医学界新聞

対談・座談会 山下康行,吉川聡司

2024.10.08 医学界新聞(通常号):第3566号より

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 全身を読影する力は放射線科医のみならず,全身を診るジェネラリストにとっても求められるスキルです。本紙では「画像診断のジェネラリスト」の重要性を訴える放射線科医の山下氏と,放射線科専門医としてのスキルを生かして総合診療医として活躍する吉川氏の対談を企画。診療に生きる画像診断のノウハウを身に付けるため,研修医がローテーションで放射線科を選択した際に学びを最大化する方法と,期待される放射線科医とジェネラリストの連携の在り方を話し合いました。

山下 私は日頃から放射線科医は「画像診断のジェネラリスト」であることも大切だと考えています。本日は放射線科専門医の資格を持ちつつ,総合診療科で診療に従事する吉川先生と,全身を診ることをテーマに対談できるのを楽しみにしています。

吉川 お声がけいただきありがとうございます。総合診療医として勤務する以前の放射線科医時代から山下先生の著書で勉強していたのでお会いできて光栄です。

吉川 山下先生のような放射線科の教授を務められた方がジェネラルに読影することを重視していることに驚いています。

山下 放射線科医にスペシャリティがあるのはとても良いことだと思いますが,専門医を取得するまでは全身を分け隔てなく読影して基礎を固めるべきだと考えています。総合診療科と同じかもしれませんが,放射線科医が日常的に読影するのは全身的な病気をもつ患者が多いですからね。

吉川 おっしゃる通りです。大学病院で難しい疾患に対応するには,特定の臓器にフォーカスして読影する力が必要になりますが,市中病院であればジェネラルに読影できる能力が求められます。とりわけ市中病院でよく診る高齢者の症状は単一の臓器が原因であることはまずなく,複合的な要因によるものが多いのが実際です。

山下 全身を診るという点で放射線科医とジェネラリストには共通点があると思います。総合診療科の中で,放射線科出身の強みはどのように発揮されているのでしょうか。

吉川 患者から病歴を聞いたり,身体診察をしたりといった診断推論を行う過程に,画像診断を取り入れて,治療を行っています。ジェネラリストは画像診断の重要性を理解しているものの,読影に苦手意識を持つ方が多いのが現状だと思います。放射線科医としての読影スキルを生かした診療スタイルは私の強みだととらえています。

山下 私は放射線科医として,自らの読影が患者の治療に結びついた結果を見たいという気持ちがあります。吉川先生の「画像診断と患者を結ぶ」スタイルはとても羨ましく思います。

山下 いま,吉川先生より読影に苦手意識を持っているジェネラリストが多いとの話がありました。臓器に特化した診療科の医師は,専門とする臓器の画像を日ごろから多く目にするため,臨床経験を積む中である程度の読影力が身に付くでしょう。しかし,ジェネラリストは特定の臓器を専門としないため,意識的に画像に触れる機会を作らなければ,毎日の診療だけで読影力を身に付けるのはなかなか難しいかもしれません。

吉川 まさにそうです。ジェネラリストは「今日は肺を診たけど,明日は脳かもしれない」といったように,全身を広く診る能力に長けている反面,悪い言い方をすれば深く掘り下げて学ぶ機会はなかなか得られません。特定の臓器に偏らないからこそ,意識的に数多くの知識と経験を積まなければならないのかもしれません。

山下 ジェネラリストならではの大変さですね。画像診断の基本的スキルを身に付け,理解するには,本を読んで勉強するだけでは十分ではありません。自分で読影した後に,専門医や上級医からフィードバックを受けることで次第に身に付いていくと考えています。私は以前から研修医も放射線科で一定期間,集中的に読影を学ぶのが良いと考えていました。

吉川 当院の救急・総合診療科では,5人ほどの後輩が大学病院の放射線科へ研修に行きました。そのうち何人かはジェネラリストとして戻り,経験を生かしています。放射線科にしてみれば腰掛けで医局に来てもらっては困ると思われるかもしれませんが,最終的に患者のためになるのであれば,数年間でも放射線科に籍を置かせてもらえると良いかもしれません。どのくらい在籍すれば良いのかという期間を一概には言えませんが,数か月だけでは画像診断を理解するのは難しいと思っています。

山下 とは言え,吉川先生のように放射線科を経て,総合診療科に進むキャリアの方はそういませんし,なかなかまねることができません。読影力を身につけるという点では,2,3か月の研修期間で十分とは言えませんが,初期研修で放射線科を経験するのとしないのでは随分と違うはずです。

吉川 そうですね。私は医師としての基礎を築く上で放射線科へのローテートは必須にしてほしいと考えています。最近は研修医の先生も画像診断の知識の重要性を理解して,初期研修で放射線科を選択する方が増えているように思います。

山下 初期研修で放射線科を選択した際,短い期間で学びを最大化するためのヒントはありますか。

吉川 自分事として読影に取り組むことが大切なのではないでしょうか。「放射線科に進むわけではないから」「主治医ではないから」と他人事として取り組むのとでは得られるものが全く違います。研修医には「自分の患者で,自分が何とかしなくてはならない」という意識で画像診断に取り組んでもらいたいですね。自分が書いた所見は上級医・指導医の先生が直してくれるからというスタンスで取り組んでしまうと,伸びるものも伸びないと思います。

 学ぶ期間が短いからこそ自分事として取り組んだ人と,そうでない人の差はかなり開きます。初期研修を終えて専攻医になったら,救急当直の際に画像診断をオーダーすることが求められる機会が来るかもしれませんからね。そうしたところまで想像して意識的に取り組んでもらいたいです。

山下 全く同感です。研修医の皆さんは1つの症例を読影するだけでも時間がかかるでしょうし,量も限ら...

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くまもと県北病院 理事長

1981年鹿児島大医学部卒業後,熊本大医学部放射線科入局。89年同大病院放射線科,米テキサス大MDアンダーソンがんセンター,90年熊本大病院放射線科講師を経て,2001年同大医学部放射線医学講座教授に就任する。03年同大大学院生命科学研究部放射線診断学分野教授,19年より現職。医学生や若手医師への教育に関心が高く,教育を重視したカンファレンスなども開いてきた。著書に『肝胆膵画像診断の鉄則』『レジデントのための画像診断の鉄則』『医学生・研修医のための画像診断リファレンス』(いずれも医学書院)ほか多数。

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洛和会丸太町病院救急・総合診療科副部長

2007年阪大医学部卒。国立病院機構大阪医療センター放射線科兼総合診療科医員等を経て,21年より現職。16~18年に南米,アフリカを中心に世界を回る。チリではビール工場で作業員として勤務,ウガンダではマラリアの診療に従事した。複数の臓器がつながり合って機能する人体の仕組みに関心を持ち,全身の臓器を診ることのできる放射線科に進んだ後,総合診療科のカンファレンスに誘われたことをきっかけに総合診療の道へ進んだ。著書に『ジェネラリストと学ぶ総合画像診断――臨床に生かす! 画像の読み方・考え方』(医学書院)。

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