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[第4回]手と足が腫れている? ちょっと難しそうで嫌だな
『総合内科対策本部 これってどうする!?』より
連載 吉見祐輔,横江 正道
2024.07.10
総合内科対策本部 これってどうする!?
「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「爪が黄色いです」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……このたび刊行された『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えています!
「医学界新聞プラス」では,本書より4症例をピックアップし,ご紹介していきます。
症例
患者 38歳,女性。
総合内科への紹介目的 手足の腫脹の精査。
紹介状内容 1か月ほど前から下腿の浮腫が出現し,その後,手にも浮腫が出現してきました。一度総合病院に紹介しましたが,血液検査や胸部単純X線写真で問題なく,原因は不明でした。当院で経過をみていましたが改善がありません。ご高診ご加療のほど,よろしくお願いします。
総合内科医の第一声 ちょっと言わせて!
X線が問題なければ心不全の可能性は低いだろうし,血液検査も異常がなければネフローゼ症候群や肝硬変も考えにくいから,年齢を考慮するとひょっとしてあれかな?
対策本部としての初動態勢
症状の特性を理解する
広義の浮腫である。ある程度は決まったパターンで詰めていくことができる。
心構え
前医の検査の内容によって,ある程度疾患を絞ることはできる。ただあまり前医の評価に引きずられないほうがよい。原則どおりまずは病歴,身体所見などから鑑別疾患を挙げていくことが重要である。
これってどうする!? 総合内科
浮腫(むくみ)は非常に多い訴えの1つであり,典型的な症例を除くと診断が難しく,一般外来でも苦手とする医師は多いと思われる。しかしある程度は決まったパターンがあるので,コモンなものから検討していく。
- ・心不全であれば労作時呼吸苦,起坐呼吸の有無,体重増加がヒントになる。
- ・肝硬変は肝炎の既往や飲酒歴,黄疸の有無などが参考になる。
- ・腎不全の原因は多岐にわたるが,乏尿などあれば疑う病歴になる。ネフローゼ症候群や低アルブミン血症については血液検査や尿検査が必要になるが,これは比較的簡単な検査であり,難しいことではない。
- ・甲状腺機能低下症はよくある疾患であり,便秘,徐脈,寒がり,意欲の低下などの有無をチェックする。
- ・高齢者で筋痛などを伴えばRS3PE症候群を考慮する。
- ・関節リウマチの手指関節炎を手の腫れとして訴えることもあるので,関節炎の有無にも注意したい。
- ・肺がんなどの悪性腫瘍に伴う肥大性骨関節症でも手の腫れを訴えることがあるので,念頭に置いておく。
- 患者 1か月ほど前から両下肢がむくみだして,半月ほど前から手もむくんできました。歩きにくかったり,物が持ちにくいなど生活に影響がありました。かかりつけ医から総合病院に紹介してもらいましたが原因ははっきりせず,利尿薬をもらいましたが改善しませんでした。
- GIM そうですか。それは心配ですね。ところで動いたり,階段を上った時に息切れがするとか,息が苦しいとか,体重が最近増えたなどはありますか?
- 患者 ないですね,体重は少し増えたかもしれません。
- GIM おしっこが減ったり,出なくなったりはしていませんか?
- 患者 それもないですね。
- GIM 便秘,脈が遅くなった,寒がりになった,元気がないなどの症状はありますか?
- 患者 ないですね。
- GIM 肩が痛いとか,腕の筋肉が痛いなどはありますか?または朝に手がこわばることはありますか?
- 患者 ないですね。原因は何でしょうかね?
いまのところ,心不全の可能性は低そうである。腎不全は完全に否定はできないが,あまりそれらしい症状はなさそうである。甲状腺機能低下症を疑う症状も乏しいが,コモンな疾患でもあり否定は難しい。RS3PE症候群は年齢が合わず,関節リウマチについては身体所見などで関節炎のチェックが必要だろう。ただ下腿の浮腫は関節リウマチとは合わないように思われる。全身状態もよいし,年齢的には好酸球性血管浮腫の可能性が高そうだ。
既往歴 バセドウ病。
処方薬 チアマゾール,フロセミド。
社会歴 一人暮らし,喫煙なし,機会飲酒。
身体所見 血圧140/81mmHg,脈拍69回/分,呼吸数16回/分,体温36.2℃,SpO2 96%(room air),意識清明。頭頸部:頸静脈の怒張なし,甲状腺腫大なし。胸部:心雑音なし,呼吸音異常なし。腹部:平坦,軟で圧痛なし,肝脾腫なし。四肢:筋の把握痛なし,手の腫脹と発赤あり(図1),両下腿に pitting edema あり。関節:手指関節は腫脹のため評価困難であるが,他の関節は異常なし。
頸静脈怒張はなく頻呼吸や低酸素血症もないことから,心不全はほぼ否定される。肝硬変は身体所見的にも疑わしい部分はない。腎不全は否定しにくいが血液検査の結果で判断できる。リウマチは関節炎の評価が難しかったが,下腿浮腫の説明がつきにくいし,可能性は低いと判断し,他の疾患で説明つかない時に再評価すればよいだろう。RS3PE症候群は年齢からほぼ否定できる。既往歴にバセドウ病があり,治療によっては甲状腺機能低下症をきたすかもしれないので,血液検査で評価しておきたい。好酸球性血管浮腫については血液検査をして好酸球をみる必要がある。

初期対応を進めるうえで必要な基礎知識
局所性ではなく,全身もしく両側性に浮腫をきたす疾患で比較的コモンなものを表1に示した。心不全,肝硬変,腎不全,ネフローゼ症候群についてはここで細かく述べないが,表1のような症状がある時に疑う。
ネフローゼはあくまでも症候群であり,まずは二次性の可能性について検討しておくことが必要である。特に糖尿病性腎症はその筆頭である。悪性腫瘍に伴う膜性腎症も有名である。
ネフローゼ症候群以外で低アルブミン血症をきたす疾患として,低栄養,吸収不良,膵外分泌機能不全,蛋白漏出性胃腸症などがあるので,知っておくとよいだろう。
甲状腺機能低下症は,浮腫をきたしている場合には non-pitting edema がポイントである。RS3PEは Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema の略であり,高齢,急性発症,四肢の圧痕性浮腫を伴う滑膜炎が特徴である。
好酸球性血管浮腫も,若年女性の発作性の四肢浮腫をみた時には必ず疑うが,これは好酸球をチェックすればよい。遺伝性血管浮腫は珍しい病気であるが,四肢浮腫をきたすこともあるので知っておくとよい。
表1 全身性 or 両側性の浮腫をきたす疾患
初動に続く対応 基本計画・応急対策
現状で残っている鑑別は,「好酸球性血管浮腫>(チアマゾールによる)甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,低アルブミン血症,心不全>関節リウマチ,遺伝性血管浮腫」といったところであろう。検査前確率,検査の簡便さなども考慮して甲状腺機能,アルブミン,好酸球,胸部単純X線写真はチェックする。関節リウマチはそれらの検査で原因がはっきりしなければ関節超音波などで評価してもよいかもしれない。遺伝性血管浮腫はエピソードが1回目であること,経過が長いことから,まずは疑わない。
血液検査
尿検査 尿蛋白(-)。
プロブレムリスト
#1 四肢の浮腫,#2 体重増加,#3 好酸球増加,#4 LDH上昇,#5 バセドウ病の既往(コントロールは良好)。
心不全はこれまでの病歴と身体所見に加えて,X線でも所見がないため否定される。肝硬変は血小板数が正常,アルブミンはやや低値だが肝炎の既往などもなく否定される。ネフローゼ症候群はAlb 3g/dL未満でないこと,尿蛋白陰性から否定される。他の低アルブミン血症をきたす疾患は,Alb 3.3g/dL程度ではそこまでの浮腫をきたすことは少ないこと,好酸球増多という優位な所見があることから否定してもよいだろう。腎不全もクレアチニン値から否定される。甲状腺もコントロール良好であり,浮腫の原因にはなりえない。
対応のまとめ
上記に加えて若年女性であることから,好酸球性血管浮腫と考えた。厳密には好酸球増多をきたす他の疾患も検討する必要はあるが,本症例は好酸球性血管浮腫として典型的な経過であり,ここでは割愛する(好酸球増多については,第2章の症例6を参考にしていただきたい ▶ 書籍『総合内科対策本部 これってどうする!?』 p279)。本症例は症状が強く,歩行などに影響が出ていたこと,発症から1か月ほど経過しており,早めの改善を希望されたことからプレドニゾロン20mgで治療を開始し,3週間程度で漸減して休薬したところ,その後再発は認めなかった。
最 終 診 断
好酸球性血管浮腫
類似症例に対応するためのステップアップ
好酸球性血管浮腫は好酸球増多と血管浮腫を特徴とする疾患で,Gleich症候群とも呼ばれる。
俗にいう好酸球性血管浮腫には,7~10日程度の血管浮腫を3~4週間程度で繰り返すepisodic angioedema with eosinophilia(EAE)と,一過性であり浮腫を繰り返さないnon-episodic angioedema with eosinophilia(NEAE)がある。EAEはepisodicという名が示すとおり発作を繰り返し,体重増加,四肢に加えて顔面の浮腫が好発し,IgM高値,男女差はなく,蕁麻疹や発熱を伴うこともある,比較的高用量のステロイドが必要になることが多い,などの特徴がある。NEAEは一過性で軽症なことが多く,浮腫が四肢に限局すること,IgM上昇がみられないこと,圧倒的に女性に多いこと,低用量ステロイドが著効することなどが特徴で,日本に多い1)。おそらく本症例もNEAEであったと思われる。
総合内科対策本部として次につながるtips
若年女性の四肢浮腫をみた時には,好酸球性血管浮腫を鑑別に挙げて好酸球数をチェックすることが重要である。また末梢血の白血球分画は意識されないことが多く,好酸球増多が見逃されていることも多い。これは好酸球数を意識するだけで改善するため,ぜひ今後は好酸球についても注意してほしい。
- 文献
- 1) 端本宇志:好酸球性血管性浮腫の診断と治療.MB Derma (333):57-64, 2023.
(吉見祐輔)
総合内科対策本部 これってどうする!?
総合内科って、大変だけど面白い。難症例も珍相談も、どんとこい!
<内容紹介>「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えます!
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