EPSとSVT
心臓電気生理学的検査と上室頻拍
EP大学学長・永嶋孝一、待望の初単著。SVTの歴史・診断・治療のすべてがここに。
もっと見る
EP大学学長・永嶋孝一、待望の初単著。上室頻拍(SVT)の基礎・歴史から心電図・EPSでの診断、アブレーション治療まで、SVTのすべてがここにある。
| 著 | 永嶋 孝一 |
|---|---|
| 発行 | 2026年03月判型:B5頁:328 |
| ISBN | 978-4-260-06241-1 |
| 定価 | 11,000円 (本体10,000円+税) |
更新情報
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
EPSという階段は,最初の一段が最も高く,そこで挫折してしまう方も少なくありません.だからこそ,この最初の一段を引き上げてくれる存在が不可欠です.
僕は,今でこそ自称「不整脈王」としてSVTに魅了されていますが,かつてはEPS中に目の前で流れる心内電位や議論に全くついていけませんでした.
最初に“jump up”を教えてくれたのは大久保健史先生.「お前さ,S1とS2のAHを比べてるだろ.違ぇよ.このS2と次の刺激のS2のAHを比べるんだよ(原文ママ笑).」 これが僕の登った最初の一段でした.さらに豊橋アブレーションコースでは岡嶋克則先生と髙見充先生が,置いてけぼりの僕の隣で解説してくれました.最初の師匠3人が差し伸べてくれた手がなければ,高い段差に挫折していたでしょう.
大学院時代には,奥村恭男先生に「永嶋,論文書けるとモテるぞ!」と,厨二病のやる気スイッチを押してもらい,渡邊一郎先生と奥村先生に徹底的に論文を添削してもらい,気がつけば米国 Harvard大学 Brigham and Women's Hospitalという次のステージへ.そこで Bill Stevenson先生と Greg Michaud先生にさらに引き上げてもらい,2015年には自身初となるSVTの論文(orthodromic His capture)を発表.一気にSVTにのめり込みました.
帰国後は丸山光紀先生,金古善明先生,野上昭彦先生に論文を全力で添削していただき,All JapanでSVT論文を世界に発信するという新たなステージへ.そして今,EP大学を通じて次の世代やMel Scheinman先生と共にSVT論文を発信するという,さらに上の景色が見え始め,超楽しいです.
この恵まれた経験を独り占めせず次世代に返すために本書を執筆しました.僕のEP知識のすべてを凝縮しています.本書とともに,あなたが大切な一段目を踏み出し,EPSという階段を駆け上がり,僕を追い抜いていってくれることを願っています.あ,いや,そう簡単に抜かれたら悔しいですけど(笑).そして本書が,やる気ある後輩に贈る一冊となり,未来の不整脈王が増えることを願っています.
最後に,心電図や心内電位をご厚意で提供くださり,一緒に本書を作り上げてくれたEP大学講師陣(各ページに記載),校閲してくれた松井優子先生,金井秀太先生に感謝!
2026年1月
日本大学医学部内科学系循環器内科学分野・准教授 永嶋孝一
目次
開く
第1章 心電図での本気の鑑別──12誘導だけでもここまで鑑別できる
1 narrow QRS頻拍の12誘導心電図での鑑別
▪ narrow QRS頻拍の鑑別,いくつ挙げられますか?
▪ narrow QRS頻拍の12誘導心電図での4ステップ鑑別
▪ 結局12誘導じゃ何も分からない……と諦めるなかれ!
2 wide QRS頻拍の12誘導心電図での鑑別
▪ wide QRS頻拍の鑑別
▪ wide QRS頻拍の12誘導心電図での3ステップ鑑別
第2章 電気生理学的検査のコツと知っておくべき電気生理現象
1 知っておくべき電気生理学的検査のコツ
▪ 電気生理学的検査
▪ プログラム刺激
▪ 心室連続/期外刺激で評価すること
▪ 心房連続刺激/期外刺激で評価すること
▪ 傍His束刺激(para-Hisian pacing)
2 知っておくべき電気生理現象
▪ 正常自動能(automaticity)
▪ 異常自動能(abnormal automaticity)
▪ 撃発活動(triggered activity)
▪ 興奮旋回(リエントリー)
▪ リセット現象
▪ entrainment
▪ 復元周期(post pacing interval)
▪ 第3/4相ブロック(phase3/4block)
▪ gap現象
▪ peeling back現象
▪ Ashman現象
▪ fatigue現象
▪ 過常伝導(supernormal conduction)
第3章 narrow QRS頻拍の鑑別のすべて
1 AT vs SVTの世界史
▪ narrow QRS頻拍の鑑別診断は難しい
▪ ATとJTをORT/AVNRTから鑑別する世界史
▪ ATをORT/AVNRTから鑑別する世界史
▪ JT診断の世界史
2 ORT vs AVNRTの世界史
▪ ORT vs AVNRTの世界史
3 「ノドベン時代」の幕開け
▪ ノドベン時代
▪ narrow QRS頻拍の鑑別診断のまとめ
第4章 ちょっと一息──知っているともっとEPSが面白くなる豆知識
1 PJRTの世界史
▪ PJRTの世界史
2 副伝導路の世界史
▪ 副伝導路の発見の歴史と分類
▪ Kent束の世界史
▪ Mahaim束の世界史
第5章 antidromic頻拍の鑑別のすべて
1 副伝導路の分類と逆方向性回帰頻拍(ART)の診断
▪ 副伝導路の分類
▪ ARTの診断
第6章 各不整脈の深い知識とマッピング,アブレーション
1 ATのマッピングとアブレーション
▪ ATの機序と12誘導心電図
▪ ATのマッピングとアブレーション
2 副伝導路のマッピングとアブレーション(ORT/ART)
▪ 逆伝導のKent束のマッピングとアブレーション
▪ 順伝導の副伝導路のマッピングとアブレーション
3 AVNRTの分類,マッピング,アブレーション
▪ AVNRTの電気生理学的分類と電気生理学的知識
▪ AVNRTの解剖学的分類
▪ Kochの三角内のマッピング
▪ slow pathwayアブレーション
▪ アブレーション後の再評価
▪ アブレーション後再発例へのアブレーション
▪ まとめ
索引
書評
開く
EPSとSVTがすんなり理解できる本
書評者:金古 善明(所沢第一病院内科部/群馬大客員教授・循環器内科)
近年,上室頻拍の診断・治療は目覚ましい進歩を遂げている。新たな疾患概念の登場や多様化に伴い,心電現象の理解や診断方法も次々と更新されてきた。臨床医はこれらを身につけ,日常診療に生かしていく必要があるが,とりわけ初学者にとって,この膨大な情報を体系的に理解することは決して容易ではない。そのため,わかりやすくコンパクトに整理された良質な教材の登場が待ち望まれていた。本書は,まさにその期待に応える一冊といえるだろう。
それにしても,この膨大な内容を単著でまとめ上げられたことには驚かされる。不整脈領域での単著は近年では珍しく,小生の記憶では,研修医時代に親しんだ『不整脈の診かたと治療』以来ではないだろうか。本書の大きな特徴は,分担執筆の書籍にはない,一貫した考え方に基づいて構成・記述されている点にある。展開される理論は流れるように自然で,無駄がなく,読み進めるほどに理解が深まっていく。
取り上げられているテーマも,「頻拍の心電図診断」「上室頻拍の鑑別診断」「基本的な電気生理現象」「マッピング」など,臨床で直面する重要な課題ばかりである。本文ではまず全体像がフローチャートで示され,その後,段階を追って理解を深められる構成となっている。説明は語りかけるような平易な言葉で簡潔にまとめられており,重要なポイントは色付きの下線によって強調されているため,初学者でも無理なく読み進めることができる。また,オリジナルの体表面心電図や心内電位が豊富に掲載され,独自のシェーマを用いた解説が加えられている点も,本書の魅力の一つである。
さらに特筆すべきは,疾患概念や検査法を「世界史」として時系列で解説している点である。この工夫により,読者は古典的な概念から現在に至るまでの流れを自然に理解でき,それぞれの診断法が生まれた背景や意義,限界についても納得しながら学ぶことができる。まさに「永嶋ワールド」ともいえる独自のスタイルであり,読み物としても大変興味深い。特に上室頻拍の診断に関しては日本からの貢献も多く,読者はその議論をより身近に感じられるだろう。「ノドベン」や「AVNRT」に関しては,世界的にも第一線で活躍されている永嶋孝一先生の知見を一望できる,貴重な内容となっている。「antidromic頻拍」に関する記述も,これまでにない新鮮な視点を提示している。
本書がすでに大きな反響をもって受け入れられていることは,大変喜ばしいことである。本書が上室頻拍およびEPSの入門書として,いわゆる「白本」の愛称で広く親しまれ,臨床電気生理学を志す多くの読者にとっての良き道しるべとなることを期待したい。
豊富な心内電位で,読解力トレーニングにも有効な一冊
書評者:丸山 光紀(日医大武蔵小杉病院循環器内科准教授・部長)
この度永嶋孝一先生が上梓された『EPSとSVT―心臓電気生理学的検査と上室頻拍』を拝読した。平易で明快な解説に定評のある著者による本書は,文章が極めて丁寧かつ詳細であり,一見すると心臓電気生理学(EPS)の入門書のような印象を与える。しかし実際には最先端の知識が体系的に網羅されており,本書を通読することで上室頻拍(SVT)の診断および治療に関する知識をほぼ網羅的に修得することが可能である。
EPSを習得し臨床で実践するには,実際の心内電位記録の理解が不可欠である。欧米の代表的なEPSテキストには多数の心内電位記録が掲載されているものが多いが,わが国のEPSテキストでは模式図や文章での説明が中心で,実記録の掲載は相対的に少ない印象がある。これに対し本書では,驚くほど豊富な心電図および心内電位記録が提示されており,各所に理解を補助する模式図が付されている。このような構成により,わが国発のテキストブックとしてこれまでにない高い完成度を実現している。
実記録を中心とした構成ゆえ,初学者にとってはやや難解に感じられる可能性は否定できない。しかし,SVTの診断をリアルタイムで行い,EPSさらにカテーテルアブレーションへと進む過程においては,前述の通り心内電位記録の読解力は不可欠なスキルである。本書はそのトレーニングを目的とした実践的指南書としても,日本人読者にとって極めて有効な一冊であるといえる。
近年,三次元マッピング・ナビゲーションシステム技術の進歩により,心臓の電気興奮が可視化され,初期の時代と比べると不整脈学は随分親しみやすくなったと思う。しかしながらSVTの診断および治療においては,直接的な電位記録が困難な「房室結節」というブラックボックスの機能が依然として重要なこともあり,テクノロジーの進んだ現代においても電位記録の正確な解釈や刺激に対する応答の差異の解釈など,EPSの包括的な理解が求められている。
SVTの診療において判断に迷う場面で参照すべき一冊として,本書が臨床現場で長く活用されることを期待したい。
あれから20年,成長の軌跡を込めた永嶋渾身の不整脈本
書評者:山下 武志(心臓血管研究所名誉所長)
僕は,永嶋孝一先生が学生の時(永嶋君だ)から知っている。とある研究会が始まる前,彼は僕が執筆したテキストを片手にたたずんでいた。「この本で勉強しています。サインを頂けませんか」と自信なさそうに彼はつぶやいた。そばには彼の大先輩の不整脈医がいて,「頑張り屋なんです。学生なのに不整脈に妙に興味があるようで」と彼を支えた。そして,約20年後,その彼は,今や不整脈分野で飛び羽ばたくスターだ。「自信なさそうに」はすっかり影をひそめ,この20年間の経験を背景にした自信に満ちあふれている。研究者であると同時に立派な教育者として成長したことにも驚く。
かつて臨床電気生理学的検査を学ぶためのテキストは,Josephsonの『Clinical Cardiac Electrophysiology』という洋書と,早川弘一,比江嶋一昌の『臨床心臓電気生理学』という和書の2冊しかなかった。その後数々のテキストが出版されたが,臨床電気生理学の深化とともに,多くの専門家が執筆したものを編集するという形にならざるを得ず,ともすれば読者は置いてきぼりを食らった。本書はSVTに絞って,著者が一人で全てを執筆したという点で,読者にとって理解しやすくなるばかりでなく,著者の信念が伝わるという意味でもこれまでの類書と際立った違いを感じさせてくれる。
本書の第1,2章は,SVTを学ぶ上での入り口だ。12誘導心電図,臨床電気生理学的検査の基本(これらの多くは永嶋先生が医師になる前に確立していた)を,うまくコンパクトにまとめている。そして,真髄は,これに続く第3~5章だ。成書とは異なり,「歴史」を軸に解説が進む。成熟したものを全て同時に見せられると,複雑すぎて理解できないことはよくある。それとは違って,著者がこの20年間学んできたものを,その時間軸にしたがって解説してくれるので,その理解にAH時間のjump upのような飛躍を要しない。その歴史を途中まで追ってきた人にとっても,その後どのような進歩があったのか,手にとるようにわかる。「歴史」という視点を臨床電気生理学に取り入れたのは圧巻だ。
本書は,これからSVTを学ぼうという若手はもちろん,すでにアブレーターとして成長している中堅にとっても一読の価値がある逸品だ。視点が素晴らしい。約20年間,彼の成長をそばから見てきた自分にとって,臨床電気生理学を担う世代は変わったという実感を味わわせてくれた。さあ,あとはSVT以外の不整脈をどう料理するか,これからも彼の活動に興味津々である。




