医学界新聞


NEOセミナー「看護の本質を知る,ともに考える」の話題より

取材記事

2025.06.10 医学界新聞:第3574号より

 2025年5月10日,医学書院の運営する看護教育・研究のためのオンラインプラットフォームNEO(Nursing Education Online)が主催するセミナー「看護の本質を語る,ともに考える」が,医学書院(東京都文京区)にてハイブリット形式で開催された。一般社団法人日本て・あーて,TE・ARTE,推進協会代表理事の川嶋みどり氏と,文化人類学者の波平恵美子氏が登壇し,看護の本質とは何かをテーマに講演を行った。

◆“触れる”ケアこそ看護の本質

 川嶋氏の講演は,「ふれて心の声を聴く看護師の手」をテーマに行われた。同氏は,人と人との触れあいが希薄になった現代社会,特にCOVID19パンデミックに伴うソーシャルディスタンスの影響を背景に,看護師が患者に「触れない」傾向が強まっている現状に危機感を抱く。患者に直接“触れる”ことこそ看護の本質であり,看護独自の安楽ケアであるとその重要性を強調した氏は,「そばにいて,触れて,聴く」という行為を総合して「て・あーて」と称し,「看護師の手には患者の訴えを感じ取る力がある」と,手を用いたケアの重要性を訴えた。

 続いて波平氏は,文化人類学者である自身と看護とのかかわりを「不思議な縁」と表現し,半生を振り返った。大学院生時代,担当教授の紹介により看護専門学校で文化人類学の講義を担当したことが波平氏と看護教育の出合いだ。その後も看護師養成校で教鞭をとりながら,医療人類学の研究に取り組み,多くの医療者との交流を重ねてきた。「医療者ではない私が看護,医療の世界に長くかかわり続けてきたからこそ見えてくるものがある。不思議な縁に導かれる中で出会った看護師たちに多くのことを学ばせてもらった」と自らの思いを語った。

◆2大看護業務の間に生じた歪み

 対談では,「看護の世界が変化する中で看護の本質がどう保たれるのか」との問いが波平氏から投げかけられた。これに対し川嶋氏は,本来の看護とは人間の生命力に働きかけ,生きる営みを支えることであり,医療の枠組みよりもはるかに大きいものであるとした上で,その本質は時代・環境の変化に左右されないことを強調した。こうした看護の本質は看護師の2大業務のうち「療養上の世話」により実現するが,近年の看護師を取り巻く環境の変化は「診療の補助」への偏重を助長しているとも主張し,本来の看護ができない葛藤を少なくない看護師が抱えている現状を憂慮した。この現状を踏まえて,「今は看護師不足ではなく『看護不足』の時代。看護本来の仕事を取り戻す必要がある」と川嶋氏は語った。

 波平氏から続けて「実際の現場で本来の看護を実現しきれていないのはなぜか」と問いかけられた川嶋氏は,「約170万人いる看護師たちが現状を黙って受け入れる“サイレント集団”にとどまっていること」を理由として挙げた。優れた実践をしている訪問看護ステーションを紹介しながら,看護師同士で議論し,疑問に思ったことには声を上げることの大切さを訴えた。 参加者からは,「個人行動ではなく看護師全体で,本来の看護をする輪を広げていかなければならないと感じた」「私は業務ではなく看護をしているという意識を持てるように,看護を語る機会を現場で増やしたい」といった感想が寄せられ,セミナーは盛会のうちに終わった。

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写真 講師を務めた川嶋みどり氏(左),波平恵美子氏(右)
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 本セミナーのアーカイブ動画はNEOにて会員登録者向けに現在公開中。本セミナー他,看護教育・研究に関するさまざまなコンテンツもご覧いただけます。


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