医学界新聞プラス
[第3回]CarerQol
『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』より
連載 白岩健,能登真一
2023.11.10
臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル
QOLを医療・福祉分野のアウトカムとして活用するという機運が高まる現代において,QOL尺度の基礎知識と実際の使い方を押さえておくことは必須となりつつあります。
『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』は,押さえるべき46の尺度を取り上げ,それぞれの特徴から質問票やスコアの算出方法,エビデンスベースドの活用法まで分かりやすくまとめた,まさにQOL評価のバイブルとなる一冊と言えます。
医学界新聞プラスでは本書のうち,「評価尺度の測定特性 1.信頼性」「HUI(Health Utilities Index)」「CarerQol」をピックアップし,3回に分けて紹介します。
≫ | CarerQolは介護者の健康関連QOLを評価するために開発された特異的尺度である. |
≫ | 7つの領域をそれぞれ3レベルで回答するインデックス型尺度で,スコアは0~100の効用値スコアとして示される. |
≫ | CarerQol—VASを用いて,幸福度を10点満点で測定できる機能も備えている. |
1 尺度の特徴
CarerQolは,インフォーマルケア※を提供している介護者の健康関連QOL(HRQOL)を評価するために開発された尺度である.他者を介護することによる健康面への影響を記述した主観的尺度(CarerQol—7D)と,幸福度の観点からみたインフォーマルケアの評価(CarerQol—VAS)で構成されている1).
CarerQol—7Dは満足感,人間関係,心の健康,日常生活,経済的問題,支援,身体の健康の7つの領域によって構成されている.スコアは国別のスコアリングアルゴリズムにより,各領域のレベルごとの係数を加算して0~100の効用値スコアで示される.
この尺度は,薬剤をはじめとした医療技術の経済評価において見過ごされがちなインフォーマルケアの影響を評価に含めるために開発された.そのため,そのスコアは介護者のHRQOLを評価するだけではなく,効用値として費用対効果分析に用いることができる.つまり,新たな医療技術により,患者だけではなく,その家族などインフォーマルな介護者のQOLを向上させることができるなら,それは社会的立場からみても効果のあることであるという主張に基づく.これは小児の難病や,認知症など加齢による進行性の疾患の場合が該当するとされている2,3).
※インフォーマルケア:介護保険などの公的な制度で提供される介護や支援ではなく,主に家族や親族などによって提供される介護や支援のこと.NPO法人やボランティアなどによる支援もこれに含まれる.
2 開発者と開発時期
オランダ・エラスムス大学ロッテルダム校の医療政策・管理学部(Erasmus School of Health Policy & Management;ESHPM)と医療技術評価研究所(Institute for Medical Technology Assessment;iMTA)によるiMTA Valuation of Informal Care Questionnaire(iVICQ)と呼ばれるインフォーマルケアの内容と介護者への影響を調査する質問票の一部として開発された1—3).
オランダで25年以上にわたり,医療経済学を中心とした研究活動を行っている大学の研究機関.これまでの主な貢献として,費用対効果アクセプタビリティ曲線や意思決定分析モデリング手法の開発などがあげられ,介護者をはじめとした「社会的視点」に関する議論も積極的に発信している.EQ本部の地元でもあり,その開発にもかかわってきている.
3 日本語版の開発
CarerQolは2023年現在,11か国語に翻訳されており,それぞれiMTAのCarerQolのホームページ上で公開されている(https://www.imta.nl/questionnaires/carerqol/instruments/).筆者(白岩)が携わった日本語版もこのホームページからダウンロードすることが可能である.
4 版権と使用にあたっての注意点
CarerQolの版権はiMTAが管理しているが,開発者の事前の許可なく使用することができる.使用にあたっては,研究者の責任において実施され,いかなる出版物においても以下の文献を引用することが求められている.
Brouwer WB, et al:The CarerQol instrument:a new instrument to measure care—related quality of life of informal caregivers for use in economic evaluations. Qual Life Res 15:1005—1021, 2006
5 下位尺度と項目(設問)数
前述のとおり,満足感,人間関係,心の健康,日常生活,経済的問題,支援,身体の健康の7つの領域によって構成されている.設問はそれぞれ代表する1問である.
CarerQol—VASは0を「まったく幸せでない」,10を「完全に幸せである」とした,ものさし(Visual Analogue Scale;VAS)上で幸福度をたずねる.
6 質問票
7 スコアの算出方法と解釈
CarerQolのスコアは効用値として,離散選択実験(discrete choice experiment;DCE)を用いて開発されたスコアリングアルゴリズムによって算出される4).効用値は通常,0~1の間で示されるが,CarerQolの効用値は100をもっとも高いQOLとした0~100の間で,7つの領域のレベルごとに決められた係数を合計して求める.開発元であるオランダのタリフは表1のとおりであるが,満足感と支援の2領域は肯定的な設問,他の5領域は否定的な設問となっていることに注意が必要である.
たとえば,いくらかの満足感があり,人間関係に大きな問題があり,心の健康には問題がなく,日常生活にいくらかの問題があり,経済的問題はなく,多くの支援が得られ,身体の健康にも問題がない場合には,以下のように計算される.
CarerQolスコア:13.6+0+13.3+6.4+14.3+6.5+15.1+6.6=75.8
オランダのほか,オーストラリア,ドイツ,スウェーデン,英国,米国のタリフは開発され,それらに大きな差がないことが確認されている5).わが国のタリフはまだ開発されていない.
8 測定特性
開発の過程で信頼性と妥当性の検証が行われ,その結果が報告されている.再テスト法によるCarerQol—7Dの信頼性は各領域の級内相関係数が0.55(心の健康)~0.94(経済的問題),CarerQol—VASの級内相関係数も0.86と報告されている6).
妥当性に関しては,インフォーマルケアの負担度を調べる指標であるSelf—Rated Burden(SRB)とAssessment Scale of the Informal care giving Situation(ASIS)との収束的妥当性を調べ,CarerQol—7Dの経済的問題と支援の領域を除いた5領域で有意な相関関係が得られている7).また,認知症,脳卒中,精神疾患,関節リウマチ患者の介護者を対象に他のQOL尺度であるASCOT—Carer,EQ—5D—5Lとの同時測定で基準関連妥当性を調べ,それぞれの相関は0.71,0.51であったと報告されている8).
9 エビデンス
オランダでCOVID—19のパンデミックによる介護者への影響を調べた研究9)では,図1に示したCarerQolのスコアが3か月後には平均してわずかに増加したものの,女性や低所得者,育児をしている人,介護期間が長い人などでは逆に低下していたという.
また,乳がん患者の介護者(81.4%が夫)を対象に調べた研究10)では,CarerQolスコアの中央値は92.4,CarerQol—VASの中央値は8.0となり,介護者のEQ—5D—5Lのスコアと患者のEORTC QLQ C—30のスコアとの相関は非常に弱いものであったと報告されている.
さらに,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)児の介護者を対象にQOLを調べた研究11)では,育児ストレスの大きさとCarerQolのスコアに関連が認められたと報告されているほか,Dravet症候群※と診断された患児の介護者の多く(90%)は介護自体には満足していたが,75%は介護を日常生活と組み合わせることが難しく,68.8%が精神的な健康問題を,61.2%が身体的な問題を報告したとされている12).
※Dravet症候群:それまで健康であった乳児が全身あるいは半身のけいれん発作を起こす病気.多くの場合は1歳ごろまでに発症し,その後も何度もけいれん発作を繰り返す.そのため,精神運動発達遅滞や運動機能の障害を呈すことが多い.日本全国での患者数は約3,000人とされている.
- 文献
- 1)Brouwer WB, et al:The CarerQol instrument:a new instrument to measure care—related quality of life of informal caregivers for use in economic evaluations. Qual Life Res 15:1005—1021, 2006
- 2)Hoefman RJ, et al:Sustained informal care:the feasibility, construct validity and test—retest reliability of the CarerQol—instrument to measure the impact of informal care in long—term care. Aging Ment Health 15:1018—1027, 2011
- 3)Hoefman RJ, et al:A new test of the construct validity of the CarerQol instrument:measuring the impact of informal care giving. Qual Life Res 20:875—887, 2011
- 4)Hoefman RJ, et al:A discrete choice experiment to obtain a tariff for valuing informal care situations measured with the CarerQol instrument. Med Decis Making 34:84—96, 2014
- 5)Hoefman RJ, et al:Quality of Life of Caregivers for Use in Economic Evaluations:CarerQol Tariffs for Australia, Germany, Sweden, UK, and US. PharmacoEconomics 31:1—10, 2016
- 6)Voormolen DC, et al:A validation study of the CarerQol instrument in informal caregivers of people with dementia from eight European countries. Qual Life Res 30:577—588, 2021
- 7)Hoefman RJ, et al:Sustained informal care:the feasibility, construct validity and test—retest reliability of the CarerQol—instrument to measure the impact of informal care in long—term care. Aging Ment Health 15:1018—1027, 2011
- 8)McLoughlin C, et al:Validity and Responsiveness of Preference—Based Quality—of—Life Measures in Informal Carers:A Comparison of 5 Measures Across 4 Conditions. Value Health 23:782—790, 2020
- 9)Gräler L, et al:Informal care in times of a public health crisis:Objective burden, subjective burden and quality of life of caregivers in the Netherlands during the COVID—19 pandemic. Health Soc Care Community 30:e5515—e5526, 2022
- 10)Clarijs ME, et al:Quality of life of caregivers of breast cancer patients:a cross—sectional evaluation. Health Qual Life Outcomes 20:29, 2022
- 11)Ten Hoopen LW, et al:Caring for Children with an Autism Spectrum Disorder:Factors Associating with Health— and Care—Related Quality of Life of the Caregivers. J Autism Dev Disord 52:4665—4678, 2022
- 12)Gil—Nagel A, et al:Patient profile, management, and quality of life associated with Dravet syndrome:a cross—sectional, multicentre study of 80 patients in Spain. Sci Rep 13:3355, 2023
臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル
現代の医療・福祉分野のニーズに応えられる46のQOL尺度を徹底紹介
<内容紹介>QOLを医療や福祉分野のアウトカムとして活用しようとする流れが加速している昨今、医療者はQOL尺度の基礎知識と実際の使い方を把握しておく必要があるといえる。本書は、現代の医療・福祉分野でおさえるべき46の尺度をピックアップ。各々の特徴を述べるとともに、尺度を使用する際に必要となる開発者、質問票、版権や採点方法、さらにはエビデンスベースの活用方法をまとめている。QOL評価の新たなバイブルとなる1冊。
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