医学界新聞

連載

2007.01.08

 

【連載】

英国の医学教育から見えるもの
ダンディーからの便り

最終回 21世紀のサムライ

錦織 宏(ダンディー大学医学教育センター・名古屋大学総合診療部)


前回よりつづく

 近年,世界中で医学教育の改善の必要性が叫ばれていますが,その最終的な目標は患者の利益,すなわち医療の質の向上にあります。ただ日本については,平均寿命が世界一であることやWHOが日本の医療の質を高く評価していることなどからも,この目標はある程度達成しているように思えます。「英米の医学教育がすばらしいというが,本当に日本で医学教育を改善する必要があるのか?」という声すら聞こえてきそうですが,では何が日本の医療の質を確保してきたのでしょうか?

 その一つは間違いなく医療制度です。日本の医療制度は,医療機関へのアクセスもよく費用負担もあまり大きくない,資本主義と社会主義の中庸をいく大変優れた制度です。この制度の恩恵にあずかって日本国民は今まで比較的良質の医療を受けることができていました。一方英国のNHSを見ると,医療費無料という理念はすばらしいですが,現実は社会主義的な制度であるが故の医療機関へのアクセスの悪さに加え,医療者の士気のあがりにくさという欠点も抱えています。そしてその欠点故に,逆に医療の質を確保するための医学教育が発展してきたのではないかと考えることもできます()。

 また,日本の医療の質を保証してきたもう一つの要因は,以前も少し述べた,医師としての「義」や患者に対する「仁」などの武士道プロフェッショナリズムの実践ではないでしょうか。侍魂ともいうべき日本の医療者の(西洋流に言えば)利他主義的な姿勢が,医療費や医師数などの数...

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