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『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚外用療法』より

安部正敏

2023.05.12

 皮膚疾患の治療において,外用薬はただ塗ればよいわけではありません。塗り方,用量,基剤の使い分けetc……といった基本を押さえた上で用いる必要があります。『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚外用療法』では,最低限理解しておきたい知識をコンパクトに解説。日常診療でよくみる疾患に関しては,診断・治療プロセスから具体的な処方例までを示します。

 「医学界新聞プラス」では,本書の中から4つの項目をピックアップ。第1回,第2回で適切な選択をするために知っておきたい外用薬の構造を紹介し,続く第3回,第4回で「痒疹」「脂漏性湿疹」を例にとり,外用薬の具体的な使い方を解説します。


 

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 臨床症状は,脂漏部位に生ずる粃糠状鱗屑を付す紅斑が主体である( 図1 )。臨床症状を正しく把握し,まず確実な診断を付けたいものである。
 本症は,皮膚分泌機能異常が指摘されているが,最近ではPityrosporum ovaleの関与が推定されている。新生児期から乳児期にかけては生理的に脂腺機能が亢進するために,乳児脂漏がみられる。自然軽快が期待できるため,主としてスキンケア指導を行う。一方,思春期以降に生ずる成人期脂漏性湿疹は長期に慢性の経過をたどるため,スキンケア指導とともに抗真菌薬外用などにより治療する。

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図1  脂漏性湿疹

診断・治療のプロセス

外用療法

 治療のスタンダードは外用療法である。成人例ではステロイド外用を行う。また,紅斑が目立たず,瘙痒などの自覚症状が強くない場合にはイミダゾール系抗真菌外用薬を選択する。ステロイドと比較し,長期に使用しても問題はない。
 被髪頭部においては,塗布が容易でアドヒアランス維持が期待できるローション剤を第一選択とする。ステロイド,抗真菌薬ともにローション剤が存在する。
 ステロイド外用薬を用いる場合,その強さは症状により判断すべきだが,まずは弱めのmildランクから開始するとよい。ただし,効果があるからといって漫然と使用してはならない。また,鱗屑(いわゆるフケ)が主症状で,紅斑が目立たず,瘙痒などの自覚症状が強くない場合にはイミダゾール系抗真菌ローションを選択する。
 顔面や外陰部においては,夏場に,患者が軟膏のベトつき感を訴える場合には,塗布が容易でアドヒアランス維持が期待できるクリーム剤やローション剤を用いてもよい。顔面や外陰部においても鱗屑が主症状で,瘙痒などの自覚症状が強くない場合には抗真菌クリームを選択する。
 体幹ではステロイド軟膏を第一選択とする。夏場に,患者が軟膏のベトつき感を訴える場合は,塗布が容易でアドヒアランス維持が期待できるクリーム剤やローション剤でもよい。強さは,短期間であれば強いレベルを用いても差し支えないが,症状の軽減とともに適時レベルダウンする。
 乳幼児例の場合,まずはスキンケアを重視する。痂皮は親水軟膏やオリブ油を用いて除去し,その後できるだけ刺激の少ない石鹸で洗浄する。液体石鹸の場合,少量をとり十分泡立てて洗うことが重要である。また,紅斑などの炎症所見がある場合は,ステロイド軟膏を用いる。ただし,乳幼児は皮膚の厚さが薄く,吸収もよいので,強さはmildランクまでとすべきである。

生活指導

 本疾患は,特に成人例の場合,長期間にわたることもあるので,生活指導も大切である。皮脂を洗い落とすための保清指導が重要である。しかし,あまりに洗浄を強調しすぎると石鹸を過剰に使ってしまい,逆にドライスキンとなる場合もあるので注意が必要である。シャンプー,リンスは適切な製品を使用すべきだが,最近では抗真菌薬を配合した製剤が登場しておりケアに有用である。

アドヒアランス向上のコツ

 ところで,脂漏性湿疹の治療として重要な点は,何より外用療法を習慣づける点である。外用療法のアドヒアランスを向上させるコツは様々であろうが,日常生活の習慣の1つに組み込む工夫は大変有用である。事実,尋常性乾癬においてはステロイドシャンプーが保険適用されており,有効性が高い。
 コムクロ®シャンプー0.05%は,クロベタゾールプロピオン酸エステルを0.05%含有する頭部の尋常性乾癬,湿疹・皮膚炎治療に効能・効果を有するシャンプー剤である。最近になって,湿疹・皮膚炎群にも保険適用が拡大されたため,これまで難治であった頭部への治療が格段に進化した。本剤は使用方法が特徴的であり,“1日1回乾燥した頭部の患部を中心に適量を塗布し,約15分後に水または湯で泡立て洗い流す”というものである。
 15分間作用させる方法をshort contact therapy(短時間接触療法)と呼び,ステロイドの接触時間を短縮し,副作用の発現を抑えることで,最大の効果を発揮することが期待できる。
 外用療法は煩雑であり,患者の治療アドヒアランス低下につながってしまう。日常の行為のなかで治療を終わらせることは,アドヒアランス向上に寄与するものである。
 脂漏性湿疹に対しては,保険適用を有するシャンプーは存在しないが,以前よりコラージュフルフルシリーズ(持田ヘルスケア)が市販されており,脂漏性湿疹のケアには大変有用である。
 コラージュフルフルシリーズは,日本で初めてミコナゾール硝酸塩を配合したシャンプーである。かつてはシャンプーのみにミコナゾール硝酸塩が配合されていたが,のちにリンスにも配合した製品が開発されている。シャンプーとリンスには,使用感により「うるおいなめらかタイプ」と「すっきりさらさらタイプ」がある。近年では,従来のシャンプー・リンスに加え,男性向けにメントールが配合されたスカルプシャンプーも発売され選択の幅が広がった。
 脂漏性湿疹は男性に多いことからも,特に夏場はスッキリした洗い心地のシャンプーが重宝されよう。事実,洗髪時に用いるアドヒアランスのよさから患者にも好評である。
 また,最近では消臭有効成分として“緑茶乾留エキス”を配合した製品も発売されている。緑茶乾留エキス内に含まれるポリフェノールが消臭効果をもたらす工夫がなされている。
 抗真菌薬が配合されていない脂漏性湿疹用のシャンプーも多く発売されている。NOVヘアシャンプー(常盤薬品工業)には過剰な皮脂を落とす成分であるラウロイルメチルアラニンナトリウムやラウラミドプロピルベタインなどの成分が配合されている。外用療法のアドヒアランスが悪い患者には試みる価値のある補助ケア方法であろう。

処方例

外用療法

| 1 | 顔面,外陰部病変
 以下を必要に応じて併用する。
 ▶ ケトコナゾールクリーム2%(ニゾラール® クリーム) 1日1~2回 塗布
 ▶ ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏0.1%(ロコイド® 軟膏) 1日1~2回 塗布
 難治なら
 ▶ プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏0.3%(リドメックス® コーワ軟膏) 1日1~2回 塗布
 改善したら
 ▶ クロベタゾン酪酸エステル軟膏0.05%(キンダベート® 軟膏) 1日1~2回 塗布

| 2 | 頭部病変
 以下を必要に応じて併用する。
 ▶ ケトコナゾールローション2%(ニゾラール® ローション) 1日1~2回 塗布
 ▶ クロベタゾールプロピオン酸エステルシャンプー0.05%(コムクロ® シャンプー) 1日1回 short contact therapy(薬剤塗布15分後に洗い流す)
 ▶ ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルローション0.05%(アンテベート® ローション) 1日1~2回 塗布
 難治なら
 ▶ クロベタゾールプロピオン酸エステルローション0.05%(デルモベート® スカルプローション) 1日1~2回 塗布
 改善したら
 ▶ 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾンローション0.1%(パンデル® ローション) 1日1~2回 塗布


 

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外用療法のコツを凝縮してお届けします!

<内容紹介>皮膚疾患を治療するにあたって、最低限押さえておきたい外用療法のポイントをわかりやすく説き起こした1冊。塗り方、用量、基剤の使い分け、古典的外用薬、ドレッシング材、洗浄剤、化粧品、市販衛生材料など、外用療法の基本から解説。新薬など診療の幅を広げる外用薬は特論として取り上げた。日常診療でよくみる疾患は、診断・治療プロセスから具体的な処方例までコンパクトにまとめている。臨床現場で今すぐ使える知識が満載!

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