医学界新聞

寄稿 守屋 章成

2020.06.29



【視点】

「新型コロナの次なる波」の前にワクチンと感染管理を

守屋 章成(名古屋検疫所 中部空港検疫所支所 検疫衛生課 空港検疫医療管理官)


 2019年12月に中国・武漢から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19:以下,「新型コロナ」)のパンデミックは,日本にも襲いかかりました。東京都など多発地域では医療崩壊も叫ばれましたが,幸いにも患者数はピークアウトし,2020年5月25日には全都道府県で緊急事態宣言も解除されました。

 しかし本稿執筆の5月末時点では,東京都内や北九州市内で新型コロナ患者が再び増加しており,既に次の波の予兆のようにも思えます。「次の波は本当に来るのか?」という疑問を耳にすることがしばしばあります。「次の波は必ず来る」と筆者は考えています。来るか否かを問う意義はなく,次の波に備える時間的余裕をどれぐらい持てるか,波の高さをどれぐらいに抑えられるか,を問うべきです。

 次の波が襲うまでに,プライマリ・ケア従事者の皆さんにぜひともお願いしたいことが,2つあります。

1)ワクチンを1人でも多くの方に

 新型コロナのワクチンはそう簡単には実用化されないと筆者は考えています。「最短1年で開発」などと報道されますが,「Phase1から3まで重篤な有害事象が多発せず予防効果も確実,という夢のような経過で進んだ場合で最短1年」と思ったほうがいいでしょう。

 しかし,他の感染症に目を向ければ,高い効果が証明されたワクチンが既に何十種類も普及しています。それらのワクチンで予防できる感染症(Vaccine Preventable Diseases:VPD)の多くが,発熱や倦怠感を訴え受診します。すなわち,新型コロナの初期症状と重なり,鑑別診断に苦慮することになります。

 新型コロナの次の波が襲ったとき,ワクチンによってVPDが減少していれば,新型コロナとの鑑別に苦慮する場面も減ります。特に,インフルエンザワクチンと高齢者(および無脾者など一部の免疫抑制患者)への肺炎球菌ワクチンの積極的な接種は,新型コロナ対策として大変重要です。季節性インフルエンザも肺炎球菌性肺炎・侵襲性肺炎球菌感染症も,とりわけ新型コロナと症状が重なるからです。

 緊急事態宣言による外出自粛で,予防接種件数も激減したと思われます。接種が遅れてしまった方へのキャッチアップ接種も含めて,ワクチンを1人でも多くの方に接種してください。

2)基本の感染管理の再徹底を

 新型コロナの主な感染経路は,飛沫感染と接触感染です。「密」になる限定的な状況でエアロゾル感染も生じますが,麻疹や水痘のような明らかな空気感染は報告されていません。医療機関においても,飛沫感染と接触感染に対する感染管理に,「密」な状況を避ける管理を加えることで,院内感染を防止できます。

 ここでお尋ねします。あらゆる病原体を想定した「標準予防策」,新型コロナを想定した「飛沫感染予防策」「接触感染予防策」,それぞれの内容と違いを説明できますか? どの状況でサージカルマスクを着用し,どのタイミングで手指消毒をするのが適切か,説明できますか? 新型コロナを想定したとき,どの診療行為でどのPPE(個人防護具)を追加するか実践できますか? ノロウイルス,肺炎球菌,結核菌を想定した時のそれぞれの感染管理を実践できますか?

 感染管理を正しく学んで日頃から実践していれば,新型コロナに対しても何をすればよいかがはっきりわかり,無用な恐怖にとらわれることもありません。次の波が襲う前に,ぜひとも感染管理の教科書を再確認していただき,院内での再徹底をお願いします。

 ワクチンと感染管理で,新型コロナの次の波に備えましょう!

:上記は全て筆者個人の見解であり,所属組織を代表するものではありません。


もりや・あきなり氏
1998年京大医学部卒。2002年北海道家庭医療学センターでの家庭医療研修を修了。全国各地での診療所勤務を経て17年より現職。プライマリ・ケア従事者全般へのワクチンプラクティスの啓発活動に尽力している。

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