医学界新聞

取材記事

2024.01.29 週刊医学界新聞(通常号):第3551号より

3551_0401.jpg
写真 松枝克典氏

 2022年『胃と腸』賞の授賞式が2023年9月20日に開催された。本賞は『胃と腸』誌に掲載された論文から,年間で最も優れた論文に贈られるもの。授賞式は,ウェビナー形式の早期胃癌研究会にて行われた。

 今回,対象論文145本の中から,松枝克典氏(岡山大学病院,論文執筆時:大阪国際がんセンター)らによる「胃神経内分泌腫瘍(NET)・神経内分泌細胞癌(NEC)の内視鏡診断」[胃と腸.2022;57(7):900-11.]が受賞した。松枝氏には賞状と盾が授与され,授賞式当日は『胃と腸』編集委員長の松本主之氏(岩手医大)から選考経過の説明とお祝いの言葉が述べられた。

◆胃神経内分泌腫瘍と神経内分泌細胞癌の臨床病理学的特徴を比較検討

 胃の神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)は一般的に低悪性度の経過をたどる予後が良い腫瘍である一方,神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)は早期より転移を来す予後不良の高悪性度癌である。胃においてNECとNETは全く異なる性質の腫瘍であるため,悪性度が高いNECは,NETまたは一般型胃癌とも厳密に区別しなければならず,内視鏡所見に基づく鑑別診断と,適切な部位から採取した生検組織に免疫組織化学染色を積極的に行うことが求められている。

 今回の松枝氏の論文は,2005~21年までに大阪国際がんセンターにて胃病変に対して生検,内視鏡的切除あるいは外科手術を施行した症例の中から,病理組織学的にNETまたはNECと診断された37例を対象に,内視鏡像における臨床病理学的特徴を検討したもの。結果,NECは進行癌が多く,肉眼型分類では大部分が2型であった。表在型の場合も陥凹性病変や潰瘍を伴う割合が高く,病変辺縁部に粘膜下腫瘍様の立ち上がりを伴う症例が多かった。また,NBI(Narrow Band Imaging)拡大観察では不規則な微小血管構築像や,微小血管がみられないことが特徴的な所見であった。特に,不規則な微小血管構築像においては蛇行が乏しく,ネットワークを形成しない不整血管が1本1本ちぎれたようにまばらに存在している所見であった。このことから,内視鏡所見からNECを疑う場合は,NBI拡大観察を併用することにより適切な部位からの生検組織の採取が可能となり,治療前の確定診断に近づく可能性が示唆された。

 松枝氏は受賞のあいさつで,本論文の先行研究者である中平博子氏(星ヶ丘医療センター),内視鏡画像診断の指導を受けた上堂文也氏(大阪国際がんセンター)らに感謝を述べ,喜びを語った。

 

*授賞式の模様は『胃と腸』誌(第59巻2号)にも掲載されます。


開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook