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第3390号 2020年10月5日


【寄稿】

地域全体で考える人生最期の過ごし方
名古屋市名東区で行われる在宅看取りの取り組み

北川 渡(医療法人北国会北川内科 院長)


 16の区からなる人口約233万人の政令指定都市,愛知県名古屋市。その東部に人口約16万人の名東区がある。2019年の高齢者比率の全国平均が28.4%1),名古屋市全体では25.0%なのに対して,名東区は22.2%と比較的年齢構成が若い区である2)。しかしそんな名東区でも近年高齢化が急速に進行しており,国立社会保障・人口問題研究所の報告から算出すると,団塊の世代が後期高齢者となる2025年には高齢者比率が25.4%まで増加し,総死亡者数は約1700人に達すると予測されている。

 ここで一つのアンケート結果3)を示したい。2015年に名東区民を対象に行われた人生の最終段階に関する意識調査では,37.4%が自宅で最期を迎えたいと回答した。一方で,同年時点の名東区の在宅看取り率は22.7%()だった4)。国の政策により将来的に病床数が劇的に増えることは期待できないとすると,今後さらに在宅での看取りが可能な体制を準備しておく必要があると考える。

 名東区の場所別死亡者数・在宅看取り率(文献4より作成)(クリックで拡大)
介護老人保健施設,老人ホーム,自宅での死亡者数が年々増加している。2025年には総死亡者数が1700人,「自宅+老人ホーム」での死亡者数を反映した在宅看取り率が40%に達すると予想されている。

区民に自身の将来を考えてもらうきっかけを作りたい

 そこで名東区在宅医療・介護連携推進会議では,在宅における看取りを可視化するために(「自宅死亡者数+老人ホーム死亡者数」/「総死亡者数」)を在宅看取り率として採用し,地域包括ケアシステムの構築を推進させるための指標としている。

 そもそも「在宅看取り率」の一般的な定義は存在しない。名東区が,自宅だけでなく老人ホーム(養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホームおよび有料老人ホーム)での死亡も在宅とみなした理由は次の通りである。1)死亡診断書の「自宅」にはサービス付き高齢者向け住宅やグループホーム等も含まれており狭義の自宅での死亡者数は不明であること,2)「在宅看取り率」を「生活の場での死亡率」とみなし,自宅+老人ホームでの死亡率を在宅看取り率ととらえて検討する先行研究が複数存在すること,3)病院や診療所以外での死亡者割合を「地域看取り率」と定義して,「自宅+老人ホーム」における死亡者数に,医学管理下の介護老人保健施設での死亡者数(2018年からは介護医療院も含まれる)を加えて算出している報告もあること,などが挙げられる。

 こうした指標を活用しながら,名東区地域包括ケア推進会議は町内会などを通じて,区民が在宅療養をどう認識しているかについて,高齢者1200人を対象に無記名アンケート調査3)を行った(町内会加入率は推計79.5%,アンケート回収率63.4%)。本件に関連する代表的な結果を次に示す。

【質問1】家族や友人など身近な人と将来について話し合っていますか。
・話し合っている:47.2%
・話し合っていない:41.8%
・話し合いたいが機会が無い:6.7%
・話し合いたくない:1.6%
・未回答:2.7%

【質問2】人生の最期をどこで過ごしたいですか。
・自宅:37.4%
・病院:8.8%
・老人ホームなどの施設:3.0%
・まだわからない:29.7%
・特にこだわりはない:19.3%
・未回答:1.8%

【質問3】かかりつけ医はいますか。
・いる:76.4%
・いない:22.8%
・未回答:0.8%

【質問4】あなたのかかりつけ医は,往診や訪問診療をしてくれますか。
・してくれる:15.0%
・してくれない:27.7%
・わからない:39.8%
・未回答:17.5%

 以上の結果から,区民全体の約80%は普段からかかりつけ医とかかわりを持っているが,約40%の人が在宅療養や訪問診療には関心が薄いことが明らかになった。これは,家族や友人の間で将来について話し合いが行われていないことを反映している可能性があり,啓発の余地があると考えられた。

かかりつけ医が無理なく24時間・365日対応するために

 では実際,地域のかかりつけ医は往診や訪問診療に対応できているのだろうか。2016年に名東区医師会は,開業医を対象に在宅医療に関するアンケート5)を実施した(127医院に依頼,回収率52.0%)。その結果,往診または訪問診療をしている医院は41施設(62.1%),そのうち約半数(48.8%)は5件/月以下であった。また,訪問診療をしている医院の56.1%は看取りにも対応しているが,そのうち69.6%は0~2件/年の実績であった。診療報酬が高点数である在宅療養支援診療所の届け出は34.1%のみで,在宅時医学総合管理料を含めても43.9%であった。この在宅医学総合管理料の実績の低さの原因は,届け出の条件である24時間・365日対応という要件に起因している。かかりつけ患者から依頼されたら訪問診療や看取りにも対応するが,件数は少なく高点数ではない訪問診療料のみで請求している医院も多い実態が明らかになった。

 そこで名古屋市医師会は市の委託事業として,後方支援病院による急変時サポートと,在宅医療サポート医による看取りサポートの二つを整備した。前者は,二次救急指定病院を中心とした病院(後方支援病院)による輪番制の受け入れ体制である。前もって登録した在宅療養者の体調に急変があり入院の必要が生じた場合でも,スムーズに緊急入院を依頼できる体制となっている。一方後者は,冠婚葬祭や学会などで在宅主治医の不在時に看取りが発生した場合,待機していた当番医が主治医に代わって対応するものである。こうした取り組みによって,かかりつけ医の24時間・365日体制を整えつつある。

「オール名東」で区民に啓発

 以前から名東区とその周辺には高齢者向けの施設などの社会資源が十分にあり,在宅医療専門のクリニックも多数存在し地域包括ケアシステムの構築の中で重要な役割を担っていた。しかし将来的に増加する看取りに対応するためには,さらなる地域住民への啓発活動と,かかりつけ医の在宅医療への参入促進が必要である。そのため名東区の地域包括ケア推進会議と在宅医療・介護連携推進会議は,専門職団体・行政・関係諸機関・市民代表が一体となって地域包括ケアシステムの構築を進めている。また,区民に対しては講演会や小規模の勉強会などを通じて在宅医療についての情報提供を行い(写真),医療・介護職に対しては多職種連携研修会などでお互いの顔が見える関係を醸成してきた。

写真 「めいとう介護フェア」の様子
2019年に名東区内のショッピングセンターで行われたフェア。在宅医療と介護について区内在住の高齢者への周知を目的に開催した。

 24時間・365日体制への支援を含めた名古屋市および名東区独自の取り組み「オール名東」を進めてきた結果,2018年の名東区の年間死亡者数は1345人,うち417人が自宅と老人ホームでの看取りとなり在宅看取り率は31.0%になった(図)。今後もオール名東としての取り組みを発展させて,住み慣れた地域で安心して最期まで過ごせるようにしていきたい。

 筆者は5年前から一般内科開業医として外来診療を行っている。診察に取り組む中で感じることは,「通院できなくなったときには慣れ親しんだかかりつけ医に訪問診療してほしい」という患者・家族側の声を聞く機会が想像以上に多いことだ。高齢化がますます進む今後,在宅医療は専門クリニックのみが担うべき一分野ではなく,かかりつけ医も担うべき重要な分野・領域になるであろうと思われる。

参考文献・URL
1)総務省.人口推計.2019.
2)名古屋市名東区区役所.名東区の世帯数と人口――令和元年人口動向調査.2020.
3)大江公晴.“Aging in place”をめざして――1200名の名東区住民アンケート調査結果の多変量解析からみえてくるもの.第19回日本在宅医学会大会抄録集;2017.p158.
4)名古屋市役所.平成16-30年版名古屋市健康福祉年報――人口動態統計編.
5)牧篤彦.在宅医療実施状況についてのアンケート.名東医報No.47.2016.


きたがわ・わたる氏
1997年愛知医大卒。公立陶生病院で臨床研修後,愛知医大腎臓・リウマチ膠原病内科にて勤務,2015年から承継開業し現職。18年から名古屋市医師会在宅医療・介護連携委員会委員,20年から名東区医師会副会長。