医学界新聞


第61回日本神経学会学術大会の話題から

2020.09.21



新型コロナの脳神経系疾患への影響
第61回日本神経学会学術大会の話題から


 第61回日本神経学会学術大会(大会長=岡山大・阿部康二氏)が8月31日~9月2日,「今日の臨床,明日の臨床――The Times They Are A-Changin':大還暦へ向けての新たな第一歩」をテーマに岡山コンベンションセンター(岡山県北区)およびオンライン配信のHybrid形式で開催された。本紙では,緊急シンポジウム「新型コロナ感染症現場における脳神経内科医の挑戦1」(座長=岡山大・佐々木諒氏)の模様を報告する。

 初めに横浜市大附属市民総合医療センターの木村活生氏は,2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号船内で脳梗塞を発症した乗客にその後新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患が確認された症例を発表した。氏はこの経験から学んだCOVID-19診療時の脳神経内科診察・臨床神経学的評価における課題を振り返った。現場では診察道具・検査機器を介した感染を防止するため,検査施行に制限が生じ神経学的診察が十分に行えなかったという。また隔離環境下であったことからリハビリテーションの時間や内容が制限され機能改善に影響が出たことを報告し,COVID-19の診療における難しさを語った。

 発熱を伴いCOVID-19の可能性のある脳梗塞疑い患者が救急外来に搬送された場合や,入院中のCOVID-19患者が脳梗塞を発症した場合などにはどのような対応が必要か。橋本洋一郎氏(熊本市民病院)は,こうした課題解決のために日本脳卒中学会が策定した急性期診療指針「COVID-19対応 脳卒中プロトコル」の作成経緯を説明した。COVID-19発症患者は脳神経系疾患,特に脳卒中を高頻度に合併することが明らかになっている[PMID:32275288]とし,「日本の脳卒中の救急医療を揺るがさないためにも本指針を活用していただきたい」と参加者に呼び掛けた。

 COVID-19パンデミックは,医療格差是正のためにtele-strokeをCOVID-19以前から導入していた病院にも影響を与えた。三人目の演者として発表した座長の佐々木氏によると,岡山県の北部地域では津山中央病院をハブとしたtele-strokeネットワークが構築されており,Skypeによる画像データの共有や診療体制の連携によって患者の適切な搬送・治療を行ってきた。しかしCOVID-19拡大後,救急車の受け入れ台数が減少。同時に,感染スクリーニングに費やす時間の増加と転院制限のためにtele-strokeネットワークの利用件数も減少したという。こうした状況を鑑み,佐々木氏らはオンラインでの感染の有無に関する情報の共有とon-site treatmentの推奨を実行し,県内のtele-strokeネットワーク参加病院に周知した。その結果,感染拡大防止に対処したスムーズなネットワークの利用が可能になったと述べた。

 感染症指定病院の一つである神戸市立医療センター中央市民病院の川本未知氏は,2020年3月1日~5月31日の間に自院で経験したCOVID-19患者96例を,酸素投与5 L/分以上を要した重症群とそれ以外の非重症群に分類し,急性期の神経学的所見や合併症を後方視的に検討した。重症群は遷延する意識障害や振戦,高次脳機能障害,四肢筋力低下を呈するケースが多く見られたと報告。重症例には脳炎や脳症,ニューロパチーが生じていたと考えられ,「今後の治療の検討においては急性期の画像や髄液,電気生理所見等の集積が重要である」と発表を結んだ。

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