(渡辺尚子)
連載
2007.01.29
Dream Bookshelf
夢の本棚 13冊目渡辺尚子
(前回よりつづく)
■人は見た目が9割著:竹内一郎新潮社 2005年 新書・191ページ 714円(税5%込) |
新しい看護部長が各病棟に挨拶にやって来た。そしたらなんと今朝病院の入り口で会った“あの人”だった! その時は私服で,おどおどしたおじいさんが病院内で迷っているように見えたので「おじいさん,どこの科を受診したいのですか?」なんて声をかけたのだ。ユニフォームを着た部長は,きりっとした紳士。「今朝はありがとう。おじいさんに見えましたか?」とこぼれた微笑には,やや軽蔑のまなざしが……。それは私の穿った見方かもしれないけれど,とにかく,そんな苦笑いの気分で眠りについた。
「また来たね,あなたの書斎に……」いつものように先生の声がした。「先生も,私に対するイメージと,そして進むべき道について話してくれていましたよね。私はそんなに……」と言いかけた時,一冊の本が私の足元に落ちているのに気づいた。タイトルは『人は見た目が9割』。今日の出来事にぴったりの本だわ。先生に言いかけた言葉も忘れ,大きな本棚に囲まれた書斎のいつもの椅子に座って読み始めた。
目次を見るだけでも,早く読みたくなる。例えば「第1話 人は見た目で判断する」。人を外見で判断してはいけないとよく言われていた私だが,今日のことはやっぱり……と少し自己嫌悪になる。「第2話 仕草の法則」。へぇー,仕草で人の何かがわかるのかしら?「第3話 女の嘘が見破れない理由」。ふふふ……どんなことが書いてあるのかしらと思わず笑ってしまう。
早速「はじめに」から読みはじめる。討論番組『朝まで生テレビ』の中の“興味深い人物”のことが書いてある。“この人は場の支配力がある”と。なるほど,「言葉以外の情報」すべてを「見た目」と捉えてこの本が書かれているということが理解できた。
第1話ではショックを受ける。話す言葉の内容は7%しか相手に伝わっていない,それ以外の情報のほうが相手に大きく影響する,……そうか,一生懸命伝えようと必死になっている患者さんへのあの言葉は,こんな少ししか伝わっていないのね。それなら,もっと表情豊かに伝えていかないとなぁ。次々と,言葉や仕草についての面白い内容が続く。第3話では,「男は嘘をついたとき目をそらす。女は嘘をついたときは相手をじっと見つめて取り繕おうとする」とある。そうか! 外出届を出さずに病院の外に出ていそうなあの女性患者さん,いつも「私は絶対病院の外に出ていませんよ」と,私の目をじーっとみつめていたっけ。なんか気になっていたけど,そうだったのね。再び笑ってしまう。「色と匂いに出でにけり」のところでは,色の力・メッセージ力について書かれている。そうか,こういうことも考え合わせると病院の中の,建物・看護師のユニフォーム・食器の色など,さまざまな色の可能性が広がってまたワクワクしてくる。そんなことを思いながら,いつの間にか第9話まできてしまった。その中に看護師のことが書いてある。「……彼女たちは普段は仮面を被っているのだろうか。裏表があるのだろうかとつい思ってしまうのだ」と。そうだわ,私たちはユニフォームで装い,そして支えられているところもあるかもしれない。病院では平気で見も知らない人に「患者さん」としていろいろなことを話すけれど,それは看護師と患者さんとの関係で話していて,相手にどのように自分の言葉や対応が影響しているのか,あまり振り返りもせず日々流されているのかもしれない。ユニフォームにおごらない,謙虚な自分でいなくては,と思った。あっという間に読み終え,裏表紙を閉じたとき,はっと目が覚めた。
“謙虚さ”。私が最近忘れがちになっているこの言葉が,心に残っていた。
(次回につづく)
渡辺尚子
先日車を運転していたら,(滅多にないことですが)縁石に乗り上げてしまい車が動かなくなりました。それを助けてくれたのがシャープな眉をした一見怖そうな(ごめんなさい)お兄さん。やはり人は見た目ではありませんね。
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