MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.09.17
Medical Library 書評・新刊案内
国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科 編
福田 隆浩 執筆
《評者》岡本 真一郎(日本造血細胞移植学会理事長/慶大教授・血液内科学)
現場で不可欠な知識を移植の流れに沿って記載
循環器内科や消化器内科のように,内視鏡やカテーテルを駆使して消化管出血や血管閉塞を治療する外科的内科と異なり,血液内科は内科的内科である。中でも造血幹細胞移植は,感染症,免疫,その他多くの分野のさまざまな知識を必要とする,最も内科らしい治療法である。しかし一方で,初めて造血幹細胞移植の臨床を学ぶ医師・コメディカルにとって,移植は「とっつきにくい」「敷居が高い」と感じられることも少なくない。そのような印象を持って移植チームをローテートされる方々には,ぜひこのポケットマニュアルをお薦めしたい。
造血幹細胞移植に関するガイドラインや教科書とは大きく異なり,このマニュアルでは,日常の移植現場で不可欠な知識が,移植の流れに沿って記載される構成となっており,研修医やコメディカルの方々が,必要な情報にすぐにアクセスできるよう配慮されている。また,移植後の合併症の予防・診断・治療に関しても,単なる羅列ではなく,直面する問題の頻度や重要性に合わせて重みを付けて記載されており,このマニュアルを携えて移植患者さんの診療に当たれば,移植についての知識が自然と積み上がっていくのではないかと思う。
各章末に記載された,最新かつ吟味して選択された文献にアクセスすれば,さらに知識を深めることができる。また,文献に関していえば,単に重要なものが引用されているばかりでなく,日本の造血細胞移植のデータに基づいたエビデンスが多数引用されている点も特筆に値する。
このマニュアルは,移植チームのスタッフにとっても,新たなチームメンバーの教育に大いに役立つマニュアルではないだろうか。各項目はコンパクトにまとめられているが,実臨床で大切なポイント,日常の病棟業務での注意点は抜けることなくきめ細かくわかりやすく記載されているので,多忙なスタッフが手取り足取り教えなくとも,新たにチームに加わったレジデントやコメディカルスタッフが日々の臨床を行うことができるように配慮されている。指導医はそれを踏まえて,マニュアルには記載されていない経験や知識を効率よく教えることができることも,このマニュアルのメリットではないかと思う。
医療の進歩に伴い,造血幹細胞移植は着実に成長し続けている。このマニュアルも,移植医療の進歩だけでなく,その内容や構成などに関する読者からのフィードバックを反映して,改訂を重ね,さらなる成長を遂げることを期待したい。
B6変型・頁500 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03160-8


高橋 哲也 編
《評者》飯田 有輝(JA愛知厚生連海南病院リハビリテーション科課長/藤田保衛大客員講師・麻酔・侵襲制御医学)
ヒトに目を向けたリスク管理を説く一冊!
「リハビリテーションの主たる対象は臓器障害ではなく,臓器障害を持ったヒトである」。
心臓リハビリテーションの第一人者であり,わが国の内部障害系ならびに集中治療領域のリハビリテーションを先導してきた高橋哲也先生のメッセージを本書の随所で感じた。
リハビリテーションのリスク管理というと,多くの若手理学療法士は病態の進行や合併症発生への対処,転倒転落防止を考えるのではないか。あるいは病態の不安定な時期における離床や運動療法に伴うバイタルサインの変動を読み取るスキルを思い浮かべるかもしれない。臨床上いずれも重要な事項であることに間違いはない。実際,リスク管理をタイトルに持つ書籍には,適応や中止についてさまざまな基準や学会ガイドラインの記述が並ぶものが多い。
しかし,リスク管理は単にリスクとベネフィットのバランスから「やる」「やらない」を決めることではない。病前の状態や疾病の重症度,病態の経過など「確定因子」を把握し,リハビリテーションによって加わる運動負荷や侵襲でどの程度リスクが生じるのかを予測し対処することに重点が置かれるべきである。
この点について本書では,病態,チェックポイント,対策について実に明解な要点が示されている。具体的には「リスクになり得る高齢者の特徴的症状」,あるいは「患者とのファーストコンタクトで気付くべき『ポイント』」など,臨床症状や検査値,さらには視覚的容態からどこにどのようなリスクがあるのか,安全にリハビリテーションを実施する上で何を指標にすれば良いのか,とてもよく整理されている。さらに,そのリスクについて患者・家族に説明し,同意を得ながらリハビリテーションを進めていく重要さも説いている。冒頭の表現を借りれば,理学療法士は臓器障害のリスク管理だけではなく,臓器障害を持つヒトのリスク管理に主眼を置かなければならない。
若手理学療法士にとって,本書が担当した患者の病態やリスクを解読するのに最適なのはもちろんであるが,加えて部門の管理者やリスクマネジャーにはぜひ,第1章「リスク管理の用語と基準」も一読していただきたい。理学療法士のリスク管理に対する考え方や位置付けについて大変わかりやすく書かれている。
A5・頁368 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03623-8


上肢運動器疾患のリハビリテーション[Web動画付]
関節機能解剖学に基づく治療理論とアプローチ
中図 健 著
《評者》千葉 慎一(昭和大東病院・理学療法士)
治療の壁を打破するための豊富な技術を提示
本書は,著者である中図健先生が,患者さんを治療する際に壁にぶつかり立ち往生してしまっているセラピストに向けて,その壁を打破するための理論および技術を提供するためにまとめられたものです......
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