医学界新聞

2018.07.16



Medical Library 書評・新刊案内


慢性痛のサイエンス
脳からみた痛みの機序と治療戦略

半場 道子 著

《評 者》田口 敏彦(山口大教授・整形外科学)

慢性痛に関する現在の科学を理解できる

 『慢性痛のサイエンス――脳からみた痛みの機序と治療戦略』は,わずか200ページ強の本である。しかし副題にもあるように,「痛み」を痛みの局所からではなく,脳からの視点で最新の情報をコンパクトにまとめて書かれた本である。この本の趣旨は,決して局所の病態を軽んじているわけではない。痛む局所の病態を正しく評価した上で,脳からの視点で慢性痛をどう理解するかが著者の趣意である。慢性痛治療に際し,慢性痛患者の頭の中で起こっている病態を基礎知識として知っておくことは非常に有益である。実際に治療戦略を立てるためだけでなく,慢性痛を持つ患者への痛みの共感をも一層育むことのできる本になっている。

 慢性痛が大きな社会問題になって久しい。慢性痛の頻度は,多い報告では全人口の30%,少ないものでも11%と報告されている。慢性痛の部位についてのアンケートでは,腰,肩,膝,頚,頭の順に多く,頭痛を除けばほぼ運動器の疼痛である。また現在では,元気で活動的な高齢者が増えているだけに,運動器の痛みはますます重要になってきている。そして慢性痛が問題なのはその頻度だけではなく,難治のことが多いからである。特に「運動器に関する慢性痛」は,運動器の局所の病態だけでは説明しきれない部分が問題である。例えば,本来なら亜急性の痛みであるいわゆる腰痛症が慢性化して長引くのはなぜかという疑問である。腰の局所だけでは説明し得ない病態を単に心因性と片付けていた時代もあった。しかし,それがfMRI,PETの登場により脳内の変化も客観的に示せるようになった。その脳内の変化が慢性痛の原因なのか結果なのかは,現在のところ不明であるが,この科学の進歩の現況を知っておくことが極めて重要である。もちろん臨床家にとって,局所の病態を理学所見,神経学的所見,X線検査などの従来の画像診断を駆使して,慢性痛を持つ患者の局所の病態を正確に把握し評価する能力は大前提にある。その上で,慢性痛における脳内の変化を知っておくことは,治療上非常に有益だと思う。

 本書は,この目的にまさに符合して,時宜を得て出版されたと思う。本書では,慢性痛という病態を通して運動(運動器活動)の新しい意義が示されている。さらには,慢性炎症が生活習慣病や癌を含む加齢関連疾患に共通する基盤病態であることは最近のトピックではあるが,慢性痛にもこの慢性炎症が関与していることを鮮やかに説明している。約200ページの本書ではあるが,慢性痛に関する現在の科学を理解するに当たり推薦の書であり,さらに詳細を知りたい読者にとっては非常に有用な190以上の引用文献が掲載されている。

A5・頁204 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03428-9


ロジックで進める リウマチ・膠原病診療

萩野 昇 著

《評 者》花岡 亮輔(上都賀総合病院リウマチ膠原病内科部長/千葉大医学部臨床教授)

まるで著者の診療に陪席しているようだ!

なぜ医師はリウマチ・膠原病が苦手か?
 リウマチ・膠原病科について,世間一般の多くの医師は,「難しい!」と考えているようだ。いわく,リウマチ・膠原病科は,難解で抽象的な免疫学の知識を振りかざし,診断や治療がことさら難しい稀少疾患ばかりを扱う診療科ということらしい。

 難解なイメージの一因は,扱う疾患がほぼ全て原因不明であることだろう。原因不明である以上,病因学的診断は不可能である。通常は疾患原因と密接に結び付いている病理学的診断すら,原因不明の疾患においては絶対的意義を持たない。そのため,リウマチ・膠原病科で扱う疾患の多くは症候学的診断でしかとらえようがない。疾患の存在可能性を高める所見を累積することで診断する。疾患活動性評価も単一のマーカーに頼れない。複数の所見を組み合わせて行なわれる。

 リウマチ・膠原病科が敬遠されるもう一つの原因は,筋骨格・皮膚・感覚器など,他領域の内科医が通常扱わない器官をも含めて横断的に診療することにあるだろう。臓器別診療に慣れきった医師たちにとって,単一臓器に関心を絞ることができない診療は大きなプレッシャーなのだと思う。

リウマチ・膠原病の「診療の勘所」をわかりやすく解説
 従来,教科書的な疾患各論を語った本は星の数ほど存在する。しかし,初学者の戸惑いは,これら疾患各論には書きようのないリウマチ・膠原病科の特性にこそ生じる。それを筆者は熟知しており,あえて症候学的,横断的な記載を中心に本書を構成している。にもかかわらず,筆致は平易で,何ともわかりやすい。まるで筆者の診療に陪席しているかのような味がある。ページ数は少なく,夢中になれば一日で読破できるほどの分量である。だが,内容は筆者の圧倒的な知識と経験に裏打ちされており,かなりのベテランであっても初めて知ることが数多く見いだされるであろう。リウマチ・膠原病科の入門者にとってはこの領域の勘所を押さえるために,ベテランには,入門者にこの領域をいかに教えるべきかを再考するために,ぜひお薦めしたい良書である。

B5・頁176 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03130-1


帰してはいけない小児外来患者2
子どもの症状別 診断へのアプローチ

東京都立小児総合医療センター 編
本田 雅敬,三浦 大,長谷川 行洋,幡谷 浩史,萩原 佑亮 編集代表

《評 者》松裏 裕行(東邦大医療センター大森病院教授・小児科学)

若手小児科医や総合診療医・内科医にお勧めしたい一冊

 本書は,前作が好評であったことを受け,東京都立小児総合医療センターのスタッフが日々の診療と研究の合間を縫って完成させたシリーズ2冊目の単行本である。A5判で約270ページとコンパクトにまとめられ,気軽に手に取りたくなる装丁であるだけでなく,文章はこなれていて読みやすく,画像や図表が多いので視覚的にも印象深いというのが素直な感想である。構成は第1章の総説と,第2章の症状別17の総論およびそれに対応する29症例の提示からなる。書名からもわかるように,ややもするとつい軽視したり誤診したりして苦い思いをする症状・病態をわかりやすく解説した書籍で,小児科専門医をめざす若手医師の他,小児の診療に携わる初期研修医,総合診療医,内科医,救急医などにぜひ一読をお勧めしたい。外来診療でのピットフォールを具体的かつ簡明に概説していて,最初から最後まで比較的手軽に読破することもできるし,あるいはパラパラとページをめくって興味を持った項目から順不同に読んでもよいであろう。

 第1章は見逃しをしないための心構えとその要点が記載されていて,私自身も普段の診療で心掛けていることや,研修医や病棟実習の医学生に繰り返し指導している内容が要領よくまとめられている。特に患者の話を聞くための10のコツ,バイタルサインを的確に把握することの重要性(Pediatric Early Warning Score;PEWS),症状の経時的変化を短期~長期的視点で把握する意義(「時間を味方につける」)などはベテラン医師も再認識したい内容といえよう。

 一方,第2章で取り上げられている17の症状と29症例はどれをとっても示唆に富んでいて興味深く読めるし,何よりも短時間で把握できるのがよい。「泣き止まない」「意識障害」「発熱」「嘔吐」などは,本日の時間外にも必ず一人は受診するであろう,ごくありふれた主訴・症状である。現病歴を手際よく聴取し,不要な検査を避けつつ必要最小限の検査で的確に診断するのは,救急外来を含む日常診療で最も重要なことである。しかし,実はそれが一番難しいことは読者が日々実感しているとおりで,その要点を本書から教訓として読み取ることができると思う。一見軽症に思える臨床症状に惑わされ,重篤な病態を見落とさないようにするポイントとして,著者の一人は「日々のルーチンをコツコツ続けること」の重要性を強調しているが,まさに正鵠を射ていると思う。数々の教訓に富んだ症例をより印象深くしているのは,X線・超音波・CTなどの豊富な画像であり,図表もカラーを駆使して一目でわかりやすいように工夫されていて,本書の特筆すべき利点の一つである。

 本書の利用法を私なりに提案するならば,まず机の前に座り第1章を繰り返し熟読した後,第2章は当直の合間に気軽に順不同で読んではいかがだろうか。臨床の奥深さと楽しさを実感いただけることと思う。

A5・頁272 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03592-7


医療管理
病院のあり方を原点からひもとく

池上 直己 著

《評 者》松田 晋哉(産業医大教授・公衆衛生学)

医療提供体制の背景を踏まえて病院経営を考える

 本書は,わが国の医療・病院管理学をリードしてきた池上直己先生による医療管理の総合的なテキストである。専門職の理想的形態に関するFreidsonの類型をもとに日本の医師の特異性に触れ,そしてMintzbergの組織論をベースに,業務の性質に基づいて病院に勤務する職種の特性を分析し,そのマネジメント上の特徴を明確に説明している。こうした視点は病院のマネジメントを考える上で非常に参考になるものである。また,米国の医師と異なり,わが国の医師がそのキャリア形成の過程で管理者としての経験を積み,上級管理者になっていくという特徴を指摘している。それゆえに各病院団体による管理者コースなどの研修機会が重要であるが,本書はそのテキストとしても有用であると考える。

 医療管理を考える上で,歴史的な背景や医療政策の動向に関する理解は欠かせない。その理解なしに欧米のマネジメント論をうのみにすることは適切ではない。本書ではそうした視点からの丁寧な説明がなされており,医療管理を基礎から学ぶ者にとって大変有用であろう。人事管理についても,著者の研究成果をもとに基本的な考え方の整理がされていて参考になる。医療職における非金銭的報酬や事務職における一般的管理機能の重要性は認識こそされているものの,それをターゲットにした人事管理およびその研修などはあまり行われていない。本書の指摘をもとに,そうした側面からの人事管理の研修が定式化されることを期待したい。

 著者はわが国の医療機関における管理会計学的分析の第一人者でもあるが,その経験をもとに医療機関の財務管理を考える上での注意点を説明している。特に,責任単位の設定方法や分析結果の活用方法に関して,一般企業の管理会計とは異なった視点が必要である。

 本書の最も大きな特徴は最終章のケーススタディである。雑誌『病院』における評者の連載でも取り上げた北海道函館市の高橋病院は急性期後の医療・介護を支えるモデル的病院である。かつては古い形態の“老人病院”だった同院を,現理事長である高橋肇氏がどのように先進的な医療機関に変革してきたかが,本書の各章の項目(経営改革,人事管理,財務管理,地域連携)の視点から物語として記述されている。読者はそれを読みながら,必要に応じて本書の前半で説明されている理論を読み,それがどのように具体化されているのかを分析することで,本書が目的とする医療管理の内容をより深く理解することができるだろう。

 惜しむらくは,このようなケーススタディで設定されることが多いガイド的な設問(例えば「Q.なぜ,現理事長はこの時点で病床を転換することを決断したのか? 転換を行わなかった場合,どのような結果になっていたと予想されるか?」など)があれば,より学習効果の高いテキストになったのではないかと思う。ぜひ本書のワークブックを続刊として執筆していただければと思う。

A5・頁172 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03611-5


救急レジデントマニュアル 第6版

堀 進悟 監修
佐々木 淳一 編

《評 者》久志本 成樹(東北大大学院教授・救急医学)

理論的な「時間を意識した診療」を可能に

 救急医療では,緊急性に適切に対応すること,すなわちタイムリーに診療を開始することが重要です。しかし,救急に携わるスタッフが救急患者の診療を開始した段階では,緊急性の程度ばかりでなく罹患臓器も不明であり,いずれの病態の緊急性にも対応できる知識と技術が必要になります。急病,外傷,中毒など,原因や罹患臓器の種類にかかわらず,全ての緊急性に対応する診療能力が重要です。

 正確な診断よりも病態に対する蘇生・治療が優先されるショックや呼吸不全患者への対応,救急患者に多く見られる症候からの時間を意識した考え方と対応,そのための検査や治療手技,さらに社会的事項や各種スコアリングなど,救急に携わるスタッフが知っておくべき知識と情報は多岐にわたります。そして,限られた時間と資源という大きな制約を伴う状況でこれらを使いこなし,判断と確実な治療につなげなければなりません。この「限られた時間」「限定された資源」という制約が,救急診療が一般診療と著しく異なる点です。また,この相違こそが救急たるゆえんであり,醍醐味(だいごみ)ですらあります。

 25年前に慶大救急医学教室・相川直樹教授(当時)のリーダーシップによって初版が発行され,今回,佐々木淳一教授編集,堀進悟前教授監修により第6版として出版された本書は,救急医療のベッドサイドバイブルといえる一冊です。症候からのアプローチにおいては,「どのように判断して,いかに動くか」に始まる記載で統一されており,限られた時間における判断とこれに基づく対応において最優先となるポイントが明確に記されています。重症度判断,適切な診断とそのための検査や鑑別の考え方,その上で行うべき対応といった本書の構成は,救急スペシャリストの思考過程そのものを形にしたものです。

 救急医療に携わる全てのスタッフが,最新の知見に基づく理論的な「時間を意識した診療」の展開を可能とするマニュアルとして,自信を持って推薦する一冊です。

B6変型・頁594 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03539-2

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