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外科研修のトリセツ

連載 高見秀樹

2024.12.30

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手術助手に入るようになりました。でも手術中にいろいろな道具や糸の名前が出てきてよくわからないんです……。
手術で使う器具や材料はたくさんありますよね。実は病院や製造元によって呼び名が違うこともあるんです。まずは手術助手として必要な最低限の器具の知識を覚えておきましょう! Example Image

外科医はこだわりをもって手術器具や針糸を選択しています。研修医の先生方にとっては,それぞれの特徴を簡単に理解しておくことがまずは重要でしょう。今回は,手術助手で活躍するために知っておくとよい手術器具の知識をご紹介していきます。

物を把持する鑷子(ピンセット)

鑷子(ピンセット)は物を把持する道具です。把持力を強めるために鉤がついたもの(有鉤鑷子=鉤付きピンセット)があります。前回もご紹介したように鉛筆持ちをしましょう(写真1)。

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写真1 正しい鑷子の持ち方
鉛筆を持つように母指と示指と中指で持つ。

有鉤鑷子:皮膚や筋膜など緊張の強い組織をしっかりつかむときに使用します。傷がつく可能性があるので,腸管や血管などの臓器を把持してはいけません(写真2)。

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写真2 有鉤鑷子

無鉤鑷子:鉤はついていませんので組織や血管を持つことができます。とはいえ組織を傷つけないよう愛護的に持つことは重要です。鉤がない分,把持した際にすべることがあるので注意しましょう(写真3)。

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写真3 無鉤鑷子
外科医の視点
無鉤鑷子にもさまざまな鑷子があります(写真4)。

アドソン鑷子:手元が太く先端が細い。溝があってすべりにくく皮膚の縫合などに使用します。

ドベイキー鑷子:横溝で組織が滑りにくく繊細な把持ができます。血管壁を把持する時などに使用します。


写真4 さまざまな鑷子(文献1より転載)
① アドソン鑷子,② 有鉤鑷子,③ ドベイキー鑷子

繊細な組織の把持に用いる鉗子

鉗子はハサミと同じような構造ですが,先端で組織を持つことができます。止血鉗子とも呼ばれ,もともとは出血部をつかむ際に用いられました。近年は剥離鉗子,把持鉗子などとも呼ばれます。鉤の有無,長さ,素材,先端の形,溝といった違いがあります(写真5~7)。

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写真5 鉤のある鉗子先端
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写真6 正しい鉗子の持ち方
鉗子を持つときは母指と薬指の末節骨レベルまでしか入れない。
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写真7 誤った鉗子の持ち方
指を置くまで入れすぎている。

鉗子を持つ時は,母指と薬指の末節骨レベルまでしか入れません 。またラチェットを嚙み合わせる際は術者にも伝わるように「カチッ,カチッ」と音が鳴るようにしましょう。外す時は母指を手前,薬指を奥というようにクロスすると外れます。何度かつけ外しの練習を事前にしておきましょう。

    動画:鉗子のラチェットのかけ方

コッヘル鉗子:先端に鉤があるため筋膜などの硬い組織を持つ時や太い糸を把持する時に使用します。皮膚や腸を挟むと皮膚が挫滅するため原則として使いません(写真8)。

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写真8 コッヘル鉗子

ペアン鉗子:無鉤の鉗子のため組織が傷つきにくい構造になっています(写真9)。

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写真9 ペアン鉗子

ケリー鉗子:無鉤の鉗子です。血管まわりの組織を剥離する時などに使用されます。ペアン鉗子よりもやや細く縦溝で組織にやさしい作りです(写真10)。

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写真10 ケリー鉗子

モスキート鉗子:先端が細く繊細な操作に使われることが多い鉗子です(写真11)。

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写真11 モスキート鉗子
外科医の視点
止血に使う場合には出血した血管を直接挟む方法(図1a)と出血した周囲を挟んで止血する方法(図1b)があります。前者は出血した血管(枝)のみを止血したい場合で,さらにその血管が本幹まで距離がある場合に使われます。後者は出血点が十分確認できない時や出血した血管から距離が取れない時に使いますが,本幹の血管を損傷する可能性もあります。



図1 止血方法の違いによる鉗子の使い方

組織を切離する剪刀(ハサミ)

剪刀(ハサミ)にもいくつか種類があります(写真121)。剪刀は組織を切るたびにだんだん切れ味が落ちます。特に糸や硬い組織を切ると切れ味が悪くなるので注意が必要です。

メッチェンバウム剪刀:先端が細く血管周囲の組織を切るなど繊細な操作に用います。逆に太いものや糸......

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