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『PT・OT・STポケットマニュアル』より

連載 大森智裕,角田亘

2023.04.28

「この方法で大丈夫だろうか?」「患者さんにどう説明すればいいのかな?」と不安を抱きやすいキャリアの浅い理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の方々にとって,羅針盤となるような書籍『PT・OT・STポケットマニュアル』が刊行されました。この1冊をポケットに忍ばせておけば,自信を持って対応できること間違いなしです!

今回,医学界新聞プラスでは本書の内容から4項目を抜粋し,紹介をしていきます。

急性期リハビリテーションの基本を理解しよう

▼Focus Point

  •  ●急性期はリスクマネジメントに十分気をつけよう
  •  ●早期介入により,合併症や廃用症候群を防ごう
  •  ●急性期リハビリテーションは,回復期以降のリハビリテーションの成否を左右する
  •  ●急性期であっても自宅退院後の生活像を描き,退院支援へのかかわりを心がけよう

1 急性期リハビリテーションのキホン

  •  ・昨今,病院の機能分化が進み,急性期病院は在院日数の短縮や病床回転率の向上が求められる.
  •  ・リハビリテーション職は,発症後早期に介入し予後予測を行い,転帰先を見極める目が必要である.
  •  ・そのため,リスクマネジメントは必須であるとともに,退院後の生活像を描く思考過程がカギとなる.

2 急性期リハビリテーションの実際

1.急性期におけるリスクマネジメント

  •  ・近年の急性期リハビリテーションは,可能な限り早期に介入する流れとなっている.
  •  ・全身状態が不安定で病状が進行性や再発性である場合,医学的管理上,安静臥床指示の場合も多い.
  •  ・一方,過度な長期臥床により,深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎,褥瘡などの合併症が発生し,身体機能・生活機能はさらに悪化するおそれもある.
  •  ・合併症を予防し機能回復を促進するために,24〜48時間以内に病態に合わせたリハビリテーション計画を立てることが勧められる.
  •  ・リスクマネジメントが適切に行われないままリハビリテーションを行った場合,全身状態の悪化や新たな合併症の発生に繋がりかねない.
  •  ・急性期病院は一人の患者に多くの専門職種がかかわっている.各職種の専門性を共有し連携を図ることにより,適切なリスクマネジメントを行うことができる(ここも参照➡『PT・OT・STポケットマニュアル』Ⅱ章6:44頁,Ⅱ章7:49頁).
     

2.Intensive Care Unit(ICU)のリハビリテーション

  •  ・ICUには呼吸・循環・代謝など様々な機能の低下が重篤であり,集中的な全身管理・治療が必要となる患者が入室する.
  •  ・安静を優先されることによる様々な弊害が生じることがあり,近年はICU acquired weakness(ICU-AW)という概念が注目されている(表1).
  •  ・ICU-AWはICU入室患者に起きる神経筋障害のことを指す.
  •  ・ICUの重症患者の約半数にICU-AWが起きるとされている.
  •  ・ICU-AWはICUの在室日数の延長や人工呼吸器期間の延長,死亡率の上昇が起きやすい.
  •  ・ICU-AWに対する有効な治療法は確立されておらず,予防的な早期介入が期待されている.

     
1-表1.png
表1 ICU-AWの診断基準

3.急性期ならではの合併症と廃用症候群に対するリハビリテーションの効果

  •  ・術後の侵襲や人工呼吸器管理などに伴う安静臥床を要する患者であっても,術後早期から離床を促す「fast-track rehabilitation」の実践は,合併症の予防と在院期間の短縮に寄与する.
  •  ・過度な安静臥床は,呼吸器関連の合併症や褥瘡,廃用症候群の発生に繋がりかねない.
  •  ・リハビリテーションに伴うリスクとベネフィットを常に考え,リスクマネジメントを行いながらも,適切な負荷量・頻度・内容のリハビリテーションを提供することが必要である.
     

4.今後の人生を左右する急性期リハビリテーション

  •  ・急性期リハビリテーションに対するエビデンスは蓄積されつつあり,機能的改善のみならず生命予後の延長や疾患予防に寄与する可能性も報告されている.急性期におけるリハビリテーション的介入が,患者のその後の人生を左右するといっても過言ではない.
  •  ・一方,後遺症の重症度によっては回復期・生活期と,今後長い間リハビリテーション支援を受けながら生活する必要がある患者も多くいる.
  •  ・急性期のリハビリテーションは,その後の長いリハビリテーション生活の第一歩となる可能性もあり,急性期リハビリテーション専門職にはリハビリテーションに対する捉えかたをよきものとする使命がある.
     

5.急性期でも(だからこそ)求められる退院支援

  •  ・急性期患者は必ずしも回復期病院へ移行するとは限らず,そのまま自宅退院する患者も多い.
  •  ・急性期病院から自宅へ退院する患者がすべて入院前の生活機能の状態に改善するわけではない.
  •  ・患者の身体的・心理的・社会的支援を意識したうえで退院支援を行うことが重要である.
  •  ・限られた入院期間中に生活情報を収集し,必要な支援を見極め,医療スタッフはもちろん,在宅・介護領域のスタッフとの情報共有が必要となる.
  •  ・急性期リハビリテーション専門職には,生活期リハビリテーションの視点や介護保険サービスの知識・情報を持っておく必要がある(ここも参照➡『PT・OT・STポケットマニュアル』Ⅱ章4:35頁,Ⅱ章5:39頁).

参考文献

1)日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会(編):脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画,2021
2)Stevens RD, et al:Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness:a systematic review. Intensive Care Med 33:1876-1891, 2007
3)Stevens RD, et al:A framework for diagnosing and classifying intensive care unit-acquired weakness. Crit Care Med 37:S299-S308, 2009

回復期リハビリテーションの基本を理解しよう

▼Focus Point

  •  ●回復期リハビリテーションは,チーム医療がカギとなる
  •  ●チーム医療として,「(訓練室で)できるADL」を「(病棟・自室で)しているADL」に転化していこう
  •  ●退院支援は,入院時から始めていくようにしよう

1 回復期リハビリテーションのキホン

  •  ・回復期リハビリテーションの目標は日常生活機能の改善だが,必ずしもすべての患者が満足のいく回復を得られるとは限らない.
  •  ・たとえ後遺症が残ってもその人らしい生活を支援するかかわりも大切である.
  •  ・回復期のリハビリテーションは,医師を始め,PT,OT,ST,看護師,栄養士,薬剤師,医療ソーシャルワーカー,臨床心理士,義肢装具士などの専門職からなるチーム医療である.
  •  ・各職種の専門性を最大限に発揮するためには,お互いの専門性を理解・尊重し合うことが求められる.
  •  ・患者を中心として多職種が目標・課題・アプローチを共有する必要がある.

2 回復期リハビリテーションの実際

1.回復期リハビリテーションで必要な視点

  • a 亜急性期としての理解 
  •  ・昨今,病院の機能分化促進や病床回転率向上が求められ,回復期病院においても重症患者の受け入れ割合が増している.
  •  ・急性期を脱したとはいえ,リスクマネジメントに対する配慮は必要である(ここも参照➡『PT・OT・STポケットマニュアル』Ⅱ章6:44頁).
     
  • b 「できる」を「している」へ
  •  ・回復期リハビリテーションでは,リハビリテーション訓練によって獲得した「できるADL」を病棟生活上の「しているADL」にする.
  •  ・これには看護・介護の病棟スタッフとリハビリテーションスタッフの連携が肝心となる.
     
  • c 退院支援
  •  ・回復期リハビリテーションでは,退院前に退院先となる自宅や家族宅などへリハビリテーションスタッフが同行して,住環境や介護力を評価し,家屋改修や支援サービスプランの検討を行う.
  •  ・患者・家族が安心で自立した生活を送れるよう,退院後の生活像を具体的に描くことが求められる.


2.回復期リハビリテーションの流れ

  • a 入院時評価
  •  ・入院初日は,医師の指示に基づき,リスクマネジメントに配慮する.
  •  ・患者のADLの評価は分業的ではなく,看護・介護スタッフを含め,多職種協働で行うとよい.
  •  ・ADL自立度や具体的な介助方法について,リハビリテーションスタッフと病棟スタッフで統一を図る.
  •  ・ADL自立度について,スタッフへの周知が十分なされない場合,転倒・誤嚥などのリスク発生に繋がるばかりでなく,過介助によって自立度が不要に制限されることも起こりうる.
  •  ・スタッフ周知の効果的な方法として,ベッドサイドにADL自立度や介助方法を掲示するとよい.
  •  ・移動中の転倒・転落事故も多く,トイレなど移動先でのADL自立度を把握する必要性も高い.そのため,杖や車椅子などの移動手段にも簡易的にADL自立度を示す小さな札などをつけることも勧められる(図1).
  •  ・入院時評価では,今の状況の共有だけでなく,機能評価から予後予測を行い,チーム内で大まかな目標設定まで行えるとよい.
  •  ・各専門職はチーム目標をもとに,どのような評価を行うべきか具体的に考える.
     
1-図1.png
図1 移動手段にADL自立度を簡易的に示した例
  • b カンファレンス
  •  ・初回カンファレンスは入院早期に開催されることが多い.
  •  ・初回カンファレンスでは,各専門職からの評価結果を共有する.
  •  ・入院時からの変化量などから,予後予測を再度行い,チームとしての問題点・目標設定(時期・内容)・目標達成に資するプランの検討を行う.
  •  ・これを軸に,各職種が担う役割と内容について明確にしておく.
  •  ・自宅退院の可能性が見込める場合は,入院時家屋訪問や,家族に家屋の写真を依頼する.
  •  ・入院早期から自宅環境を想定した訓練を提供するため,医療ソーシャルワーカーと連携する.
  •  ・定期的なカンファレンスでは,各職種からの評価・進捗の報告をもとに,方向性の見直しを図る.
  •  
  • c 定期カンファレンス以外の情報共有
  •  ・定期カンファレンスの場だけでなく,病棟スタッフとの日常的な情報共有が重要となる.
  •  ・「できるADL」を「しているADL」に反映させることが患者の生活機能の改善に繋がる.
  •  ・リハビリテーションスタッフは病棟に滞在する時間を多く持ち,診療記録の記載なども病棟で行うことにより,自然と情報共有は図られやすくなる.
  •  ・「できるADL」の状況を病棟スタッフに周知するため,リハビリテーションを病棟で行い,実際の介助方法の指導などを直接的に伝えることにより,病棟スタッフの理解が促進され,「しているADL」に反映されやすい.
  •  ・リハビリテーションスタッフは日々評価的視点を持ち,ADL自立度や介助量に変化を起こしていくことが必要である.
  •  ・ADL自立度が滞らないよう,フロアのリハビリテーションスタッフと病棟スタッフで入棟患者のADLの見直しを定期的に行う場を設けるなど,システムとして抜けが生じない工夫をするとよい.
  •  ・ADL自立度や介助量変更の際には,ベッドサイドの掲示物の変更などを忘れず,実際のADLと周知のために掲示されたADL状況に乖離が生じないよう注意する.
  •  ・ADLのみならず,IADLに対しても目を向けた訓練を行う(ここも参照➡『PT・OT・STポケットマニュアル』Ⅳ章13:168頁).
  •  ・個別訓練以外の多くの時間にも自主トレーニングを行ってもらうよう,病棟スタッフと協力して環境を設定するとよい.
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  • d 退院前調整
  •  ・家屋評価や介護指導場面では,ケアマネジャーが同席することも多い.介護保険サービスの調整役であるケアマネジャーにケアプランの立案を一任することは勧められない.
  •  ・回復期リハビリテーションスタッフは,入院中の経過を報告するだけではなく,ケアプランに反映されるような提案をケアマネジャーに行えることが理想である.
  •  ・「通所リハビリテーション利用」や「訪問リハビリテーション利用」など,サービス利用の提案で終わるのでは意味がない.生活目標を具体的にあげ,その目標を達成するために,通所施設ではこのような訓練をこのくらいの負荷量で行ってほしく,通所リハビリテーションとして理学療法をプランに組み込んでほしいといった,積極的かつ具体的な提案ができるとよい.
  •  

参考文献

1)角田 亘(編):回復期リハビリテーション病棟マニュアル.医学書院,2020

 

リハ現場での「これは困った!」に応える、先輩療法士からのベストアドバイス

<内容紹介>入職したて~数年の若手の理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)にとって、毎日の臨床は不安と戸惑いの連続といえる。本書は、PT・OT・STの3職種が共通して使える内容を基本とし、この1冊を持っていれば、リハビリテーション医療の常識はもとより、患者さん対応や疾患ごとの評価、治療のコツについて、困った時に手軽なサイズで容易に調べることができる。評価に必要な重要スケールも豊富に収載。

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