医学界新聞

寄稿 鈴木 賢一

2025.09.09 医学界新聞:第3577号より

 昨今のがん薬物治療の進歩は目覚ましく,従来の殺細胞性抗がん薬主体の治療から,分子標的薬や血管新生阻害薬,さらには免疫チェックポイント阻害薬に至るまで,この約20年間で大きく変貌した。一般的に抗がん薬は治療効果が得られる投与量を用いると,ほとんどの患者において副作用が発現する特徴があり,これは慢性疾患の薬物治療とは大きく異なる特徴の一つである。そのため医療現場では医師のみならず,薬剤師,看護師をはじめとした多職種連携によるチーム医療が必須の疾患となっている。薬学教育では薬学生が実務実習等を通じて学ぶべき代表的な8疾患として,高血圧,糖尿病,心疾患等が明記されており,これらと並び,がんもその一つとして含まれている。

 がんの薬物治療は乳がん,肺がん,大腸がんなど臓器ごとに大きく異なり,診療ガイドラインはがん種ごとに制定されている。経口抗がん薬も含めその治療スケジュールは極めて複雑であるとともに,多様な副作用管理も重要である。また抗がん薬の無菌調製では,輸液における一般的な調製と異なり,陰圧操作といった特殊な技術が求められるなど,修得すべき知識や技術は他の慢性疾患と比較し膨大である。こうした専門性の高さから,がん薬物療法における高度な知識・技術を備える薬剤師を養成するため,日本臨床腫瘍薬学会をはじめとした関連学会において,外来がん治療認定薬剤師,医療薬学専門薬剤師,がん薬物療法認定薬剤師などのがん専門認定資格制度が施行されている。これらを取得した薬剤師は,医療現場において安全かつ効率的な治療の実施に欠かせない存在となっており,がん薬物療法体制充実加算などの算定においても大きく貢献している。このような背景から,昨今はがん領域に高い関心を持つ薬学生が増えている。

 今回,日本臨床腫瘍薬学会では「がん治療薬学生エキスパート」という資格を創設した。同資格は, がん薬物療法および関連する領域を学び,一定水準以上の実力を有し, がん医療の現場において将来活躍し得る薬学生を認定する制度である。詳細となる認定制度の資格要件に関しては,日本臨床腫瘍薬学会のWebサイトをご覧いただきたい1)

 がん薬物治療は日々発展しており,毎年多くの新薬,新規治療が開発され臨床導入されていると同時に,副作用は多様化し治療支援はますます高度化している。がん医療の進展に伴い拡大・高度化するがん薬物療法において本資格は,専門知識の正しい普及を通じて卒後早期に国民の福祉のために貢献できる薬学生を養成することを目的に創設された。学生目線から見た本認定制度資格取得の利点としては下記の3つが考えられる。

①学会の正式な認定資格として履歴書等に記載することができる。
②がん医療を志したいという意欲は就職試験等でのアピールとなる。
③実施予定の学生シンポジウムの企画運営などを通じて,学会活動に学生の段階から社会貢献できる。

 また,あくまでも筆者の私見ではあるが,薬学生が本認定制度を通じて本会会員となることで,がん領域の臨床研究や先進的業務を積極的に行っている施設の情報を入手しやすくなることが挙げられる。就職活動においてがん領域に力を注ぐ施設を検討したい場合には,実践的かつ生きた情報が必ずや役立つと考える。

 本認定資格により,薬学生のがん領域の学習実績を担保するとともに,がん薬物治療の均てん化に貢献できる薬剤師を一人でも多く輩出できれば幸いである。


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1)日本臨床腫瘍薬学会.がん治療薬学生エキスパート(PSECC)について.2025.

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東京薬科大学薬学部臨床薬理学教室 教授

1992年明治薬科大薬学部卒。沼津市立病院,静岡県立静岡がんセンターにて薬剤師として勤務し,2012年がん研究会有明病院(当時)副薬剤部長。17年昭和大大学院薬学研究科博士課程を修了する。19年星薬科大臨床教育研究学域教授を経て,23年より現職。日本臨床腫瘍薬学会副理事長として,「がん治療薬学生エキスパートの認定制度」の創設に携わる。

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