医学界新聞

書評

2024.03.25 週刊医学界新聞(看護号):第3559号より

《評者》 愛知県立総合看護専門学校学校長

 著者たちの前著『看護教育のためのパフォーマンス評価』は,現代の教育改革の土台になっている「逆向き設計」の考え方を導入し,その実践の過程を紹介することで,伝統的な看護教育の在り方に警鐘を鳴らすものとなった。私含め,多数の読者に支持されるロングセラーとなっている。あれから7年。それまで想像もしなかった世界規模での新興感染症のまん延が起こり,看護師の社会的評価が高まるとともに,この時代は常に予測不可能で,危機は背中合わせにあることが実感できた。

 看護基礎教育が,そんな変化の激しい世の中に立ち向かえる看護師を養成できているのか――。飽くなき自問を続ける著者の糸賀暢子自身が日々の教育現場の中で,目に見える世界と,こころでしか見えない世界に真摯しんしに向き合ってきた履歴が,再び一冊の本にまとめられて世に出た。

 出版の意図について,「看護の本質を貫く教育のための点検・評価・改善を実現したいと願う読者のための本」だと,著者は述べている(本書p.ⅲ)。前著に刺激されつつ,新カリキュラム構築の際も思い切った改革にまでは踏み切れないまま,本当にこれで良いのかと自問していた私にとって,本書はおいしい料理ならぬ,素晴らしい看護師の育て方のヒントを与えてくれる,そんな素敵なレシピ本であった。私たち看護教員にとっての「あるある」が詰まった57の具材(エピソード)から,まさに自らの教育実践のありようが連想させられたからだ。

 本書は,どの章から読んでも,学生のリアルな泣き笑いの姿を通して,読者それぞれの実践の振り返りが促され,改善の方向性を示してくれる。各章末に設けられている紙上ワークに向き合うことでも,固くなった自身の思考がほぐれていくことが実感された。そして,驚くべきことにその一つひとつの学びは,カリキュラム・マネジメントの視点でしっかりとつながっている。そこに見えてくるのは,「看護とは何か?」「私たちは本当に看護を教えているのか?」という真正の問いである。そもそも看護を教えるためには,そこにある最善を尽くす看護を教師自身が深く理解しなければ教育内容は見えてこないし,ルーブリックも作成できない。

 なぜ著者は,こう惜しげもなく学生との奮闘記を示してくれるのか。それは「看護が大好き」な看護師を全国で広く育てたい,という熱い想いからに他ならない。「うちの学校ではこうした取り組みは無理だ,忙しくてとても……」と言っているその時間がもったいない。本書を手にし,「それでも,やっている教師がいる。学校がある」ということを実感してほしい。まずはどのページからでも,読者がいま困っている項目からでも読み,これまで漫然と行ってきたかもしれない己の教育を看破する光を見つけてみてはどうだろうか。

 「recipe」の語源は,ラテン語で「受け取るもの」という意味がある。私自身も著者たちの看護教育に向き合ってきたその真髄を,本書を通してしっかりと受け取りたい。そして,自分自身を「看破」し,学生の成長を心から願えるような教師でありたい。

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