医学界新聞

2020.03.09



漢方医学教育SYMPOSIUM開催


 漢方医学教育を取り巻く環境は近年大きく変化している。漢方医学は,2001年に医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コアカリ)に到達目標として記載されて以来,卒前教育に急速に広まってきた。2014年には全国80の大学医学部が参加する日本漢方医学教育協議会が設立され,2015年には医学教育分野別評価基準日本版(世界医学教育連盟グローバルスタンダード準拠)に「補完医療との接点」という項目が示された。さらに,2019年に世界保健総会で採択された国際疾病分類第11回改訂版(ICD-11)に漢方医学を含む伝統医学が初めて収載された。そうした中,漢方医学教育の発展・充実をめざして2017年に設立された日本漢方医学教育振興財団による第3回目の「漢方医学教育SYMPOSIUM」が2月8日,都市センターホテル(東京都千代田区)にて開催された。財団設立初年度に研究助成対象となった7研究の最終報告の他,2019年度漢方医学教育奨励賞・功労賞受賞者の講演,パネルディスカッションなどが行われた。

漢方医学教育はさらなる発展へ――課題は指導者育成

 奨励賞を受賞した東海大の新井信氏は,漢方医学の必修コマ数が2011年から2019年の間に7.25回から8.28回に増加したことを報告した。授業時間数短縮の勘案が必要としつつも,「総講義時間数が減る中,漢方医学が増加したことは卒前教育における普及を示唆する」と述べた。一方,初期臨床研修の実態調査で,漢方薬の処方経験があるとの回答は9割に達したが,漢方を学ぶ機会があるとの回答は3割にとどまったという。小規模病院でも実施可能な卒後漢方教育システムとして,病院間連携による卒後e-learningの開発と実施への意欲を示し,「卒前卒後のシームレスな漢方医学教育を実現するためには,卒後教育の改革にも取り組む必要がある」と締めくくった。

 功労賞を受賞した東大名誉教授の北村聖氏は,身近な看護師の実体験と『漢方医学の歴史』(ツムラ,2004年)を通して漢方の効果と信頼性を知ったという。歯科医師,看護師,薬剤師といった他職種のコアカリにおける漢方の記載を紹介し,「臨床現場で漢方を共通言語にするには,医師はもちろん他職種の教育も重要」との考えを示した。2007年度から全ての医学部で漢方医学教育が8コマ以上実施されるようになった今,①継続的な教育の実施,②実習教育(附属病院への漢方外来の開設),③卒前卒後教育の連続化,④教育者の養成が今後の課題だと北村氏は指摘した。

 「次世代の漢方教員の育成」と題したパネルディスカッション(座長=JA尾道総合病院・田妻進氏)では,福島医大会津医療センターの三潴忠道氏が,全国の大学医学部における漢方医学教育の現状を紹介した。2011年と2019年の調査を比較して,指導者養成,カリキュラム標準化,テキスト作成が変わらぬ課題として問題提起した。氏は,自身が会頭を務める第71回日本東洋医学会学術総会(2020年6月12~14日,仙台市)でも漢方教育に関する特別企画を予定している。

 大学やその附属施設での漢方教員の育成に携わる3氏は,自施設での漢方教員育成の現状を発表した。東京女子医大東洋医学研究所の木村容子氏は,古典と薬理学,臨床実践の相互作用を重視する教員育成の理念を紹介。漢方薬のポリファーマシー問題,随証治療により誤治を防ぎ,効果判定による減量や処方変更をできる教員の育成をめざしている。大分大医学教育センターの中川幹子氏は,ファカルティ・ディベロップメントの開催,他大学との情報共有,専門医を増やすなどの取り組みをコアカリでの記載後に始めた経緯を振り返り,「臨床で漢方をすでに扱っている先生方に専門医を取得してほしい」と期待を示した。岡山大の大塚文男氏は,「患者さんの高齢化・多様化が進む中,漢方医学の知識は実臨床で大きな力になる。漢方医学への関心を保ち,卒前・卒後教育において触れる機会を絶やさないことが大切」とし,「漢方臨床教育センター」を設置した実例を詳説した。専任教員の設置が難しい場合は所属・部署に関係なく人材育成すること,自施設で難しい場合は他施設と人材交流することの必要性を述べた。

 同財団では,教育施設間の人材交流を目的とした新規事業「漢方医学教育短期実地研修」に加え,「漢方医学教育推進事業」への応募者を現在募集している。「2020年度漢方医学教育研究助成,奨励賞・功労賞」も5月から募集予定。詳細は4月から財団ウェブサイトにて公開される。

2019年度漢方医学教育研究助成対象者と奨励賞・功労賞受賞者が表彰された

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