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第3047号 2013年10月14日


日本発臨床試験の信頼回復に向けて

第61回日本心臓病学会の話題より


 近年,日本発の大規模臨床試験の結果が相次いで発表され,海外一流誌に掲載されるようになった。しかしその一方で,臨床研究における利益相反やデータ不正にかかわる事件が発生しており,臨床研究に対する信頼を揺るがす事態となっている。

 今後,わが国の臨床試験が国際的な信頼を回復させるためにどのような対策が必要なのだろうか。アカデミアはどのような役割を果たすべきだろうか。本紙では,第61回日本心臓病学会(会長=熊本大大学院/国循・小川久雄氏,2013年9月20-22日,熊本市)において企画されたシンポジウム「医師主導型臨床試験のあり方を巡って――日本発臨床試験の信頼回復に向けて」(座長=臨床研究適正評価教育機構・桑島巖氏,自治医大・永井良三氏)の模様を報告する。


シンポジウム「医師主導型臨床試験のあり方を巡って」
 シンポジウム冒頭で座長の桑島氏は,論文不正問題が臨床医の降圧薬選択に悪影響を及ぼした可能性と日本発臨床研究の信頼が国際的に失墜したことを指摘。臨床研究のあり方を見直す上で,以下4つの論点を提示した。

(1)治験同様,臨床研究にも薬事法による規制を適用すべきか
(2)すべて二重盲検法で行うべきか
(3)奨学寄付金制度は改めるべきか
(4)利益相反(COI)のあり方

薬事法による規制を臨床研究に適用すべきか

 中でも現在争点となっているのは,(1)臨床研究の規制の問題だ。臨床試験は,薬事申請目的の「治験」と,それ以外の「臨床研究」に区別される。治験は薬事法に基づきGCP(Good Clinical Practice)が適用され,罰則規定がある。また,データのモニタリングや監査が求められる。一方で臨床研究は,厚労省「臨床研究に関する倫理指針」等があるものの罰則規定はなく,データの信頼性保証に関する規定もGCPほど厳格ではない。なお,英国やフランスでは,薬事申請目的の有無にかかわらず,すべての臨床試験において治験と同様の規制が行われている。

 これら背景を踏まえ,「臨床研究の規制が不十分であるという声は根強い」(座長の永井氏)という。しかしながら,もし臨床研究にGCPを適用するとなると,膨大な書類の発生による手続きの煩雑化やコストの高騰を招くという懸念も出ている。

 このジレンマに対し演者の植田真一郎氏(琉球大)は,「個々のデータの正確性は結果の信頼性を担保しない」と指摘。診療上の問題点を解決するような臨床研究においてはGCP適用の二重盲検プラセボ対象比較試験は必須ではないと述べ,規制強化によって臨床研究のデータ管理に治験同様の質を求めることに異議を唱えた。GCPの一律適用となれば,製薬会社などが資金を提供する大型研究以外は実現が困難になるというバイアスが生じる。これにより,「診療現場での治療法の効果を評価しよう」という真の医師主導型臨床研究が衰退してしまうという。

 では,医師主導型臨床研究の質を担保するための課題は何か。氏は,KYOTO/JIKEI HEART STUDYにおいては研究の目的が研究デザインに反映されていないと考察。信頼性のある結果を得るためのリテラシーやスキルの向上,多職種連携による共同研究体制の構築こそが問われていると強調した。

利益相反を適切に管理する

 利益相反とは,自らの行動に不適切な影響(バイアス)を及ぼすと問われる(問われかねない)外部との経済的または個人的関係を有している状態を指す。ただ,産学連携による医学研究を推進すれば,不可避的に利益相反は発生することになる。山崎力氏(東大臨床研究支援センター)は,「利益相反が悪なのではなく,利益相反を適切に管理しないことが問題となる」と主張。NEJM誌やランセット誌などに掲載された論文において,製薬企業所属者の研究への直接的関与が明記されている実例を挙げ,厳格な品質管理・品質保証(モニタリング・監査・GCP適合性調査など)が確保されれば容認され得るとの見解を示した。

 さらに,国立大学附属病院長会議の下に設置された臨床研究推進会議が「臨床研究の信頼性確保と利益相反の管理に関する緊急対策」を先日取りまとめ,全国立大学附属病院に通知したことを明らかにした。本対策では,一連の事件を国立大学病院が当事者として受け止め,各施設で点検・整備すべき教育・支援・監視体制を求めており,臨床試験の位置付けに応じた品質管理の基準と具体的手順も解説されているという。

問われる学会のリーダーシップ

小川久雄会長
 続けて,研究支援企業の立場からは北川雅一氏(株式会社ACRONET)が,臨床研究に潜む企業リスクとその予防について説明。奨学寄附金名目の資金提供が契約ベースに切り替わりつつあるなど透明化が進む一方で,「資金源の情報が被験者に正しく伝わっているか」「資金源の情報が研究登録データベースに正しく記載されているか」(「自己調達」の記載は許されるか)などの課題があると指摘した。

 行政の立場からは山田雅信氏(医薬品医療機器総合機構)が登壇。「疫学研究に関する倫理指針及び臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る合同会議」ならびに,論文不正事件を受けての「高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」の検討状況,厚労省が推進する「臨床研究中核病院等の整備事業」を概説した。

 報道の立場からは宇津貴史氏(日本医学ジャーナリスト協会)が,学会報告以外で記事に影響を与えるものとして,(1)学会主催の記者会見,(2)スポンサーによるメディアセミナー,(3)個人的レクチャーの3点を挙げ,臨床試験結果の報道例をもとに解説した。

 最後に登壇した大会長の小川氏は,自身が主任研究者としてJAMA誌に掲載されたJPAD trialの概要を説明。同研究は,2型糖尿病における動脈硬化性イベントへの低容量アスピリン療法による一次予防効果を調査したもの。厚労科研として全国163か所の医療機関の協力を得て行われており,日本発の医師主導型大規模臨床研究の理想形が示された格好だ。

 討論では,規制の妥当性やデータマネジメントの改善,受託契約の推進などが議論された。最後に永井氏が,学会が臨床研究の信頼性向上に率先して努める必要性を説き,シンポジウムを閉じた。