧上昇 or 低下,気道内圧の上昇,肺コンプライアンスの低下,尿量の減少,門脈血流の低下と代償性の肝動脈血流の上昇などが具体的な影響として挙げられます。
表 二酸化炭素気腹が免疫反応に及ぼす影響(文献1より転載)
鏡視下手術の実際
●使用する器具
鏡視下手術専用のさまざまな道具を使用して手術を進めます(図2,3)3)。場面や目的に応じて道具を適切に選択し,手術を進め...
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