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[第7回]電気メスの使い方
外科研修のトリセツ
連載 高見秀樹
2025.02.10

手術中に電気メスとか超音波凝固切開装置とかいろいろ出てくるんですが,実際,それぞれどう使うのが正解なのでしょうか? 恥ずかしながら今まで直感的に使用してきてしまいました……。

外科手術での止血や切開は糸で結紮したり,メスや剪刀で切ったりするだけではありません。血管のシーリング(血管を閉鎖すること)や切離をより安全かつスピーディーに行うためのエネルギーを利用した医療器具を使うことがあります。これらの器具を「エネルギーデバイス」と呼びます。研修医の先生も使い方や特徴を知れば,救急外来での止血や手術助手,さらには執刀の際に役立ちます。今回は,利用する頻度の高い電気メス(モノポーラ・バイポーラ),ベッセルシーリングシステム(Vessel Sealing System:VSS),超音波凝固切開装置(Ultrasonic Coagulation Device:USCD)についてご紹介をしていきます。
電気メス
電気メスには大きく分けて2種類が存在します。モノポーラとバイポーラです(図1)1)。一般に呼ばれる電気メスとは,モノポーラのことを指します。
モノポーラ電気メスは,電気メス本体,ハンドピース,対極板で構成されています。高周波交流電流(30万~50万Hz)を用いて細胞内の温度を上昇させ組織の切離や凝固を行います。一方のバイポーラ電気メスは,電気メス本体と2つの電極が合わさった鑷子のような形をしたハンドピースで構成され,対極板はありません。電極同士が近いため,より低い電圧でも凝固を可能にします(図2)。

a :モノポーラ電気メス,b:バイポーラ電気メス。

モノポーラ(左)ではアクティブ電極と対極板の間で回路ができますが,バイポーラ(右)では2つのアクティブ電極の間で回路を作るため対極板が不要です。
使用方法
切開と凝固という2つのボタンがあります。ハンドピースを鉛筆と同じように持ち,示指か母指でスイッチが押せるように構えます(図3)。ボタンを押してる間は交流電流が流れるので,切離や凝固したい場所にアクティブブレードを近づけてボタンを押します。足のペダル(フットスイッチ)で操作することもあります。基本的に切離メインの時は切開ボタン,凝固メインの時は凝固ボタンを押しますが,後述のようにさまざまな設定をしておくことができます。
電気メスで切開する時は黄色いボタンを押しながらアクティブ電極の先端が組織にあたるか当たらないかの位置にしながら動かします。他方,凝固をする時は出血点を見定めて電極を押し当てながら凝固ボタンを押します(手技動画参照)。

手技動画:切開時のイメージ
手技動画:凝固時のイメージ
①電気メスのハンドピースのスイッチを押す
②対極板とアクティブ電極の間に高周波交流電流が流れる
③+と―が入れ替わることで細胞内の電荷を帯びた粒子が高速に振幅する
④細胞内の温度が上がり,細胞が変性したり細胞壁が破裂したりする
図4 モノポーラ電気メスと細胞内の反応のイメージ
60~80度 デシケーション:細胞の水分が失われ蛋白が変性し凝固する(白色凝固)
100度 ヴェポライゼーション:細胞内の水分が沸騰して水蒸気となり,細胞壁が破裂する
150度 キャラメル化:糖質が酸化し粘着性をもつ
200度 炭化(黒色凝固)
モード
電気メスには皮膚の切開を主目的とした切開モード(カットモード)や止血を主目的とした凝固モード(コアグモード)といった設定があります。それ以外にもさまざまなモードがありますので,各ボタンの設定を押さえておきましょう。
切開ボタン
切開モード(カットモード):高い電流密度により一気に細胞内温度を100度以上まで上げて細胞の破裂を起こします。組織に触れるか触れないかくらいの位置で放電することにより火花を起こし,組織を破裂させます。水平方向に動かすことで切開切離を行います。
ブレンドモード:カットモードに凝固モードを混ぜたようなモードです。切れ味は悪くなりますが,側方への熱の広がりにより止血効果が得られます。
凝固ボタン
凝固モード(コアグモード):高い電圧で組織深部まで熱変性を起こして止血します。組織へのダメージが大きくなりやすいので注意が必要です。
スプレーモード:高い電圧の電流を組織と接触させずに放電し,急速に凝固を行います。ただし意図せぬ組織への損傷のリスクがあります。
ソフト凝固:カットモードと同じように連続波の交流電流が流れます。しかし電圧が低いため,組織を切離することなく,低い温度で良質な凝固変化(白色凝固)を起こすことができます(手技動画参照)。出力設定を上げると素早く浅い凝固,出力設定を下げると遅く奥深くまで凝固する効果が得られます。
手技動画:ソフト凝固のイメージ
表1 各モードにおける電圧・電流一覧
電流密度:電気が集中するほど電流密度が上がり細胞内温度の上昇を来しやすくなります。切開モードでもアクティブ電極全体を当てると電流密度が下がる(広い範囲に電流が流れる)ため,細胞内温度の上昇が緩徐となり,ソフト凝固と似た効果が得られます。
イ
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