医学界新聞

2013.04.22

6年目を迎えたEPA看護師制度


 第102回看護師国家試験において,経済連携協定(EPA)に基づいてインドネシアとフィリピンから来日した看護師候補者から30人が合格した。昨年と比較し,EPA看護師候補者の受験者数は415人から311人に,合格者数は47人から30人と,ともに減少傾向が見られた。また,合格率も9.6%にとどまり,前年(11.3%)を下回る結果となった()。

 EPA看護師候補者の看護師国家試験の結果(過去5年)


新たな特例措置も,合格率の向上は見られず

 かねてからEPA看護師候補者の合格率の低迷は懸念されており,現在の看護師国家試験では,候補者に対して日本語のハンディキャップを緩和する配慮がなされている。こうした取り組みは,厚労省「看護師国家試験における用語に関する有識者検討チーム」のとりまとめ(10年8月)を受けて導入が決定され,10年度実施の第100回試験から「難解な用語や表現は言い換える」「難解と判断される漢字にふりがなを振る」「疾病名には英語を併記する」などの特別措置がとられてきた。

 今回の試験では,これまでの措置がさらに拡充されるかたちとなり,EPA看護師候補者の試験時間は,一般受験者の5時間20分から1.3倍延長した7時間に変更。また,すべての漢字にふりがなを付けた問題用紙を配布するという対応策が講じられた。しかし,こうした新たな特別措置も,「合格率向上」という結果につながらなかった。

合格後も継続的な教育が必須

 これまでに入国した629人の外国人看護師候補者のうち,国家試験合格者数は96人。合格した外国人看護師は,どのように現場で活躍しているのだろうか。

 荻窪病院(東京都杉並区)では,インドネシアから来日したエリザベッ・シレガー氏,エルミ・ジュニアティ氏が勤務している(写真)。両氏は10年度に来日し,同院で看護補助業務をしながら試験勉強に励み,第101回看護師国家試験に合格。その後「看護師」として業務を開始し,この春で丸1年が経過した。教育担当の吉富若枝氏は,両氏の働きぶりを「母国での看護師経験があるので,患者さんの見るべきところはわかっている。インドネシアの国民性か,周囲の人々への心配りも素晴らしい」と評価する。

写真 エリザべッ・シレガー氏(左)と,エルミ・ジュニアティ氏(右)。

 その一方で,「国試に合格したと言っても,日本語の能力は十分ではない」と不安も明かす。申し送りや看護記録に加え,検査などの患者説明を行う際に日本語の能力が壁になることがあるという。また,エルミ・ジュニアティ氏も,患者が痛みを訴える際に使う「ガンガン」「ズキズキ」といった日本語特有の表現の理解に苦労する場面があると語る。

 外国人看護師が安全に看護業務を行うためには,継続的な教育・研修を行う必要がある。しかし,政府の行う支援は国家試験合格前の候補者に対するものに限られ,合格者への研修は各施設に一任されているのが現状だ。そのため,荻窪病院でも日本語専門学校を利用するほか,院内スタッフや地域のボランティアの協力を得ながら日本語指導を行っているという。吉富氏は「合格後,国としての教育支援がまったくないのは疑問」と訴える。

 2014年よりベトナムからの候補者受け入れも決まり,EPAに基づいて来日する看護師候補者の多様性は増す。一定のレベルに達した看護師を養成するためには,合格率向上に向けた対策に加え,合格後の研修体制の整備など,幅広い視点から教育の在り方を議論する必要がある。

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