医学界新聞


看護の仕事のコアを体得し,楽しく働ける看護師になってもらうために

対談・座談会 末永由理,谷口陽子

2024.03.25 週刊医学界新聞(看護号):第3559号より

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 新人看護師育成に関して,現場の管理者,先輩看護師,プリセプターといった立場の方たちの悩みは尽きないものです。COVID-19感染拡大の影響が実習や研修,臨床での日々の教育にまで及んだことにより,新たな困り事も生まれているかもしれません。本紙では,大学で基礎教育に携わりながら看護師の継続教育について研究を続ける末永由理氏,大学病院で副看護部長として教育に当たり,書籍『ナースポケットマニュアル 第2版』(医学書院)で編集協力も務める谷口陽子氏による対談を企画。新人教育を行う中で感じていることやもやもやについてお話しいただきました。

谷口 私は新卒で北里大学病院看護部に入職して以来,長らく同院で臨床看護師として勤務してきました。文科省の補助金事業に当院が採択された際,高度実践者の育成プログラム担当になったことをきっかけに院内の教育に携わるようになり10年以上が経過しています。本日は新人看護師育成について,基礎教育での話題も交えながらお話しできれば幸いです。

末永 基礎教育に携わるようになって30年近くになります。自身に必要なことを認識し,その習得のために自律して行動し学び続ける看護師となるための基盤は,基礎教育と新人時代の学びで形作られるのではと考えています。臨床で教育に当たる中での実感をたくさん伺いたいです。

谷口 新人看護師育成について話をするに当たって,末永先生が研究テーマの一つにされている社会化に引き寄せながら考えていきたいです。まずは,社会化とはどのようなものか説明していただいてもよいでしょうか。

末永 社会化とは,人が新しい集団・社会に入っていく際に,その社会の中でふさわしいとされる振る舞いを身に付けるプロセスのことです。このプロセスは「職業社会化」と「組織社会化」に分けられ,前者は職業技能的側面での社会化を指します。看護師の場合は専門職として求められる知識や技術といったものを身に付けて,看護師としてのアイデンティティを確立していく。名実ともに看護師になっていくプロセスと言うとイメージしやすいでしょうか。

谷口 看護師は職務に当たる前提として国家資格を有しているわけですが,資格だけではなく,実質的な業務面においても看護師になっていくということですね。

末永 そうです。一方の組織社会化は,病院や配属された部署において,所属する組織の一員として求められる適切な振る舞いを獲得する過程を指します。組織の中で自身はどういった役割を担っていくのかを理解し,そのために必要な知識や技術を身に付けていくのです。組織が大切にしている価値観を理解したり身に付けたりすることで,場になじんでいくことも含まれます。組織の中に自身の居場所を見つけることだととらえると,わかりやすいかもしれません。

谷口 新人看護師には,職業社会化と組織社会化の両方が求められると考えてよいのでしょうか。

末永 はい。両者は重なる部分も多く,2つの社会化は互いに影響し合って進んでいくのが一般的です。そうした社会化がうまくいかないと,離職につながり得ます。これまで看護の研究分野では,新人看護師の職場適応をテーマにさまざまな研究が行われ,臨床現場での支援もなされてきました。そこで扱われる職場適応の中には,社会化における課題も多分に含まれるものと考え,私自身研究に取り組んできた次第です。

末永 近年の新人看護師の社会化に関してお尋ねしたいことがあります。COVID-19感染拡大による日常生活上の制限は現在ではほとんど緩和され,学生たちの看護実習もほぼ通常通りに行われていますが,感染拡大前後で,入職者の職場適応における違いは何か見られるのでしょうか。

 というのも,2021年度の病院における新卒採用者の離職率は10.3%で,2005年の調査開始以来初めて10%を超えました1)。2021年度の新卒採用者は,看護基礎教育での最終学年時に臨地実習が大幅に制限された世代です。ですから,離職率の上昇にコロナ禍による制限がかかわっているのではないかと考えたのですが。

谷口 当院では入職者の社会化が難しくなる可能性を考慮して,あれこれと支援策を講じました。しかし,蓋を開けてみると職場適応に関しては大きな変化を感じるほどのことはなかったというのが実情です。

末永 実は私たちの行った調査2)でも,似たような結果が出ました。研修責任者に対する調査の中で,2021年4月に入職した新人看護師の入職後早期(4~6月頃)を対象に,「チームになじむ」「理解できていない点をそのままにせず確認する」など実習経験が少ないことが関与しそうな働く場での振る舞いについて,「例年よりできていた」「例年とそれほど変わらなかった」「例年と比べできていなかった」の3択で回答を求めたのです。結果,「例年と比べできていなかった」の回答が2~3割あったものの,5~6割は「例年とそれほど変わらなかった」とのことでした。2021年度の新人看護師の多くは職場での支援を受けて必要な知識や技術,態度を身に付けたものと思われましたが,一方で離職率は前述の通り上昇しています。

谷口 離職率に関して言うと,当院では新人看護師の離職率が2%を切っているのが長年の自慢でした。それがコロナ禍の少し前から徐々に上昇し始めて,ここ2年ほどで8%にまで至りました。その原因には大学病院離れなどさまざまなファクターが関係していると考えています。1年以内に離職した新人看護師と一口に言っても,その退職理由は多様です。過去の経験では,年度末に辞める新人は次の仕事でも看護師として働くという方が多く,年度途中で辞める新人は自身のやりたいことと看護のズレを感じて違う職種に……という傾向があったように思います。気に掛かっているのは,最近の離職者は退職後の見通しがないパターンが多いことです。「とりあえず辞めてから考えます」という方が圧倒的に多くなりました。また,問題なく働いていた新人看護師が突然出勤できなくなり休職に入るパターンも多く,その理由が見えにくいです。こちらはコロナ禍でソーシャルサポートが手薄になったことも関係している気はしています。いずれにしても,以前に比べて新人看護師の休職・退職理由が見えなくなってきている印象です。

末永 社会化は組織になじんでいくプロセスですから,それがうまくいかなくて離職に至るまでに周囲の人はさまざまな支援をしたはずです。手を尽くした上で辞めることになった場合,組織に残る側も「残念だけれど仕方がない」と納得できるのではないかと思います。しかし,突然の休職からの離職や理由がよくわからないままの離職だと,送り出す側としても少しもやもやしてしまいますね。

谷口 新人看護師同士の横のつながりに関しては,コロナ禍の影響が確かにあったように思います。以前ですと,先輩看護師の言動や,業務上のちょっとしたことを寮で過ごす際,業務後の食事の折などに話すことで,新人看護師間での情報交換が活発に行われていました。時には夜勤や特定の手技を先に経験させてもらえた同期に対してライバル意識を燃やす新人看護師もいましたが,何にせよ横のつながりはあったわけです。それが,寮では他人の部屋に行くことができず,もちろん一緒に外食することもままならないコロナ禍を経た新人看護師たちの間では,ライバル関係はおろか互いへの関心すら薄いという状況があるように感じられます。「これはまずい」と危機感を抱いています。

末永 新人看護師が看護実践能力を獲得する際に助けとなった要素について,本人たちの視点からすると精神的な支援は同期からが一番大きかったという調査3)もあります。当学の卒業生や研究でインタビューさせていただいた新人看護師からは,上司や先輩からもたくさん支援を受けていたけれど,同期がいたから頑張れたとの声をよく聞きました。そうした部分にも変化があったのかもしれませんね。

谷口 新人看護師たちのオフィシャルでない部分での人とのつながりがどうなっているのか,つながりをどう考えているのか,気になるところです。余談ですが,若い世代では,人材派遣会社のアプリケーションをスマートフォンに入れた状態にしている方も少なくないようです。入職して数か月が経った頃の一人立ちして不安な時期に,アプリケーションから通知が来て転職情報を示されると,心が動いてしまいますよね。そうした状況が半年ほどで新人看護師が辞めていく要因の一つに挙げられると思います。

末永 確かに,そのくらいの時期がつらいのはわかります。ただ,そこを乗り越えるとぐっと楽になったり,仕事が面白くなってきたりもするのですよね。私が当学卒業生の話を聞いていてキーと感じるのは夜勤の時間の使い方です。日勤に比べれば多少業務密度に余裕があることが多いですから,そこで先輩看護師といろいろな話,それこそ業務外の事柄も含めて話すことで,周囲で働く人たちの人となりを知り,同時に自分のことも知ってもらう良い機会になっているようです。そうして築いた関係性をベースに職場で自分を出せるようになると,かなり過ごしやすくなります。組織社会化がぐんと進むわけです。

谷口 最初の1年を乗り越えた新人看護師は,そうした組織社会化に成功しているイメージがあります。人間関係のベースができていると,何かマイナスの出来事があってももう少し頑張ってみようかなと思えるものですし,仮に休職になったとしても復帰もしやすいです。組織になじむプロセスがうまくいかずどんどんマイナスの方向にいくというのではなく,つらいのでいったん休んだけれども,回復したら以前と同じ病棟にさらりと復帰する方もいて,そういうケースはあまり問題の根が深くない印象があります。

末永 セルフコントロールできていると言えばできていますからね。本当に追い詰められる前にまずいと判断して休職を選択し,その後に復帰できるのであれば。休職すなわち退職ではなく復帰の可能性があるのなら,その過程をどう支援していくかを考えて準備するといったところでしょうか。

谷口 そうですね。個別的な対応が求められていると感じます。うまく傾向を察知しながら,その人にあったサポートができると良いのですが。

谷口 最近は,自身が看護師として働いていくイメージを抱けていない新人看護師が増えているのではとの印象も抱いています。具体的に言えば,看護の仕事がどういうものなのかについての理解が浅いといった意味合いです。患者さんに対して影響を与える仕事なのだということへの意識が薄い,とも言えましょうか。学校で学び,実習に出て,臨床で働くようになって……と,言われるがままに流れに乗ってたくさんの業務をこなしているけれど,患者さんとの関係性の中で自身のかかわりが良くも悪くも影響をもたらしていることを理解するまでに時間がかかる印象です。同期の誰かが先輩から怒られて大変そうで,自分も同じように怒られるかもしれないという不安を大きくするなど,関心が自分や先輩に向いてしまっていることもあります。

末永 先輩のほうを見て仕事をしているというのは,よく聞く話ですね。一番大切にしてほしいのは患者さんとのかかわりなのだということがなかなか伝わらない。組織社会化が過剰と言えるのかもしれません。自分の居場所を獲得するために,先輩に認められる,怒られないようにする,早く効率良く業務をこなすといった方向に意識が向いてしまっているのかなと。

谷口 そう思います。2年目になった看護師たちが,患者さんのことを考えていない,アセスメントができないといった話はよく聞きます。1年目にはあった手取り足取りのサポートがなくなった際に,患者さんへの意識が薄いことが際立つのでしょう。職業社会化の次の看護へのコミットメントを,研修等を通して育まなければと考えています。

末永 基礎教育から地続きの問題なのかもしれません。うまくいかなかった体験でもいいから,実習の中で強く印象に残っている出来事を聞かせてほしいと学生に伝えても,なかなか話が出てこないんですね。目の前の患者さんとのかかわりにあまり没入できていないのかなと。

谷口 わかります。先輩看護師が何を考えてその行動を取るに至っているのかを伝えることから始める必要を感じます。

末永 他人の頭の中は見えないので,伝えるに当たっては優れた先輩のアセスメントの視点を言語化しなければなりません。当学ではシャドーイングのような実習を行っており,体験した同じ場面について先輩看護師が何を考えどう行動したのかを学生に伝えることで,見えているものの違いや,その境地に至るには知識,技術,経験が必要になることなどを実感を伴って学んでもらっています。そうした経験を通じて,役割を引き受けて責任を持って業務に当たるというプロフェッショナリズムが育まれていくのではないでしょうか。

谷口 座学だけでは学ぶことの難しい部分ですから,そうした実習は効果的でしょうね。自身が看護師としてなすべき仕事,責任の範疇などを知る良い機会になると思います。新人教育の中でも,リフレクション研修を含めてしっかり伝えていかなければと再確認できました。

末永 リフレクション,振り返りを自分だけで行うことは,特に経験の浅い新人には難しいです。先輩看護師やプリセプター,時には師長レベルの方が,新人の行っていることを意味付けしてその価値を伝えていくことで,自分はここにいてもいい,看護師として少しずつだけど成長しているといった自信につながっていくのだと思います。

谷口 入職はゴールではなく,長い看護師人生の始まりに過ぎません。入職したばかりの頃の職業社会化,組織社会化をサポートしつつ,看護師として大切なことを見つけてもらって,臨床で働く面白さを見いだしてもらう。そして最終的にはその後の継続的な学習につながるような新人教育ができればと改めて思った次第です。

末永 プロフェッショナリズムの涵養が大切なのだろうと私は考えます。自律して学び続けることの根幹に,専門職としての責任をいかに引き受け,果たしていくのかというプロフェッショナリズムがあることが必須だからです。それを基礎教育においてどう育んでいくのか,臨床に人材を輩出する立場として考え続けたいと思っています。

(了)


1)日本看護協会編.2022年病院看護・助産実態調査報告書.2023.
2)厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働行政推進調査事業)新型コロナウイルス感染症流行下における新人看護職員研修の実態調査(研究代表者:末永由理).2021.
3)山口大輔,他.大学附属病院における新人看護師の看護実践能力と他者支援との関連.日看研会誌.2016;39(2):43-52.

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東京医療保健大学医療保健学部 看護学科 教授

1991年千葉大看護学部を卒業。東京医療保健大医療保健学部講師,准教授等を経て,2018年より現職。また,16年には埼玉大大学院経済科学研究科を修了する。博士(経済学)。「看護師の継続教育」をテーマに研究を続ける。編著書に『臨床事例で学ぶコミュニケーションエラーの“心理学的"対処法――看護師・医療従事者のだれもが陥るワナを解く』(メディカ出版)など。

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北里大学病院看護部 副看護部長 / 看護研修・教育センター長

1988年神戸大医療技術短大卒。同年北里大病院看護部に入職後,2004年同大病院看護部師長を経て,17年より現職。北里大看護学部臨床教授を兼任。17年慈恵医大大学院修士課程看護管理分野を修了。北里大病院看護部が編集する『ナースポケットマニュアル 第2版』(医学書院)では,編集協力として内容の取りまとめに尽力した。

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