医学界新聞

取材記事

2015.10.26



【取材】

看護師のためのコミュニケーションスキル研修
患者の感情表出を促す“NURSE”


 コミュニケーションスキルは,患者のニードを理解しケアに生かすため,患者-看護師関係を発展させるために重要な看護技術である。日頃,患者や患者家族と接する際だけでなく,意思決定支援の場面でも必須であり,その重要性は増してきている。

 そのスキルのひとつに,日看協の緩和ケア研修テキスト内でも紹介されるなど,がん看護領域全体に広まりつつあるコミュニケーションスキル“NURSE”がある。本紙では国立がん研究センター東病院(以下,東病院)が行う,患者の感情表出を促進する“NURSE”を中心とした研修を取材した。

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 「なぜ夫だけがこんなにつらい目にあわなければいけないのでしょう。ずっと仕事もがんばってきたのに。不公平です」。妻役の参加者が,胃がんの夫が抗がん剤治療を行えない状況であると話す。「ご主人のことを考えると悔しいお気持ちですよね」。看護師役の言葉に,妻役は涙ぐんで沈黙した。看護師役が妻役の肩に手をかける。「奥様の気持ちを話していただけますか?」「……悔しいんじゃないんです。怖いんです。夫にどんな顔をして会えばいいのか,誰にも話せませんでした」。隠れていた感情に自ら気付いた瞬間だ。

患者・家族の思いや感情を意識的に聴き,寄り添う

 看護師のためのコミュニケーションスキル“NURSE”は,「共感するスキル」の一つであり,以下の基本的なコミュニケーションスキル1,2)からさらに一歩踏み込み,患者の感情表出を促す。

1.聴くための準備をする
2.現状の理解の確認,問題点の把握
3.効果的に傾聴する
4.応答するスキル
5.共感するスキル

 具体的には,まず“Ask-Tell-Ask(患者がすでに知っていることを引き出す)”で患者が自らの問題の最新の理解を説明できるように促し,看護師が説明を加える必要がある場合は簡単な言葉で伝え,理解度を確認する。次に“Tell me more”。感情の表出を促し,批判や解釈を与えることなく傾聴し,肯定的に接する。そして,“NURSE”の中でも特に重要なのは“Respond to emotion with NURSE(感情探索の技法)”。の5つの技法を用いることで,患者が自分自身の感情と向き合うことを援助する。

 看護師のためのコミュニケーションスキル“NURSE”

患者体験を通して患者の気持ちに気付きを示す

 東病院では,参加者が体験的にスキルを身につけるために,1日がかりの研修の内,講義は1時間程度とし,残り時間全てをロールプレイに充てている。1グループ5人(患者役1人,看護師役1人,オブザーバー3人)。1グループにつきファシリテーター(進行役)とサブファシリテーター各1人がつく。

 ロールプレイは,グループ全員でシナリオを読み合わせた後,設定確認と役作りなど看護師役と患者役双方の準備が完了したら開始となる。ロールプレイの間,看護師役は各場面でどんな言葉を掛ければよいのかを考え,“NURSE”を実際に活用するとともに,自分の今までのコミュニケーションを振り返っていく。その中で,コミュニケーションが難しい...

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