Is It Reintroducing Paternalism? 老衰終末期における代理決定(大蔵暢)
連載
2012.01.16
高齢者を包括的に診る
老年医学のエッセンス
【その13】
Is It Reintroducing Paternalism?――老衰終末期における代理決定
大蔵暢(医療法人社団愛和会 馬事公苑クリニック)
(前回よりつづく)
高齢化が急速に進む日本社会。慢性疾患や老年症候群が複雑に絡み合って虚弱化した高齢者の診療には,幅広い知識と臨床推論能力,患者や家族とのコミュニケーション能力,さらにはチーム医療におけるリーダーシップなど,医師としての総合力が求められます。不可逆的な「老衰」プロセスをたどる高齢者の身体を継続的・包括的に評価し,より楽しく充実した毎日を過ごせるようマネジメントする――そんな老年医学の魅力を,本連載でお伝えしていきます。
【症例】 82歳女性Oさんは進行期アルツハイマー型認知症を持ち,現在要介護5で筆者が往診する有料老人ホームに入居している。元大学教授で今年85歳になる夫は,往診時には必ず立ち会い,話すことのできない妻に代わって日ごろの様子を詳しく報告してくれる。最近,Oさんの嚥下機能が低下し,食事量が減ってきた。 |
本連載第4回(2924号)では,胃ろう造設と人工栄養の是非に関して,エビデンスやその有用性,道徳的正しさといった観点から議論した。筆者は老衰終末期患者の胃ろう造設には消極的(老衰自然死に積極的)であり,最近では新規に胃ろうを造設し,人工栄養を開始した症例はない。
一方,本連載第1回(2912号)で紹介した老衰プロセスにおける高度虚弱期では,現状説明や医療ケア計画を目的に患者本人や家族との面談を行うことが多い。今回,患者とその家族に老衰自然死を検討してもらうために行っている取り組みを紹介する。
早期から話し合いを行う
高齢患者の虚弱化が進んで,その可動性が車椅子移動やベッド上に限られるようになり,複数のADL障害が出現する高度虚弱期に入ったら,本人や家族,その他のケアにかかわる人と,今後の医療やケアについての相談を開始する。
その内容は,急変時の緊急蘇生術や急性疾患罹患時の病院搬送から,終末期に入った際の人工栄養に関する意向まで詳細にわたる。これらの問題について時間的余裕を持って考えてもらう重要性は,強調してもしすぎることはない。
終末期において誤嚥が常態化し誤嚥性肺炎を繰り返す,ある意味"追い詰められた状況下"で家族に胃ろう造設か否かの決断を迫っても,「人工栄養をしなければ見殺し」という雰囲気に押され,造設を選択せざるを得ないケースが多いように思う。早期から話し合いを開始すれば,大きな見解の相違も時間をかけて小さくしていくことができる(Ann Intern Med. 1999[PMID : 10366374])。
【症例続き】 以前から「緊急蘇生や病院搬送,延命処置はできるだけ避けたい」という夫の意向は周知されていた。Oさんが老衰終末期に入ったこともあり,再度家族面談を実施したところ,一人娘が初めて参加した。そこで彼女が「母親にはもう少し生きていてほしい」という希望や「苦しむところを見たくない」という老衰自然死への不安を表出したことで,夫は困惑している様子だった。 |
代理決定ではなく意思代弁を促す
高度虚弱期の高齢者は中等度以上の認知機能低下を伴う場合が多く,必然的に近親者がSurrogate decision maker(代理決定人)の役割を果たすこと...
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