学生のうちに知っておきたい 臨床で役立つ薬の知識(大谷道輝,荒井有美)
対談・座談会
2007.11.26
【対談】学生のうちに知っておきたい
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大谷道輝氏(東京逓信病院薬剤部副薬剤部長/薬剤師)
荒井有美氏(北里大学病院医療安全管理室主任/看護師・薬剤師) |
新人看護師として働き始めれば,どの病棟であろうと薬剤を扱う機会は非常に多い。しかも看護師に求められる薬剤知識は高度化・複雑化しており,ヒヤリ・ハット事例でもっとも多いのが薬剤に関するものである。ところが卒前教育においては,薬に関する実践的な教育が不足しているのが現状だ。
このたび発刊されたJJNスペシャル『剤形別くすりの知識』では,剤形別に重要な薬の知識をまとめるという新しい切り口を提示している。著者の大谷道輝氏と,看護師と薬剤師の両方の資格を持ち『目からウロコのクスリ問答』の著者である荒井有美氏との対談を本紙で企画した。臨床で役立つ薬の知識を看護学生のうちに学び,病棟で「自信を持って」「豊かな看護」を展開できることを願って!
医療現場では薬のハテナがいっぱい
大谷 私は薬科大学のほかにも,看護学校や臨床検査技師の学校で非常勤講師として教えていますが,正直に言うと,これまで看護師の仕事があまりよくわかっていませんでした。それは昨年,薬剤師の病棟配属による医療事故防止策を検討する過程で,各病棟を朝7時30分から夜19時30分まで12時間,1週間ずつ12病棟を看護師さんに付いて回り,業務内容およびその量を調べた際に気づきました。
全部で3か月くらいかかりましたが,看護の仕事は自分のイメージとまったく違っていましたし,病棟ごとの違いもありました。看護師さんは動きが速くてついていけなかったりしましたが(笑),他の業務で薬に関する業務が中断することも多く,非常にリスクが高いことを痛感しました。
荒井 私は大学病院で薬剤師として7年間勤務しましたが,私が服薬指導に携わった頃は「100点業務」(註1)の時代でした。
大谷 懐かしいですね。患者さんの服薬指導をすると,月1回100点を算定していた時代がありましたね。いまは週1回350点です。
荒井 薬剤師が病棟に行くことさえ珍しい時代でしたが,午前中は注射剤の混合,午後は服薬指導をしていました。当初は,看護師に薬剤師の病棟活動に対しての理解が得られなかったこともありましたが,薬に関する相談や質問を受けるようになり,それに答えていくにつれ,徐々に評価をしてもらえるようになりました。その後,看護学部を卒業して病棟で看護師として働きだしてからも,薬に関する質問を受けることはありました。
大谷 荒井さんの薬剤師としての経歴を知っているからですね。
荒井 そうだと思います。結局,私自身が看護業務に就いてみても,薬に関する疑問はたくさんあり,現場は情報不足であることに気がつきました。そこで,看護師にこういう薬の知識を伝えたいという気持ちから「目からウロコのクスリ問答」という連載(『看護教育』誌掲載,後に書籍化)が始まったのです。
大谷 私も病棟を1週間ずつ回った時に,同じような経験をしました。多くの看護師さんから「与薬の準備も注射剤の混合もしなくていいから,早く病棟に薬剤師が常駐するようになってください」と言われました。たぶん,不安だけれども通り過ぎてしまっている疑問がたくさんあって,「薬剤師さんからその場ですぐに答えをもらえるから安心」ということだったと思うのです。実際病棟に常駐していると,多くのことを看護師さんから訊かれます。しかし,ふだん薬剤部に電話をかけてくる看護師さんは非常にまれです。
臨床では,薬に関する啓蒙は薬剤師がすべきですが,なかなか手がまわらないのが現状です。院内の医療安全委員会などに出ると,同じような事故やヒヤリ・ハットが起きて,毎月同じような議論をしなければならなくて,いつも悩んでいます。
それでも「なんとかしたい」という気持ちがあって,ここ2年くらいは看護師さん対象の勉強会を何回か開いていて,少しは効果があるのではないかと思います。もっと薬剤師を気軽に使ってほしいと思いますし,私たちも病棟に常駐するなど積極的に情報提供をしていかなければならないと痛感しています。
OJTでは間に合わない!
大谷 新人看護師さんのインシデント報告書を読むと,例えば「1錠のところを2錠飲ませてしまったけれども,患者さんの容態に変化はなかった」と書いてあります。薬を2倍飲むと血中濃度が2倍以上になる危険性があることを本当に理解できているのかどうか,どんな副作用が発現しやすくなり何を観察すればいいのかをわかっているのか,不安になることがあります。
私たちの薬剤部では問題となるヒヤリ・ハットについては,実際に起きた場合にどのようなことが起こると予想されるのか,どう対処すればいいのかを発表させています。例えば,先の事例のように2倍の量を服用した場合,どのような体内動態を示し,それによりどのような副作用が発生することが予想されるのかを質議応答を含めて30分程度議論します。多くの場合,若手薬剤師がヒヤリ・ハットを起こすのでとてもいい勉強になります。経験を積むうちにわかる,というのでは遅いと思います。
荒井 誰でも間違えることはあります。うっかりミスに対しては,システムによって防止しなければならないと思います。しかし,知識不足が原因となるエラーについては,教育による対策が必要ですね。薬の特徴を知ることでエラーを防げることもあります。
例えば,血圧の薬の「アダラート」のように,「アダラートL」「アダラートCR」と接尾語が違うだけで作用時間が異なり,服用間隔が異なるものがあります。薬の名前は最後の最後まで読まなければ特定できません。この接尾語のLはLong,CRはControlled Releaseというように薬の成分が少しずつ放出されて効果が持続する製剤ですよね。このような知識が,服用時間や服用回数のエラーを防止できる可能性もあります。
薬のリスクばかりを強調すると,プレッシャーになって萎縮するかもしれませんが,少しでも自信を持って,適正に安全に薬を使用するためにも,臨床に根ざした履修内容の見直しが看護教育には必要だと思います。新人看護師の離職調査を見ると,「もっと薬のことを学びたかった」という声があります(註2)。これは新人職員の離職の大きな理由のひとつになっているようですが,いかに臨床現場においては薬の知識が要求されており,一方でそれを担うだけの教育がされていないかということだと思います。
大谷 「自信を持つために学ぶ」というのはいいですね。臨床に入る前に,自信につながる知識や経験があるとないでは,臨床現場で働く際に本当に違います。
荒井 私が看護学部で学んだ頃は,臨床に必要な医薬品に関する教育は質・量ともに不足していた気がします。
よく看護師から「医薬品情報の取り方がわからない」という質問を受けることがあります。例えば「使用する薬がどのくらいで効き始め,どのくらいで効果がなくなるのか」などを調べたい場合に医薬品集や添付文書などで調べても,わからなくて困るという意見が聞かれます。このような疑問を解決するためには薬物動態の理解が必要ですし,添付文書に書かれているCmax(最高血中濃度)やTmax(最高血中濃度到達時間),T/ 12(半減期)といった記号の意味なども教育されていない場合があります。せめて添付文書の読み方や臨床で使用する医薬品情報の取り方などは,学生のうちに習得しておく必要があると思います。
そのため,当...
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