横浜市立大学医学部「自殺予防学」講義・2008
2008.12.01
横浜市立大学医学部
「自殺予防学」講義・2008
3年目を迎えた横市大医学部の「自殺予防学」講義。精神医学と医学教育学の連携のもと,「医療コミュニケーション論」の体系のなかで3年生を対象に2コマの講義が行われている。2008年10月6日に行われた本年度の授業を取材した(本紙編集室)。
講義はオリエンテーションの後,河西千秋氏によるわが国の自殺に関する概説的レクチャーからスタート。健康問題が第1位となっている自殺動機の内訳,約3割の一般病院が経験しているといわれる院内で発生した自殺事故における診療科と疾患別の調査データ,自殺のリスクファクターであるうつ病などの精神疾患について,一般市民の有病率と有病者の精神科受診率などが具体的な数字をもって示された。このレクチャーを通じて医師にとって自殺は非常に身近な問題であることを学生は強く認識したものと思われる。
続いて,自殺企図者を前にしたときの医療者の気持ちを体験し,自殺企図者の気持ちをくみとりながら丁寧に連携する必要性を学ぶ――という目的で企画された医療面接のロールプレイが始まる。60名の学生は各6名ずつ10班にグルーピングされ,グループごとに医師役1名,患者役(母親)1名,家族役(長男)1名を選び,残ったメンバーは記録を取りながら,ロールプレイを観察する観察者と決まった。
この後,各グループのファシリテーター(精神科医または臨床心理士)から,医師役と患者役だけで展開される前半のシナリオ(表)が渡された。共通シナリオはグループ全員に示されたが,演技のポイントなどが記載された個別シナリオ(同)は各役割の演技者のみに渡され,個別の記載内容は,他のメンバーには隠された状態で10分間のロールプレイが開始された。
表 ロールプレイ前半部分のシナリオ(要旨) | |
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本格的なロールプレイはほとんどの学生が初めてで,しかも医師役の設定は「7年目の消化器内科医」。何から話し始めればよいかイメージがわかなかったり,友達同士であることの気恥ずかしさから,なかなかスムーズに始まらないグループが多かったが,「役になりきって!」というファシリテーターのアドバイスを得ながら,次第に迫真の演技に。医師役は,何を言っても嫌がる患者役に持てる限りの知識を駆使して検査を受けるよう説得するが,平行線のまま前半の制限時間に。
休憩を挟み後半では,強く検査を勧められた1週間前の外来受診後,生きる望みを失って自殺を図ったという患者役と遠方に暮らす長男役,医師役によるロールプレイを展開。前半同様,配布された個別シナリオには,患者役には「落ち込んでふさぎこむ」,長男役には「とにかく医師に食い下がる」,医師役には「すべてアドリブで精いっぱい対応する」との指示が。編集室が同席したグループでは,「とにかく心配で家にひとりでは置いておけないので入院させてほしい」の一点張りの長男役に対し,患者と家族それぞれの意思や生活環境を確認しながら,悩みながらも誠実に最善の策を見出そうとする医師役が印象的だった。
医師と患者の目的がずれている?
ロールプレイに対する振り返りでは,医師役からは「診察の進め方がわからない」「患者が何を考えているのかわからず不安」「検査を受けたくないのになぜ患者は病院に来たのだろう」,患者役からは「先生が話を聞いてくれない」「検査の強制がすごかった」,観察者からは「医師と患者の目的がずれている」「検査をすればよいという言葉だけでは不十分で,患者の不安をあおる」などの声が。これは教員側がシナリオにこめたねらいどおりの意見・感想と言え,効果的な授業が展開された表れと感じられた。
学生たちは,医療者と患者がすれ違うように設定されたロールプレイを通じ,身体的症状の陰に潜む患者心理や,本音を聞き出す難しさ,言語化されない患者・家族の心理的葛藤をも読み取る重要性を,身をもって学ぶことができたのではないだろうか。
自殺企図者への介入・対応の具体的なポイント
この日は,高度救命救急センターに常勤する精神科医の山田朋樹氏も「救命救急センターにおける自殺予防活動」として,現場で行われている危機介入について,症例を挙げながら講義を行った。このなかで山田氏は,救急現場での自殺企図者への介入のポイントとして,危機介入に使える時間は短いことを自覚し,できる限り初対面から核心部分に触れ,介入につなげることが重要などと述べた。
最後にまとめとして河西氏が再度登壇。自殺に傾く人への対応のポイントとして,患者を支えるキーパーソンの存在や医療の継続,活用できる社会資源との連携など「柱」をできるだけ増やし,「つながり感」「伝え合い」の構築と,そのプロセスが大事であると強調し,3時間にわたる講義は終了した。
医学生の声
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