医学界新聞

取材記事

2015.06.22



【取材】

「生活の再建」と「自立支援」をめざして
――長崎リハビリテーション病院

多職種病棟専従チームと看護の役割


 白衣も,ナースステーションも,看護部さえもない。多職種が病棟専従となり,患者ごとに10人ほどの担当者チームを結成。「入院生活そのものがリハビリテーション」となる医療を提供する。回復期リハビリテーション専門病院である長崎リハビリテーション病院(143床)は,2008年の開院以来,こうしたユニークな取り組みを行っている。その狙いはどこにあるのか。多職種チームにおける看護の役割とは。同院の一日を取材した。

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栗原正紀氏に聞く


 病棟階の中央部にある「スタッフステーション」は,夜勤からの申し送りが始まる8時半にすし詰め状態となる。そこでは,夜勤に当たった看護師・介護福祉士らが患者の夜間の状態を報告し,日勤の看護師・介護福祉士,早出のセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士),歯科衛生士,管理栄養士,医師らに引き継ぎを行う。「多職種病棟専従チーム」による活動の始まりだ。

多職種が病棟専従となり,患者ごとに担当者チームを結成

 10時過ぎになると,新規の入院患者が入ってきた。患者ごとに事前に割り当てられた担当者チームのうち,まずは看護師と介護福祉士が病院の入り口で患者を出迎える。病棟に上がると,看護師が現病歴や既往歴の聴取,バイタルサインの測定を,介護福祉士は患者家族と面談し,家族歴や生活歴などの背景情報の聴取を始めた。介護福祉士は看護師と同じ色のユニフォームに身を包み,ペアを組んで行動することが多い。

 1時間後の「入院時合同評価」では,医師やセラピストを含む担当者チーム全員(10人程度)がスタッフステーションに集合。歩行や嚥下の機能を実際に評価した後,退院目標や介入方法を話し合った。入院後5日以内に「入院時カンファレンス」が実施され,このときに担当職種がそれぞれの評価・ゴール設定案・プログラム案を提示。チーム全体で統一した目標設定を行い,それに基づき各専門職のゴール設定・プログラムを確定するのだという。

縦割り組織の廃止,全職種が「臨床部」に所属

 長崎リハビリテーション病院は,医局・看護部・リハ部といった縦割り組織を廃し,全職種が「臨床部」に所属する病棟専従制となっている(図1)。看護師や理学療法士・作業療法士・言語聴覚士はもちろんのこと,介護福祉士,管理栄養士,歯科衛生士,社会福祉士など,回復期リハビリテーション病棟の配置基準では規定のない専門職も病棟専従だ。

図1 組織構成
従来の縦割り組織を廃し,専門職は臨床部に所属している。

 看護師・介護福祉士が二交代制の24時間勤務。セラピストらは夜勤こそないが,365日勤務となっている。「ナースステーション」を「スタッフステーション」,「ナースコール」を「スタッフコール」と呼び,全職種がスタッフステーションを拠点にすると同時に,患者からのコールにも対応する。

 「患者の日常生活に沿った支援が重要であり,そのためには多職種が病棟専従となる必要がある」と,院長の栗原正紀氏はこうした施策の狙いを語る。「入院生活そのものがリハビリテーション」という考え方なので,セラピストも通常は病棟で活動し,リハビリテーション室(同院では「アクティブホール」と呼ぶ)にいるのは必要時のみ。看護師だけが集まるカンファレンスもない。

 チーム構築のための取り決めとして,言葉を大切にしているのも特徴的だ。「他職種に“指示”を出すのは医師のみ」というルールがあり,セラピストが看護師に指示を出すことは禁止。代わりに,“問題提起”や“助言”が推奨される。チームとチームが手を組む「多職種“連携”」ではなく,1つの目標に向かって専門職同士が「多職種“協働”」に当たるのだという。

チームの基盤は看護師にあり

 多職種病棟専従チームの基盤を担っているのが看護師だ。患者ケアにおいては,患者の24時間の生活を介護福祉士らと共に支え,セラピストらの助言のもとに病棟内でのリハビリテーションも実施する。逆に,病気の予防・治療といった全身管理の基本や排泄などの日常のケアに関しては,介護福祉士やセラピストらを教育し,全職種が患者の自立支援にかかわる体制を整えていく。

 また,看護部長や師長,医長などの役職がない同院においては,病棟運営においても看護師にかかる期待が大きい。マネジメントを中心的に担う「マネジャー」(看護師長に相当)を各病棟に配置(図2)。医師以外の全職種の勤務表はマネジャーが作成する。

図2 病棟運営体制
看護師長クラスからマネジャー,看護主任クラスからアシスタントマネジャー,さらに看護師またはセラピストの中からチーフを選抜し,病棟運営は医師を含めたこれらの役職者で担う。

回復期における看護の役割とは

 「最初は何をやっていいかわからなかった」。病院開設時から看護師として勤務する洗川喜咲子氏(マネジャー)は,当時をそう振り返る。それまで急性期病院の経験しかなかった洗川氏にとって,「回復期=リハビリテーション」というイメージしかなかった。やがて,回復期において大切なのは「自立支援」であり,「看護を基盤とした多職種協働」の構築こそが自身の役割であると気付かされたという。

 自立支援を大事にすると,ケアの個別性が高くなる。例えばトイレ誘導に関しては,「Aさんは夜11時と朝4時」「Bさんは頻尿なので2時間おき。尿が出なかったら15分後にもう一度誘導」など,排泄パターンに沿ったきめ細かな申し送り事項がある。急性期は治療が優先であり,ベッド上での排泄も許されるかもしれない。しかし回復期は「生活を再建する場」であり,トイレ歩行可と評価された以上は,オムツは使わない(オムツを使う場合にも,使う製品から当て方まで申し送り事項がある)。「急性期で疲れたから回復期で少しゆっくりしたい,という気持ちで転職してくる看護師は皆びっくりする。当院ではやるべきことがとんでもなく多い」。洗川氏は笑いながらそう話す。回復期における看護の役割の奥深さを,今はつくづく感じているのだという。

①スタッフステーションでの夜勤からの申し送り。白衣は着用せず,ユニフォームはピンク(看護師・介護福祉士),イエロー(セラピスト),ブルー(管理栄養士・歯科衛生士等),濃紺(役職者)で色分けされている。

②定期カンファレンス。入院後1か月ごとに担当者チームが集まり,プログラムの修正,目標設定の確認を行う。

③病棟内でのつま先立ち訓練。セラピストと相談の上,看護師が実施。「退院時までにどれくらい歩ける必要があるのかを全員で共有し,そこから各職種がやるべきことを考える。患者さんの生活がチーム医療の中心にある」(担当看護師の話)。

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