医学界新聞

寄稿

2019.03.11



【視点】

「シンパイソセイ」をもっとわかりやすく伝えたい

王 謙之(東京都立小児総合医療センター総合診療科)


 パンフレットの表紙
3つ折り両面印刷で手に取りやすい。
 「キョウコツアッパク」「ソウカン」「ジョサイドウキ」。これらの言葉の響きから,意味を理解して具体的なイメージを持てる患者さんが,一体どれだけいるでしょうか。それも,病院という慣れない場で,命に関する難しい選択を迫られているときに。そこで,患者さんにはぜひ,心肺蘇生について十分に理解をした上で自分や家族に合った選択をしていただきたい。そのような思いから,私は初期研修医2年目のときに「心肺蘇生パンフレット」の作成に着手しました()。

 臨床研修先だった亀田総合病院では2014年から,患者さんの終末期の医療への要望を事前指示書に記録する取り組みを行っています。そのため,私が臨床研修を始めた2016年にはすでに,医師と共に患者さん(場合によっては家族)が終末期の医療を選択し,書面に残すことが日常的な光景となっていました。

 事前指示書の核となるのは,心肺蘇生を行うかどうか,つまりFull CodeかDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)という選択です。患者さんが自身の価値観に合ったコードを選択するには,心肺蘇生について十分に理解していることが重要となるため,事前指示書の記載に当たって,医師が患者さんの状況に沿って説明しています。ところが,心肺蘇生という一連の医療行為を言葉だけで説明するのは難しく,また,医師が説明に使える時間も限られているのが実情です。医師がイメージする「心肺蘇生」を患者さんときちんと共有するためには,やはり何らかのサポートツールが必要なのではないかと思い,心肺蘇生パンフレットの着想に至りました。

 3つ折りのパンフレットでは,心肺蘇生を胸骨圧迫,人工呼吸,電気ショックに分けて,それぞれの医療行為の具体的内容や合併症についてイラスト付きで説明しています。シンプルな内容ですが,患者さんや家族の理解の助けとなることに加えて,医師の説明の負担を軽減する可能性もあると考えています。

 なお,ACP(Advance Care Planning)の分野では映像を利用した説明方法のほうが主流となっているにもかかわらず,あえてパンフレット形式を採用したのは,次のような優れた点があると考えたためです。

・視聴するための部屋や機器の準備を必要としない
・医師との面談が終わった後でも繰り返し見返すことができる
・持ち帰ることができるのでその場にいなかった家族と後で共有できる
・映像より改訂しやすいため,使う場所や場面,あるいは時代に合わせて調整がしやすい

 現在,同院では事前指示書を作成する場面の多い,救急外来や病棟,そして一般外来で利用されています。

 世間では「終活」が注目を集め,医療界でもACPへの関心がこれまでになく高まってきました。超高齢社会を支える世代として,その人らしい終わり方をサポートするような取り組みをこれからも続けていきたいと思っています。


おう・けんの氏
2016年慶大医学部卒。同年より亀田総合病院で初期研修。18年より現職。家族志向の小児科医をめざし研修中。

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